サッカーファンの聖地、スクランブル交差点
サッカーなどの国際マッチがあると、渋谷にたくさんのサポーターが集まるのは、今や見慣れた光景だ。阪神タイガースファンの道頓堀と同じように、渋谷のスクランブル交差点はサッカーファンの聖地のような場所となっている。過去のW杯では、サムライブルーのユニフォームを着用したサポーターがスクランブル交差点に集結し、ハイタッチをしたり、応援歌を歌ったり、「お祭り騒ぎ」となる姿が見られた。最近は、そのあまりの盛り上がりぶりに、警察や機動隊も待機。また、お祭り騒ぎを撮影しようとメディアも殺到し、サッカーの国際試合の当日には異様なほどの騒然とした雰囲気が漂うようになった。
こうした応援は他の大都市でも見られるが、「サッカーなどの応援など、大勢で盛り上がりたい街」というアンケート調査によれば、やはり、「渋谷」(10.9%)が断然トップ。以下、大阪市(9.1%)、札幌市(7.7%)、名古屋市(7.5%)がつづく。
単に「渋谷には普段から人が多いのでは?」という疑問もあるかもしれないが、駅から1キロ圏内にある居酒屋の軒数を調べたところ、銀座・有楽町、新宿、秋葉原に次いで4位。またスポーツバーの軒数(市区町村別)では港区、新宿区に次いで3位と、決して集客するための「インフラ」が整っているわけではない。
2006年サッカーW杯ドイツ大会、応援の熱狂冷めやらぬサボーター。
渋谷にサッカーファンが集まるこれだけの理由
週末、代々木公園では様々なストリートパフォーマンスが繰り広げられている。
ではなぜ、渋谷はサッカーなどで、これほど盛り上がるのだろうか。その1つの理由は「代々木公園」や「代々木第一・第二体育館」など、東京オリンピック開催以来、スポーツ文化を育み、スポーティーでカジュアルな雰囲気が街全体に漂っていることが挙げられる。代々木公園ではスポーツイベントに限らず、アースデイやタイフェスをはじめ、ストリートライブなど大小様々な野外イベントが開催されるため、「イベント=渋谷」というイメージが擦りこまれている人も多いのではないだろうか。そのうえ、近年は、東急東横店西館屋上やみやした公園などの駅周辺にフットサルコートもでき、ますますサッカー色が色濃い街になった。サッカーで盛り上がりたい街として渋谷が選ばれるのは不思議ではない。
他にも、コンサートホールやライブハウス、映画館など、エンターテインメント施設が数多く集積しており、そうしたイメージが街全体にわくわく感を与え、「盛り上がり気分」を醸成する要因となっているとも考えられる。さらに渋谷は、ストリートレベルでカルチャーが発信されていることや、また大都市でありながら個性的な個人オーナー店が多く、人との「交流」を求めて訪れる人も少なくない。そのため、誰かと興奮を共有したいお祭りやイベント時には、まるで呼び寄せ合うように渋谷に人が集まってくるのではないだろうか。特に、若者の間では、サッカーはスポーツであると同時に「カルチャー」であるという意識が強いように見受けられる。カルチャーを共有する街として、これまでに渋谷は大きな役割を果たしてきたのはよく知られている。
左手がスクランブル交差点、右手の東急東横店屋上にフットサルコートがある。
もう一つ、シンボル的な場所として、日本、いや世界的な名所としてスクランブル交差点が選ばれていることもあるだろう。渋谷駅周辺の地形をみれば、道玄坂、宮益坂などの坂に囲まれ、その谷底に位置するのがスクランブル交差点である。いわゆる、「スリバチ」と呼ばれるユニークな地形であることから、居酒屋やスポーツバーなど各店に分散しスポーツ観戦や応援で盛り上がった人びとが、試合終了のホイッスルと共に坂から谷をめがけて一気に動き出し、最終的に駅前に殺到する。そのため、人口密度が高まり、結果的に他エリアより盛り上がっているというイメージを与えやすい。その状況をまたメディアが取り上げ、結果、人がより集まってくるという構造も生まれていると思われる。
いよいよワールドカップが迫ってきた。すでに興奮が止まらないという人もきっと多いのではないだろうか。試合当日、渋谷はさぞ盛り上がるに違いない。ただし、喜びを体中で表現するのはよいが、ハメを外しすぎて周囲に迷惑をかけたりすることは、くれぐれもないように……。
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