BUNKA X PERSON

■インタビュー・草間さんの姿はロックスターっぽい感じ
・僕がやっているのはアートではなく、新しいテキスタイル
・逆に「ドットを使って表現するのは面白いんじゃないか?」
・ドットをどこまで小さくできるか、ということをよく考えています

■プロフィール「ドメスチークに、セクシーに、クレイジーに、ストイークに、日々点々デザイン」する日本人ピクセル・デザイナー。武蔵野美術大学卒業後、デザイン事務所勤務などを経て、2001年にウェブサイト「ten_do」をスタート。携帯電話のインターフェイス・装丁・エディトリアル・CDジャケット・ウェブ等、ピクセルデザインのオリジネイターとして国内外、メディアを問わず日々デザインを続ける。「点が点を点々とデザインするコンセプチュアル・フォーマット・デザイン」が大きな注目を集め、また、携帯電話を使用したキャラ・オッケー・バンド「japanese」のメンバーでもある。ワイフ旬旬と手芸オートクチュールブランド「clatic」でウィリアムモリス中。


今回のBUNKA×PERSONでは、前衛芸術家・草間彌生を1年半にわたり追い続けたドキュメンタリー映画『≒草間彌生〜わたし大好き〜』を取り上げます。世界中の美術関係者から注目を浴びる草間彌生の日常を垣間見ることができる貴重な作品を、「点と点を結んでデザインする」ピクセルデザイナー・点/ten_do_tenさんに鑑賞していただきました。極めて情報量が少ない「ドット(ピクセル)」というミニマルな表現で見る者の網膜を刺激し、無限のイマジネーションをかき立てさせる点さんは、増殖する水玉模様で独自の世界を表現し、現代美術界の最先端に君臨する前衛芸術家・草間彌生さんの創作活動をどうご覧頂いたのでしょうか。「点(ドット)」にこだわる2人の共通点と相違点についてお話を伺いました。
草間さんの姿はロックスターっぽい感じ

--『≒草間彌生〜わたし大好き〜』をご覧になって、いかがでしたか?

すごく面白かったです。失礼な意味ではなく、率直に、爆笑しました。タイトルにもありますが、「自分大好き」な部分が随所に現れていて、人って、振り切っていると、ここまで面白い存在になるのか、と思いましたね。そういう意味でもすごく興味深かったです。草間さんが絵を描くとき、下書きをいっさいしませんでしたよね。何も考えない凄さというか…。以前、草間さんが若かった頃のパフォーマンスの映像を見たことがあったんですが、僕は現在の彼女の方が好きですね。人間として、生き物として、確実に凄味を増していた。生き様がオーラになって顕われている人って、中々いませんからね。そんな強烈なキャラクターを持ち合わせているのって、ジェームス・ブラウンか草間さんくらいじゃないですか? 殆どまばたきもしないし、あるシーンでカッと見開いた表情の、目が完全にドットになっていて(笑)。うわ、凄い!って思いました。

--その「自分大好き」という思考についてはどう思いました?

僕は芸術家よりも音楽家から大きな影響を受けていて、かつてのジェームス・ブラウンやミック・ジャガーやアフリカ・バムバータとか、ミュージシャンって「オレ様が一番だ」と自慢するじゃないですか。草間さんの姿もそれに通ずるんじゃないかな、と思いました。とてもロックスターっぽい感じがしましたね。同時に、死に対する恐怖とそれに対峙する姿勢が垣間見えて、人間臭さも感じてしまいましたし、それに付随する、ちょっとした切なさもありましたね。ある意味で他者から自分を防御するための壁を作っているようで、信頼するスタッフに囲まれていながらも孤独な人なんじゃないかな、と思いました。自分で自分のことを褒めていないとやっていられない感覚とか、どうしても不安で眠れない時とか、僕自身と同じような悩みを抱えているんだな、と発見したりしました。

僕がやっているのはアートではなく、新しいテキスタイル

--他にも自分との共通点はありましたか?

いや、僕は草間さんのように、幻聴や幻覚から逃れるための手段として絵を描き続けてきた訳ではありませんからね。「格好いい」ものが好きだからデザインが好き、というタイプの人間だし。ただ最近、知り合いから「(ドットを使用した作風が)草間さんの水玉っぽいね」といわれたことがあって、自分では全く意識していなかったので驚きました。学生の頃、考え込むと手が止まってしまうことが多かったんですよ。その後、デザイン事務所で働いたときの発見で、「締めきり」ってすごいなぁと(笑)。作品を作るには、「締めきり」を決めてルーティーン化したほうがやりやすくて、発見は後からどんどん出てくることに気付いて(笑)、それで毎日描くようになった。一番ミニマルなキャンバス!ってことで携帯電話のモニターサイズのピクセルデザインがいま30,000点近くになっています。そんな理由で創作していたのが、草間さんが自分自身を救うために描き続けた姿と、偶然にも重なったんじゃないかと思います。でも映画の中では、50作を完成させるというハードな制作過程のせいか、周りのスタッフに励まされながら、意外にもノルマ的に描いている姿が、とても人間的に見えましたね。最後に作品が完成して『せいせいした!』って話している姿を見て、やっぱり爆笑してしまいました。

--この映画から、何かインスピレーションを受け取りましたか?

僕がやっているのはアートではなくて、新しいテキスタイルをデザインしたいと考えているので、草間さんの作品もテキスタイルとしての視点から見ていました。新しいパターンが見られればいいなあ、と思いつつ。そうしたら、草間さんが着ていたおそらく自作の衣装のひとつに、「ギンガム・チェックの構造なのだけれど水玉」という今まで見たことのないテキスタイルのパターンを発見しました。きっと描いているうちに無意識に作り出したんだろうなと思って、改めてリスペクトしました。それと、人の横顔の輪郭をパターン化したドローイングがあったんですが、それがとても美しくて可愛くて、非常に興味深かった。草間さんも僕も「ドット」をベースにして制作しているのは一緒だけれど、距離感が違うというか、置き方が違うとはっきり感じられたのが面白かった。製作過程も全く違います。僕の場合はデジタルな作品なので、コピー&ペーストを多用しながら、新しいものやクールなものを作ろうとしているんですが、草間さんの場合は、ひとつひとつ描くことに自分の喜びとかセラピーとかの意味を込めて描いていた。その姿はとても格好いいと思いましたよ。

映画『≒草間彌生〜わたし大好き〜』より
©2008 BBB.Inc. ©YAYOI KUSAMA

今回、点/ten_do_tenさんに鑑賞していただいた作品
「≒草間彌生〜わたし大好き〜」
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©2008 BBB.Inc. ©YAYOI KUSAMA

未だに止むこと無く世界の美術界を疾走する草間彌生を、1年半追い続けた渾身のドキュメンタリー。最新作となるF100号のモノクロ作品シリーズ50作が完成する瞬間など、「生」と「死」と「愛」のせめぎ合いの中から湧きあがる草間芸術の真髄を、カメラは時には静かに、時には饒舌に記録し続ける。映像の一つひとつが解き明かす草間ワールドは、永遠に見続けていても決して飽きることがない。ライズエックスにて公開中、他全国順次公開。

上映場所:ライズエックス
上映期間:2008年2月9日〜

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