■インタビュー・ゲーリーの手法は、まさにアナログの極み
・アーティストのアブストラクトな発想を
・アートには思考のジャンプがある
・知らない間に世界では色々なことが起きている
■プロフィールにしむらだいすけさん 1973年横浜市生まれ。画家・編集者・ウェブデザイナー・ミュージシャン。東京大学大学院在学中に、東京都立老人医療研究センターで多発性硬化症の研究に従事。博士中退。同時に画家活動をスタートし、2000年の日蘭交流400周年記念展などに参加。同年にニューヨークに渡り、個展開催のほか、オノヨーコやキム・ゴードン、マルレーネ・デュマスらも参加したグループ展などに出展。またバンド「Doro」を結成してストリートやライブハウスで活動を行う。2001年、カルチャー誌『TOKION』のエディター兼ウェブデザイナーに。2004年に帰国し、『TOKION JAPAN』の復刊に携わり、2004・2005 Tokion Creativity Now(ラフォーレミュージアム原宿)などを企画。その後、ウェブデザイナーとして、スペースシャワーTVサイト(DAX)、TBSの番組サイトなどの制作も行う。2007年2月雑誌「Someone’s Garden」を発刊。現在はバンド「ECHOSTICS」のメンバーとして精力的に活動中。この夏リリースされるOMIのコンピレーションアルバム「sound of kula」にも参加している。
紙を無造作に切り裂き、テープで貼り合わせて建物のフォルムを決める独自の設計手法で、大胆かつ奇抜な現代建築を生み出し続ける天才建築家フランク・ゲーリー。スペインのグッゲンハイム美術館や、ロサンジェルスのディズニーシンフォニーホールなど、その活躍の場は世界各地にわたっている。『スケッチ・オブ・フランク・ゲーリー』は、ゲーリーの長年の友人であるシドニー・ポラック監督が、ゲーリーの建築家としてのスタートから現在までを振り返り、その内面に深く迫るドキュメンタリー。この映画を、画家やエディター、ミュージシャンなど、多彩なフィールドで活躍する西村大助さんが鑑賞しました。
--映画を観た感想は?
すごく客観性の高い撮り方をしているなと思いましたね。シドニー・ポラック監督は、インタビューの聞き役に徹するのではなく、あえて自分の姿もカメラに映し込んでいたでしょ。それによって一対一の単純な構図ではなく、あたかも、もう一人の視点が存在するような効果を生み出していた。ジャン・リュック・ゴダール監督が自分の影を入れたり、寺山修二がお客さんを入れて撮影したスタイルと通じるものがありましたね。ただし、撮り方は客観的だけど、フランク・ゲーリーという建築家の捉え方としては、ネガティブな視点がやや少なかったかもしれない。ファン心理のようなものが少し働いているのかな、という気はしましたね。
--ゲーリーに対しては、どんな印象を持ちましたか。
僕は、ゲーリーは、イラク出身の女性建築家ザハ・ハディットのような人だと、ずっと思っていたんですよ。ハディットはコンピュータ・グラフィックを用い、すごく不思議なフォルムの建物を設計する建築家です。ゲーリーの設計も極めて複雑ですから、同じようにコンピュータ・グラフィックを使うのだろうと思っていましたが、作中ではコンピュータ・グラフィックを導入したのはつい最近と述べられていました。つまり、これまでのゲーリーの設計は、いわばアナログの極みであって、デジタル技術を駆使するハディットとは対極にあるんですね。あれほど複雑な建物の力学的な計算が、コンピュータを使わなくても可能なんだなぁと本当に驚きました。こんな建築家が本当にいると知って、感動すら覚えましたよ。作中でもチーム作業の重要性に触れられていましたが、おそらく周りのスタッフも非常に優秀なのでしょう。
--ゲーリーが設計を生み出す過程については、どうお考えになりましたか。
ゲーリーは「アートと建築の融合」という言葉とともに語られますよね。その点では、ゲーリーは「アート95%、建築5%」くらいの割合だと、僕は思いますね。建築家の丹下健三さんが「僕は建物ではなく空間を造る」と口にしていたことに象徴されるように、建築には周りとの共存が重視されます。しかし、ゲーリーの建築には、そういう共存性はほとんどなく、都市計画的な視点を持つ建築家に言わせれば、建築的ではないんですよね。極端な例えですが、岡本太郎の「太陽の塔」のような存在だと思うんですよ、ゲーリーの建築って。ただし、単なるオブジェではないのが、大きな違いであり、すごいところ。ゲーリーは、アーティストがアブストラクトに発想したことを、建物として実際に形にできると証明した偉大なる第一人者と言えるのではないでしょうか。
--ゲーリーの建築自体は、どのように評価されますか。
ゲーリーの代表作とされるグッゲンハイム美術館をはじめ、いろいろと実物を見ましたが、個人宅はちょっと遊び過ぎかも──というのが正直なところ。作中に登場したデニス・ホッパーの家も、ものすごく奇抜でしたよね。別に遊びが入ること自体は悪いとは思わないけど、とくに日本人が強く求める「機能美」が後回しだなという気がして。その点、公共建築の場合は機能美をあまり要求されないから、ゲーリーの設計が生きてくると思うんですね。ゲーリーの設計する家に住むのって、一般人にとってはランボルギーニに乗るようなものですからね。
1929年カナダ・トロント生まれ。47年にロサンジェルスに移住。54年に南カリフォルニア大学で建築学を修了後、いくつかの建築事務所に勤務する。その後、ハーバード大学院デザイナ科で都市計画を学ぶなどして、67年にサンタモニカに個人事務所を設立。独自の創作手法によって、既成の建築物にはない、大胆で動きのある現代建築を生み出し続けている。主要な建築物は、「ビルバオ・グッゲンハイム美術館(スペイン)」「ウォルト・ディズニー・コンサートホール(アメリカ)」「DG銀行ビル(ドイツ)」など。神戸港のメリケンパークにはゲーリーが設計した巨大な鯉のオブジェ「フィッシュ・ダンス」が展示されている。89年には建築界のノーベル賞といわれるプリツカー賞、およびアメリカ建築家協会最高賞の金メダルを受賞。92年には日本の高松宮殿下記念世界文化賞も受賞している。