近年、ドキュメンタリー映画の周辺が活気づいている。撮影・編集機材の普及と簡略化により、誰でも手軽に制作できるようになり、ミニシアターなどで特集上映が組まれる機会も目立つ。最近のドキュメンタリー映画の中で最もユニークなものは、ビースティ・ボーイズが自分たちのライブ会場に訪れたファン50人にビデオカメラを渡し、好き勝手に撮らせた映像を編集した『ビースティ・ボーイズ 撮られっぱなし天国』だろう。アート、音楽、デザイン、自然、社会問題など、様々なテーマがあるドキュメンタリー映画において、やはり被写体として最も魅力的なのは「人」。故人の過去の映像や知人の証言などを組み合わせて作られた作品や、ある人物の生き様を現在進行形で追った作品など、多彩な切り口であらゆる人物のドキュメンタリーが撮られている。
渋谷で公開中のドキュメンタリー映画の中で今回取り上げるのは次の7作品。”日本式ドブ板選挙”の舞台裏を描いて世界中の映画祭で喝采を浴びた『選挙 CAMPAIGN』、ドキュメンタリー映像作家・土本典昭をドキュメントした『映画は生きものの記録である 土本典昭の仕事』、近代建築の巨匠、フランク・ゲーリーの独創性の秘密を解き明かす『スケッチ・オブ・フランク・ゲーリー』、世界的チェリスト・ロストロポーヴィチの人生を通して人間愛と芸術の歴史を描いた『ロストロポーヴィチ 人生の祭典』、異形の舞踏家・田中泯の身体表現に密着した”ダンス・ロード・ムービー”『ウミヒコヤマヒコマイヒコ』、義足のアスリートの姿に”揺ぎない信念、前向きな姿勢、弛まない努力”を見る『エマニュエルの贈りもの』、家族の闘病生活を個人的な視線から記録した『チーズとうじ虫』。ある時代のムーブメントを象徴する人物のドキュメンタリーもあれば、極めてささやかなプライベートフィルムのようなものまで、それこそ人の数だけドキュメンタリー映画の形がある。やはりドキュメンタリー映画の原点は「人」に尽きるのだろう。

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戦後50年間、ほとんど途切れることなく日本の政治を支配してきた自民党。『選挙』は、この巨大政党がいかなる戦略と方法論を駆使して「政治の素人」を「公認候補」に仕立て上げ、選挙戦を展開するのか、裏も表もつぶさに観察したドキュメンタリー。「ドキュメンタリー映画『選挙』はナレーション、音楽、説明テロップ一切無しの『観察映画』ですが、あたかも自分が候補者になったかのような疑似体験ができる『体感映画』でもあります。選挙につきものの疲労感も含めて、ぜひ選挙を体感してください。」(想田監督) |

映画『選挙 CAMPAIGN』より
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ドキュメンタリー映画の巨匠、土本典昭。本作はその映画と、見守り続けてきた「水俣」への思いを余すことなく伝える作品。「君は土本典昭を知っているか? 日本が世界に誇るドキュメンタリー映画の巨匠、土本典昭。本作はその映画と土本監督の人柄、見守り続けてきた「水俣」への思いを余すことなく伝えるドキュメンタリー映画です。ドキュメンタリー映画作家をドキュメントする、希有な映画です、必見。」(宣伝担当:原田さん) |

映画『映画は生きものの記録である 土本典昭の仕事』より
![]() ©MIRAGE ENTERPRISES,SP ARCHITECTURE PRODUCTIONS LLC 2006/WISEPOLICY |
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近代建築の巨匠フランク・ゲーリー。代表作であるビルバオのグッゲンハイム美術館をはじめロサンゼルスのディズニーシンフォニーホールなどを手がけて注目を集める彼の創作過程やプライベートを追ったドキュメンタリー。いかにしてあの独創的な建築物が創り上げられるのか…、カメラはゲーリーのスタジオ、建築現場、自宅に入り長時間にわたって撮影し、その真相に迫る。 |

映画『スケッチ・オブ・フランク・ゲーリー』より
![]() ©フィルムカンパニー・ステルフ、スタジオ・ベーレク、スヴァログ・フィルム |
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チェロの巨匠ロストロボーヴィチ。彼の妻でロシアのボリショイ劇場を席巻したソプラノ歌手ヴィシネフスカヤ。激動の20世紀を生き抜いてきた二人。彼らの人生を通じて紐解かれる人間愛と芸術の歴史を描いたドキュメンタリー。 |
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「たそがれ清兵衛」における存在感で、映画界に衝撃を与えた舞踏家・田中泯。職業は農民、ダンスは命そのものという彼が踊りの始原を求めて旅に出た。これは、『田中泯の身体』をシナリオとした初めてのダンス・ロード・ムービーである。 |
![]() ©2005 First Look Media, inc All Rights Reserved. |
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右足に重度の障害を持ちながらも、母国の障害者に対する偏見をなすすべなく、日々精力的に活動を続ける一人の青年、エマニュエル・オフィス・エボワ。 障害を持つ者も、社会に貢献できるという信念のもと、片足のみで自転車によるガーナ横断を決行し、ガーナのみならず世界中に大きな感動を与えた。 |
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闘病する母を看病する為に帰省した娘は母の病気がなおることを信じながら「たいくつしのぎに、あるいは遊び道具として」カメラを回し始めた。記録するごとに濃密に漂い始める最後の瞬間は祖母と母と娘の濃密な生の中に浸食していく。そして季節は刻々と移ろい、残されたものは母の生の記録だった。 |