■インタビュー・シンジに同化していた12年前…。今は作り手としての刺激を受ける
・役者本人の内面を役に反映させる、ある意味“賭け”の演出
・渋谷は歩くたびに何故か切ない気持ちになってしまう街
・NY留学で見えてきた、日本人だからこそ描ける世界観
■プロフィール1978年1月19日生まれ。福岡県出身、鎌倉育ち。立教大学法学部国際比較法学科卒。高校時代から音楽活動を始め、大学進学後映画制作に興味を持つ。1999年、映画制作を学ぶため、ニューヨークに留学。初監督短編作品「PRIVATE EYES」がニューヨークで話題となり映画関係者からの推薦を受け国際映画祭に招待される。続く中編作品「LOVE SQUARE」は多数の国際映画祭で高い評価を得る。帰国後はミュージックビデオやTV番組のディレクターを務め、並行して数本の短篇映画を製作。初の長編映画「Wiz/Out」では、製作、脚本、監督、編集まですべてを担当する。今後の活躍が最も期待される若手映画監督の一人である。
謎が謎を呼ぶストーリー展開、斬新かつスタイリッシュな映像美、そして、今にも壊れてしまいそうな、少年少女たちの心の葛藤が描かれた独特の世界観…。従来にないニュータイプのロボットアニメとして、社会現象ともなったテレビアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」。その放映から12年の歳月を経て、リメイクでも続編でもない、まったく新しい物語として再び世に送り出されたのが、「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」。いわゆるエヴァ世代であり、若干29歳にして初の長編映画「Wiz/Out」を手がけた映画作家の園田新さんが、この作品を通して感じたものとは?
--園田さんはテレビシリーズからエヴァのファンだったと伺いましたが?
ちょうど僕の高校から大学にかけての時期に、エヴァンゲリオンがテレビアニメで放映されていて、なんとなく見始めたのがきっかけでした。当初は、正直なところ、いわゆるアニメらしからぬ、気味悪い作品だなと思っていた部分もあるのですが、でも放送を見るに連れて、次第にエヴァの世界観に引き込まれていくようになりました。それは、斬新なストーリー展開や、映像の格好良さはもちろん、アニメにおいて、人間の内面世界をここまで見事に描き切ったものに初めて出会ったということが最大の理由です。特に主人公のシンジは、当時年齢も近かったこともあって非常に共感を覚えていました。それまでアニメの主人公と言えば、強くて正義感あふれるキャラクターが定番でしたから、シンジのように、弱くて内向的な、いかにも日本人的な男の子が葛藤しながらも地球を救おうとする、その姿がとても新鮮で強い衝撃を受けました。既存の日本のアニメが描いて来なかった、現代の日本人らしさを備えた主人公に共感したんだと思います。
--それから12年という時を経て、作品の見え方は違ってきましたか?
それは確実に違いますね。その違いには2つあって、まず1つは、自分が大人になり、以前よりもずっと客観的に作品を見られるようになったこと。テレビシリーズ当時は、社会や大人たちに対する恐怖心、憤り、悩み、孤独感…そうしたすべての感情が、自分自身の心のどこかにあるものだったので、シンジに自分を同化させて、彼の視線から物語を追っていくような部分がありました。細かいところで言えば、綾波の着替えのシーンで、ものすごくドキドキしたりね(笑)。でも今は、もっと俯瞰的にこの物語を捉えられるようになり、それで感じたのは、今まさに社会問題となっている親子や他者とのディスコミュニケーションが、すでに12年前に描かれ、問題提起されていたということに対する驚きです。そしてその原因は、大人たちが壊してきた地球や、大人の身勝手な理想が、子どもたちをここまで苦しめたことによるものなのではないかなと…。大人側として、これからの世の中で、子どもたちに何ができるんだろうと、考えさせられる一面もありました。
それから2つ目は、映像のプロとして新たに発見した部分。アニメシリーズにしても、劇場版では実写を組み込んでいたり、当時としてはかなり斬新で実験的なことをしていました。が、今回の新劇場版では、明らかに技術が進化していたので、映像製作に関わるものとしては、否が応でも刺激を受けましたね。大画面で見られるのもまた映像美に拍車をかけていますし…。特にメカや戦闘シーンの質感が、もはや一枚の絵とは呼べない、アニメーションの新境地とも呼べるクオリティでした。アニメシリーズの時では、やりたくてもやれなかったことを、今回、クリエーターたちがすべて、楽しみながらやり切ったんだという印象を受けました。
--ストーリーを知っているのに再び作品を見ることへの抵抗感はありましたか?
新劇場版の公開を知ったときは、本当に面白くなるのか?という疑いを少なからず持っていました。けれども、いざ作品を見てそんな心配は吹き飛びましたね。それでまず感じたのが、エヴァは非常に“スターウォーズ的な作品”であるということ。ストーリーや結末を知ってから物語を追っていく楽しさがあるんですよね。12年という程よいブランクが、懐かしさや当時抱いていた感情を思い起こさせてくれる一方で、新しいカットやセリフが挟み込まれてもいるので、物語が、どこか自分の知らない結末へ向かっていくんじゃないかという、ドキドキ感も同時に味わえる。これはちょっと新しい映画の楽しみ方なんじゃないかなと思いました。
--最新作「Wiz/Out」も、一見スリラーやSF的な要素を表面に出しながらも、エヴァと同じように、実は主人公たちの内面、心の揺れがテーマになった作品ですよね。
もともとNY留学の際に「PRIVATE EYES」という、テレビの中と現実世界が交錯する10分間の短編を作ったのですが、その続編を見たいという声が多かったので、長編を撮るにあたって、「PRIVATE EYES」とリンクさせた作品を作ってみようという気持ちがありました。けれども大切にしたかったのは、既存の作品の焼き直しではなく、あくまでも自分たちが生きている“今の日本”を切り取ったもの、今だからこそ作る価値のある作品であるということ。そこで、もっとも日本の今を端的にあらわす題材は何だろうと考えたとき、まず頭に浮かんだのが、大学生を主人公にしたストーリーだったんです。というのも、これは実は、僕自身の原体験に基づくことなのですが、日本の大学生は世界的に見てもとにかく特殊で、一流大学に入ることに夢中になりすぎて、いざ大学生になってみれば、将来の明確な目標もないことに気づき、途方に暮れてしまうというパターンが非常に多い。しかも、今の世の中では一流大学に入ったところで、安定した将来すら確約されていないのが現状ですよね。大学生の彼らは、実はとてもあやふやで、不確かな毎日を生きていて、思春期の少年たち以上に悩み苦しみもがいている人種なんですよね。かつてエヴァがやったのと同じように、今までの日本映画が描いてこなかった、現代的な日本人らしさを備えた日本人像を描きたいと思ったんです。彼らの今を切り取った結果、心の揺れというのは、必然的にこの作品の重要な要素になりました。
--主人公たちを演じた役者さんたちは、特殊な役づくりをしたそうですが?
この作品のテーマが、現実と虚構のあいまいさを描くことにあったので、演出面でも同様の仕掛けをしました。役作りには3ヶ月という時間をかけて、まず、主人公たちが所属するサークル「FLAPS」のブログやSNSを実際に作り、出演者にはそれぞれの役になりきって、日記やコメントを書いてもらいました。実は、本編に出てくる日記や心の吐露も、彼らが書いたものを使っています。キャラクターの大枠の設定と、物語の流れだけ予め伝えて、あとは最初の脚本をもとに、各役者が自分の役を掘り下げていくという作業をしてもらいました。プライベートでも役名で呼び合い、役専用のメールアドレスを渡し、それでやりとりするという徹底振り。この映画を見た人から、内面の描き方がリアルで、そこがエヴァっぽい要素だとも言われたことがあるんですが、これは、そうした演出がなせる業だと思います。役者任せという点では、ある意味ひとつの賭けでもあったのですが、みんな見事に、良い意味で予想を裏切った展開を見せてくれましたね。一人の役者が起こしたアクションが、化学反応的にほかの役者に広がっていくんですよ。結果としてシーンを追加したり、セリフを大幅に変更したりもしました。ブログやメールを介しての役作りというのも、今の時代だからこそ実現した仕掛けだと思います。