『羊たちの沈黙』のレクター博士から『アンパンマン』のバイキンマンまで、物語に登場する「悪役」は、主人公を引き立てる重要なキャラクターの1つ。最終的には日の目を見ないまま主人公に打ち倒されることを運命づけられている存在である。それをわかっていながら、「悪役」にすっかり魅了されている自分にふと気がつくことがある。主人公より悪役の思わぬ行動に涙したり、悪役のキメ台詞を覚えていたり…。今回は渋谷で上映中の悪役を取り上げて、そんな「悪」の魅力を探ってみたい。
現在渋谷シネパレスで公開されている『ダークナイト』は、『バットマン』シリーズの最新作。アメリカで現在興行成績4週連続1位の記録的なヒットとなった本作に登場する悪役「ジョーカー」は、本作出演後に急死したヒース・レジャーが「まるで血管を破裂させているよう」に演じたとのことで話題になっている。「ジョーカー」は、世界のつまらなさや平凡さを自らの犯罪でぶち壊すのが信条で、ただ世界が燃えるのを、まるでジョークのように楽しむ。耳まで裂けた赤い口に白塗りの皮膚は、笑顔を絶やさない道化師ピエロのようだ。葛藤も孤独も漂わない圧倒的な「悪」を前に、ただただ僕らは圧倒され、混乱するばかりだ。
圧倒的な強さで揺るぎない「悪」を見せつける『ダークナイト』から、数奇な運命への哀しみが「悪」を駆り立てる『赤んぼ少女』、「悪」を表面的になぞることで笑いに引き上げた『デトロイト・メタル・シティ』。あなたにはどの「悪」が響いてくるだろう?
- タイトル:
- ダークナイト
- 上映場所:
- 渋谷シネパレス1・2
- 上映期間:
-
2008年8月9日〜
10:00/13:10/16:20/19:30 - 監 督:
- クリストファー・ノーラン
- 出 演:
- クリスチャン・ベイル、ヒース・レジャー、アーロン・エッカート
『ダークナイト』は、ジョーカーのキレまくりの演技を筆頭に、数々の過去作からの“進化”と“挑戦”に満ちている。登場キャラクターのダークな心理描写まで描きこまれたプロット、アクション・シークエンスの大幅なスケールアップ、ゴッサム・シティーの大胆な設定変更??。監督クリス・ノーランが、ただひとつ望んだのは「同じことを繰り返したくない」ということだけ。今作のタイトルから「バットマン」の冠が抜けたことも、その決意の表れだ。
のっけからド迫力のスケールとバイオレンスで展開されるジョーカーの銀行襲撃シーン。
上映開始6分で、あなたのバットマンに対するイメージは完全に覆される。
- タイトル:
- 赤んぼ少女
- 上映場所:
- シアターN 渋谷
- 上映期間:
-
2008年8月2日〜2008年8月29日
11:40/14:00/16:20/18:40 - 監 督:
- 山口雄大
- 出 演:
- 水沢奈子、野口五郎、斎藤 工、板尾創路、堀部圭亮、亜紗美、生田悦子、浅野温子
孤児院で育った15歳の美少女・葉子が、生家である南条家に引き取られることになった。森に囲まれた広大な敷地に佇む洋館、初めて会う両親との新生活。葉子が部屋に一人でいるとき、突然何者かに足を掴まれる。確かに人間の手の感触。それは“タマミ”という、もう一人の南条家の娘だったのだ。醜い容姿、赤んぼのまま成長できないジレンマ、自分の場所を奪った葉子への嫉妬…多くの読者の心に強烈な記憶を残した“タマミ”が跳んで、回って、襲いかかる!
- タイトル:
- デトロイト・メタル・シティ
- 上映場所:
- 渋谷シネクイント
- 上映期間:
-
2008年8月23日〜
10:30/12:45/15:00
/17:15/19:30/21:30 - 監 督:
- 李闘士男
- 出 演:
- 松山ケンイチ、加藤ローサ、秋山竜二、細田よしひこ、大倉孝二、岡田義徳、美波、松雪泰子、ジーン・シモンズ
心優しき青年・根岸崇一は、オシャレな渋谷系ポップソングミュージシャンを夢見て大分から上京するも、ふとしたことから奇抜なメイクと演奏で人気を博す悪魔系デスメタルバンド「デトロイト・メタル・シティ」(通称DMC)のギターボーカル「ヨハネ・クラウザーII世」として活躍する羽目になってしまう。オシャレとポップソングが大好きな憧れの美女・相川さんにはそのことをひた隠して活動を続ける根岸青年だったが、DMCのデビューシングル「SATSUGAI(殺害)」が爆発的なヒットとなり、その意思とは裏腹にクラウザーさんはどんどんカリスマとなっていく。