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3月20日から5月6日まで、たばこと塩の博物館では、「西アジアの遊牧民の染織 〜塩袋・生活用袋物とキリム〜」の展覧会を開催している。この展示は、アジアの西の果ての砂漠の各所を巡り収集された、遊牧民の染織物100点余りにより構成されている。伝統的な遊牧民の染織りは、天然色で染まった糸が手作業で編み込まれており、刻まれた文様の1つ1つからは、織り手の個性あふれる表現を味わうことができる。

一方NANZUKA UNDERGROUNDでは、4月12日〜5月11日まで、姉川たく個展「秘密の寓話」が開催されている。空間演出からアニメーションまで多岐のメディアで活躍中の姉川たく氏が、2002年から好んで用いているツールは、「刺繍」。今回のアートワークは、ドローウィングに刺繍を重ね合わせて表現されおり、平面に浮き上がる糸の繊細な表情が楽しめる。

現在西アジアの遊牧民には定住化の動きがあり、染織りにも機械が導入されることが多くなった。そんな中で、「下絵や教本とてなく、思いのままに描かれたそれら(かつての時代の染織り)からは、型通りのデザインやきれいな正対称模様を見慣れた目には、その大胆さに驚かされ、圧倒されるばかりである」(※1)とは、今回の展覧会へ多くのコレクションを提供している丸山繁氏(ギャラリーササーン代表)の言葉である。その言葉が、そのまま姉川たく氏の個展へむけたコメントともなっていることがおもしろい。
プリミティブな「表現」への衝動が、時代や環境を超える瞬間を、自分の目で確かめてみたい。

※1『丸山コレクション 西アジア遊牧民の染織り〜塩袋・生活用袋物とキリム〜』発行:たばこと塩の博物館より

ホリジン(鞍袋)/西イラン/バクティアリ族/1920年頃/羊毛・木綿/1320×710mm(丸山コレクション)

タイトル:
西アジアの遊牧民の染織
〜塩袋・生活用袋物とキリム〜
開催場所:
たばこと塩の博物館
開催期間:
2008年3月20日〜2008年5月6日

今回は、たばこと塩の博物館所蔵の塩袋に加え、もはや現地でも入手不可能な百〜数十年前のオールド、アンティークの毛織物を集めた「丸山コレクション(初公開)」の中から、塩袋や鞍袋(ホリジン)など、生活のさまざまな場面で用いられる袋物を中心に、草木染めの深い色合いと各部族の誇りを織り込んだ百点余の作品を選ばれ、展示される。また、各部族の典型的な絨毯やキリム(平織物)、食卓布(ソフレ)なども交え、精緻な手わざと意匠の世界が紹介される。荒涼とした乾燥地に根付いた遊牧という文化が生み出した、私たち農耕民とは異なる生活用具の放つ“迫力”と“美しさ”に触れてみてはいかがでしょう。

キリム(平織物)/南イラン/カシュガイ族/1950年頃/羊毛/2710×1710mm(丸山コレクション)

Taku Anekawa [Aecret Allegory] 680×490mm Mixed Media on Fabric 2008

タイトル:
姉川 たく個展「秘密の寓話」
開催場所:
NANZUKA UNDERGROUND
開催期間:
2008年4月12日〜2008年5月11日

姉川の独創性は、1999年に話題となった人気子供番組「ポンキッキーズ」における「なぞのやさい星人あらわる」において大きな脚光を浴びたように、「奇を衒う」というプログラミングを生まれながらに持ち合わせている点にある。姉川の作品には、「本当は恐ろしいけど、どこか笑えてきてしまう」といったような奇異な場面が頻繁に登場する。人の深層心理に、ほんの僅かに触れて、また逃げ去るような、絶妙な空気感を持つ姉川の作品は、計算された悪戯心と天然に形成されたフェチズムの絶妙なバランスで成立しているのかもしれない。

「秘密の寓話が語られる時、喜びは痛みへ、悲しみは恍惚へと昇華される。細部に宿る精霊たちは、やがて脳の王国で踊り出す。秘密の痛みの中に、物語を閉じ込めて、僕の寓話は語られる。」今回の個展に寄せて、姉川さんが謳った詩より

USB(Universal Serial Bus) 2008 mixed media on canvas 630x930mm


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