BUNKA X PERSON

■インタビュー・生々しい証言が詰まった貴重な記録映画
・サルサは中南米諸国のアイデンティティの源
・オルケスタ・デル・ソルを聞いてラテン音楽に開眼
・ラテン音楽の魅力を若い人にも伝えたい

■プロフィール1962年生まれ。グラフィックデザイナーとしてフリーペーパー『SALSA120%』の制作に第1号から参加し、7号から編集長を務める。現在は『SALSA120%』の制作と並行し、広告やCDジャケット、Webサイトなど多彩なジャンルでデザイナーとして活動。1995年に立ち上げたWebサイト『Samurai Latino Web』は、ラテン音楽関連の情報を発信するWebサイトの草分け的な存在として多くの読者を持つ。
http://www.s-latino.com/

今から約80年前、沖縄などからキューバに渡った移民とその子孫の姿を追うドキュメンタリー映画『サルサとチャンプルー』。移民一世を含む当事者たちのリアルな証言を通して苦難の歴史が明かされるとともに、街なかに音楽が満ちあふれるキューバの文化や国民性を知るうえでも非常に興味深い作品となっています。この映画を鑑賞したのは、日本唯一のラテン音楽専門フリーペーパー『SALSA120%』編集長の山口誠治さん。サルサをはじめラテン文化に造詣の深い山口さんは、キューバと沖縄の文化の融合が重要なテーマとなっているこの映画から、どのような印象を受けたのでしょうか。

生々しい証言が詰まった貴重な記録映画

--まずは映画の感想からお聞かせください。

まず、記録資料という点で、非常に意義深い作品だと感じました。キューバ移民の一世の大半は既に亡くなり、作中に登場するのは二名のみ。そのうちの一名は上映前に亡くなり、もう一名も100歳という高齢ですから、今回の上映を逃せば、永遠に世の中に伝えられることなく、忘れ去られていた歴史的事実の一つなのではないかと思います。移民の方々へのインタビューでは、戦時中、徴兵から逃れるために自分で人差し指を切り落として銃の引き金を引けないようにした話や、現地人にも見捨てられた荒野を日本人同士で協力して地道に開拓した話など、様々な貴重な証言が続きました。しかも、栽培した作物の種類をはじめ、ディテールもしっかりと語られているから、移民たちの苦悩や喜びが生々しいメッセージとして伝わってきました。キューバ移民に沖縄の人々が多いのは、経済的な事情や国の方針、琉球時代から海上交通に慣れていたことなど、様々な理由があるのでしょう。それに加えて、沖縄が歴史的にも外的な影響を受け続けてきた地域だったため、他国の文化にも柔軟に馴染むことができたのかもしれません。

--キューバと沖縄の双方の文化を比較して何を感じましたか。

どちらにも、しっかりと音楽が根付いているのは大きな共通点でしょう。キューバには長年ご無沙汰していますが、音楽が町中にあふれていることに新鮮な驚きを感じました。作中でもストリートでギターの弾き語りをする陽気な青年が登場しますが、本当に、どこを歩いても音楽が聴こえてくる。一方の沖縄でも、琉球時代から続く伝統的な音楽が生活の中に息づいていますよね。この共通点の背景には、どちらの地域にも自分たちの文化に誇りを持ち、アイデンティティの拠り所として音楽を大切にしてきた歴史があるのではないでしょうか。

サルサは中南米諸国のアイデンティティの源

--作中での重要なテーマのひとつである「サルサ」は、キューバで発祥したと考えてよいのでしょうか。

日本では「サルサ=キューバ」というイメージが強いのですが、これは厳密には正しいとは言えません。そもそもサルサは、キューバやプエルトリコといった中南米諸国の移民が中心になり、60年代後半にニューヨークで確立されました。そのため、サルサには、キューバのソン、プエルトリコのヒロバやボンバ&プレーナといった多様な民族音楽に加え、アメリカのジャズ文化も混ざり合っている。そのような経緯を見ると、発祥地はニューヨークとするのが最も自然な考え方でしょう。サルサは60年代後半から70年代にかけて、世界的なブームになりラテンアメリカ各国に広まりました。自然に体が動き出すリズミカルな音楽性が国境を越えて人々を魅了したことに加え、中南米諸国の人々がサルサにアイデンティティを見出し、強い発信力が生まれたのがその大きな要因です。

--サルサとは、どのような楽器が用いられるのでしょうか。

初めて当時のサルサを聴いたときに驚いたのは、ドラムセットを使わないこと。アマチュアのドラマーだった僕としては、「自分の席がないじゃないか」と、少し焦りを感じました(笑)。一般的にサルサはコンガやボンゴ、ティンバレスなどのパーカッションやベース、ピアノの他、バンドの個性により、サックスやトロンボーン、トランペット、またギター類などを組み合わせてアンサンブルが組まれます。『サルサとチャンプルー』の音楽を担当したKACHIMBA1551というバンドは、沖縄出身とあって三線(さんしん)を使っていましたね。サルサは世界中に広がるにつれて、それぞれの地域の音楽とミックスされ、様々なスタイルが生み出されました。日本人のサルサバンドは、国民性でしょうか、緻密な演奏をするのが特徴ですね。

キューバの街中でギターを弾く青年 ©サルサとチャンプルー

今回、山口さんに鑑賞していただいた映画
「サルサとチャンプルー」

サルサとチャンプルー

今から約80年前、沖縄からキューバに渡った移民の歴史をひもとくドキュメンタリー映画。2名の移民一世に加え、二世、三世、四世へのインタビューを通し、荒野の開墾に明け暮れた日々や、大戦中に監獄に収容された事実など、現在に至るまでの苦難に満ちた生活ぶりを描き出す。サルサをはじめ、キューバの文化や国民性を知るうえでも意義深い作品。沖縄限定上映で大ヒットし、2008年5月10日(土)より、渋谷アップリンクでの上映が決定。

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