■インタビュー・意外性のある花見は渋谷ならではの楽しみ方
・「渋谷の考現学」を通して、もうひとつの渋谷を発見したかった
・愛着のある街を持つことは、すなわち、生活を豊かにすること
■プロフィール鈴木健司(すずき・けんじ)さん 1963年東京都渋谷区生まれ、世田谷育ち。出版社勤務、ミニコミ誌運営を経て、フリーランスのエディター・ライターとして活躍。放送や広告、スポーツ、笑芸などの執筆活動にいそしむ一方、「極私的タウン観光」のあり方を研究・実践している。
昼夜を問わず、多くの人で賑わう街、渋谷。アート、カルチャー、ファッション…と、日々最新の情報が発信されては、大量に消費されていく街には、実は、私たちの知らない、もうひとつの顔がある。「渋谷の考現学」の著者で、渋谷生まれの鈴木健司さんは、“オッサン”の視点から、「マルキュー」や「メイド喫茶」、「銭湯」など、渋谷の名所、隠れたスポットを考察・研究するひとり。おりしも季節は春。渋谷を知り尽くす鈴木さんと、渋谷の街中に点在するお花見スポットをめぐりつつ、この街に秘められた、知られざる魅力について聞いた。
--渋谷でお花見をした感想は?
人が多くて、ショップも乱立している渋谷は、そうした表面的な賑わいにまぎれて、さまざまなものを見落としてしまいがち。桜も同じで、実は、街の意外なところに咲いていたりするんですよね。例えば、ハチ公像の前にも大きな桜がふたつ、そして、像の後ろにも、ハチ公のふるさとである秋田県大館市から寄贈された、しだれ桜があるんですね。誰もが知っている渋谷の風景のはずなのに、そこに桜があることにすら、気付いていない人って実は多いのではないでしょうか。雑然とした都市の中に、突如として美しい自然が現れるのも、この街ならではの花見ですかね。桜丘町の桜並木も、確かにとてもキレイだけど、ビルとビルの間に存在する桜は、幾分、「強引」な感じがしていいじゃないですか(笑)。宮下公園なんかでも、グラフィティアートがあって、若者がたまっていて、でも、そこに古い桜の木が一本佇んでいるっていうのも、やっぱりこの街らしくて、面白い。代々木公園は、もはや花見の定番スポットだけど、実は、何もない平日の昼下がりなんかに、ふらっと立ち寄ると、人もまばらで落ち着いていて、本当に気持ちいいんですよ。
--おすすめのお花見法はありますか?
「桜を肴に酒を飲む」っていうのが、江戸っ子の本音というか、粋な花見だと思うんですけど、僕自身は酒を飲まないので、残念ながらそういう楽しみ方はできないんです。でも、毎年、なんだかんだで花見はしていますね。四季を感じるのが好きなんですよ。特にお気に入りは、隅田川を運行している水上バス「お花見船」から見る桜。この期間だけ、普段のコースよりちょっと長めに、桜がキレイに咲いている花川戸の方までまわってくれるんです。それから、自宅の近所にある目黒川の桜もおすすめ。川沿いを歩くのも楽しいけど、東急東横線に揺られながら、窓の外に広がる桜を見渡すのもまた良いんですよね。川がすべて桜の花で埋め尽くされてしまうような咲き誇り方は、見事の一言です。こうして考えると、花見のポイントって川沿いにあるのかな。渋谷にも、もういちど、渋谷川が流れて、その両岸に桜並木なんてあったら最高ですよね。