■インタビュー・現代は意図的に見えなくされていることが多い
・五感六感を通して、音楽やフードを楽しんでもらいたかった
・あまりにもマジメにエコを追求しすぎないことが必要だと思う
・カフェを始めてから出会う人の幅が格段に広がった
■プロフィール1954年吉祥寺生まれ。1980年に東芝EMIに入社し、1996年、ユニバーサル ミュージックに移る。その間、製作を手がけたアーティストは、YMOや忌野清志郎、高野寛、EGO-WRAPPIN'、鬼束ちひろなど。2005年独立、ナポレオンレコーズ取締役として鬼束ちひろのマネジメントを行う。それと並行してplants labelを設立。copa salvo、Bamboo Swing、Panorama Steel Orchetraなど、ワールドミュージック的な色彩のアーティストを数多く擁し、都内を中心にイベントも頻繁に開催。2005年には音楽レーベルという枠を超え、SUNDALAND CAFEをオープン。
--食材などでのこだわりを教えていただけますか。
今、野菜は茨城の与五右衛門さんという方から仕入れています。この方の自然農という農法は面白いですよ。畑に種をまいて放っておくだけ。雑草が生い茂って、どこに畑があるのか、わからないくらいですから(笑)。野菜の成長は自然の力に任せるべきだという考えなんですね。形は悪いけど、味は市販の野菜とは全く違います。一言で表せば、野菜の味が濃い。ただ、生産には苦労も多く、たとえば周囲の農家が農薬を使うと、虫が与五右衛門さんの畑に集まってくる。それに収穫量にも限界がある。僕なんか、カフェを始めるまで野菜は年中仕入れられると思っていたけど、与五右衛門さんの野菜の収穫期は2週間くらいですからね。ちなみに、与五右衛門さんは、元々はミュージシャンで20代後半に故郷に入って農家を継いだという経歴の持ち主。たまに僕らのイベントでも踊っている、なかなかファンキーなお百姓さんです(笑)。
--他に、どのようなコンセプトがあるのでしょうか。
SUNDALAND CAFEの客層は、僕らのレーベルのリスナーと近く、25歳から35歳くらいの方々が中心ですね。比較的、若者が多いから、きちんとした素性の食材を仕入れつつ、あまり値段は高く設定できないのが、経営的には最も難しいところでしょうか。ただ、あまりにマジメにエコを追求すると、僕らもお客さんも息苦しくなるから、「楽しいエコをやりたい」と思っていますね。そもそも、「食べる」という行為は、日常的でありつつ、音楽と同じく、お祭り的な非日常の要素を含んでいます。そうした「楽しさ」と「きちんとしたもの」とを両立させることが、目下、取り組んでいるテーマです。音楽って不良性というか、世の中から外れていることに魅力を感じさせるところがあるじゃないですか。飲食も同様で、ときには羽目を外し、僕らが良いと思うジャンクなフードを提供するのも面白いと思っています。
--音楽とフード、アートに加え、「旅」も意識されているということですよね。
音楽はフードだけでなく、旅との相性も良いんです。理由は簡単で、ブラジルの音楽を聴いたら、ブラジルに行きたくなるでしょ(笑)。だから、店内には民族楽器などを置いて、少しだけ旅の気分を楽しめるようにしています。それから、店内ではあまり大きな音を出せないため、近くのスタジオを借りることもあるのですが、アフリカンパーカッションのサバールドラムとか、トリニダード・トバゴの楽器であるスティールパン、さらにピアニカやウクレレといった楽器のワークショップも開催していますよ。普通、音楽は、レコード会社やレコードショップなどを経由して、発信者からリスナーに届きますよね。ワークショップの魅力は、先生と生徒が一緒に音楽をつくっていくこと。悪く言えば素人っぽい音になるけど、良く言えばプロには出せない味わいを演出できるのです。
--今後の目標やビジョンをお話ください。
カフェを始めて良かったと思うことは沢山あるけど、音楽だけの頃と比べ、出会う人の幅が格段に広がったのは人生としても仕事としても大きなプラスになっています。とくに、SUNDALAND CAFEの近辺には、自然派立ち呑みBar & お弁当cafe「キミドリ」など、共感できる店が多い。今以上にネットワークを強化し、一人ではできないことにチャレンジしたいですね。そもそも、考えを共有する人と一緒に面白いことをしたいと思い、会社を辞めて独立したわけですし。音楽関係では、今、ポップミュージックに関する仕事と、ワールドミュージック的な「plant label」の二本立てで進めている状況。今後は、もっとナチュラルな志向を強め、海や山など、大自然のなかでのイベントを開催するのが当面の目標でしょうか。
渋谷に出店した理由は?「僕らのイベントに来そうな人がうろうろしている場所は?」と考えたとき、真っ先に思いついたのが渋谷周辺でした。新宿や池袋というイメージではありませんでしたね。そこで最初は音楽的に落ち着いた雰囲気の恵比寿や代官山の物件を探しましたが、予想外に賃料が高くて…。不動産に関してはほとんど知識がありませんでしたが、意外にも渋谷駅に近づいた方が安いケースが多く、結局、明治通り沿いの現在の場所になりました。出店してから気づいたのですが、この周辺には音楽レーベルや雑誌の編集部などが多く、なかなか気に入っています。
渋谷の好きなところ、嫌いなところは?渋谷は音楽面ではヒップホップやレゲエなどの発信地で、ストリートカルチャーが根付いているイメージがありますよね。そういうストリート感とカルチャーのバランスの良さが渋谷の好きなところでしょうか。僕自身はクラブで遊んだりすることはあまりありませんが、レコード屋にはしょっちゅう足を運びますね。逆に、好きではないのが、最近はボランティアによる清掃活動もあってキレイになりつつありますが、まだまだ街にゴミが多いこと。僕らの店でも、ゴミの出し方などに配慮し、少しでも街の美化に貢献できればと思っています。