■インタビュー・黒澤作品を知らない若者が観ても満足できるでしょうね
・“21人斬り”は相当の迫力。殺陣へのこだわりが光る作品
・殺陣のパフォーマンスに方向転換したら、観客の反応が変わった
・つねに未成熟な渋谷の街は、僕らの舞台と感覚的にマッチする
■プロフィールおおはま・こたろうさん 1973年東京都生まれ。大学卒業後、劇団俳小養成所に入所。山崎哲演出『東海道四谷怪談』のオーディションで山崎氏の目にとまり、主演に抜擢されるなど、舞台や映画を中心に活動。剣道にも造詣が深く、殺陣指導も行う。2002年、「48BLUES(ヨンパチブルース)」を設立。演出も兼任する。
黒澤明監督の代表作の一つに挙げられる『椿三十郎』。主演・三船敏郎の野性味あふれる存在感、ほとばしるような殺陣の迫力、さらにストーリーの面白さが際立ち、今後も名作として語り継がれる作品です。約半世紀の時を超え、この作品のリメイクに挑んだ森田芳光監督は、主演に織田裕二を据え、脚本やカット割はそのままに、全く異なる印象の作品に仕上げています。殺陣や歌舞伎の様式を取り入れたスタイリッシュな作風が特徴の演劇集団「48BLUES(ヨンパチブルース)」のリーダー・大濱琥太郎さんは、もともと大の黒澤ファン。両作品の異なる魅力など、感想を存分に語っていただきました。
--映画を観た感想を聞かせてください。
この映画の上映を知って、まず感心したのが黒澤・三船という最強コンビに立ち向かう勇気。しかも、脚本も流用だから「どうぞ、比べてください」と言っているようなものでしょ。僕も黒澤作品をDVDで観直してから鑑賞しました。率直な感想としては、さすがに三船さん演じる椿三十郎の野性味あふれるインパクトにはかなわないけど、グイグイと仲間を引っ張る前作に比べ、少し協調的な織田さんの姿が現代的で共感できました。三船さんとはまた違った味わいの迫力も感じられましたしね。もともと、脚本がしっかりと練られているから、エピソードが面白いし、セリフにもリアリティがある。黒澤作品を知らない若者が観ても満足できるエンターテイメント作品に仕上がっているのではないでしょうか。とくに、『水戸黄門』などテレビドラマでおなじみの定型的な時代劇しか知らない若者が観て、「こんな時代劇もあるのか」と目覚めてくれると、殺陣を取り入れたパフォーマンスをしている僕としても嬉しいですね。
--とくに印象的なシーンはありましたか?
織田さんが、豊川悦司さん演じるライバルの室戸半兵衛と斬り合うラストシーン。あの場面は外せないでしょう。それから、全編に緊張感が漂うなか、時おり、笑いを誘うシーンが差し挟まれるでしょ。その落差が上手いなぁと、改めて思いましたね。とくに、今作でも“押入れ侍”は、かなり良い味を出していました(笑)。それから、一風変わった存在感のある奥方の言葉も印象的でしたね。とりわけ、「抜き身の刀は切れ味は良いが、本当に良い刀は鞘に収まっている」という一言は、なかなか含蓄があって現代にも通じるのではないでしょうか。そして、最後に三十郎が仲間と別れるシーン。最後の最後に発する、あの短い言葉は「カッコいい」の一言に尽きるでしょう。
--織田さんの殺陣の演技は、どのようにご覧になりましたか。
今作で時代劇に初挑戦した織田さんは、2〜3ヶ月で殺陣を身に付けたということでしたが、「かなり練習しているな」という印象を受けました。最大の見所の一つである“21人斬り”のシーンは相当の迫力ですよね。相手との間合いが近く、失敗したら怪我をしかねない立ち回りで、画面には緊張感がほとばしっていた。もっとも、殺陣の演技は一人ではできませんから、いくら織田さんが頑張っても、相手にも相応の技がなければ成り立たない。たとえば、相手が上段に構えた瞬間に素早く斬り込む。その息が合っているか否かで、迫力は全く異なります。織田さんだけではなく、斬られ役の表情や息遣い、立ち回りなどにも注目してください。最近の映画の中では、とくに殺陣へのこだわりが光る作品と言えることが分かるはずです。
--両作のラストシーンは大きく異なっていましたね。
それまでは前作を忠実に再現していたのに、ラストシーンはほとんどオリジナルでしたね。まだ観てない方もいらっしゃるでしょうから具体的には説明しませんが、リメイク版で使われた技は、映画やドラマの中では初めて目にしました。面白いアイデアですよね。あの動きは古武道や居合いの世界では常に想定されていたようですから、リアリティも無視していないと思います。