光の世界を味わう
植物がすくすくと成長する梅雨の入り口。人工物に囲まれた東京にいても、雨上がりの透き通った空気に指す太陽のありがたさと光の美しさにしみじみと感じ入る瞬間がある。徹夜した日の朝焼けのピンク、肌を焼くほどに照りつける日中のキイロい日光、夕刻のオレンジ…太陽の光は時間とともに変化して、優しく厳しく私達の生活を見守る。これから夏に向けて厳しい日光から肌を守っていくことも必要だが、一方でやはり太陽の下でのびのびするのは心地いいもの。今回はそんな「光」に着目。渋谷区で公開中の映画、開催中の展示会を紹介する。 カメラの特性を利用して独創的な光の世界を描き出す写真、光をメタファーとして人間の欲望の在処を照らしだすメキシコ映画、夜の渋谷をモノクロで捉えるという逆転的なアプローチで光を感じさせる映画。幅広い切り口で表現される豊かな光の世界を堪能したい。
佐藤時啓 光ー呼吸 そこにいる、そこにいない
- タイトル
- 佐藤時啓 光ー呼吸 そこにいる、そこにいない
- 開催場所
- 東京都写真美術館
- 開催期間
- 2014年5月13日 ( 火 ) 〜 7月13日 ( 日 )
- 開館時間
- 10:00-18:00(木・金は20:00まで) ※毎週月曜休館 ※入館は閉館の30分前まで
- 料 金
- 一般 700円/学生 600円/中高生・65歳以上 500円
東京都写真美術館では5月13日から、ピンホール・カメラやカメラ・オブスクラ、長時間露光などを駆使して独創的な写真表現に取り組む佐藤時啓さんの写真展が行われている。
佐藤さんは1957年山形県生まれ。東京藝術大学大学院で彫刻を学び、彫刻を通した表現として「光」に着目。もともと写真やカメラが好きだったことをきっかけに、写真表現の世界に足を踏み入れた。
代表作のひとつである《光ー呼吸》シリーズでは、レンズの前に広がる風景の中を作家自身が鏡を持って歩き回り、鏡に反射する光と移動の軌跡をフィルムに定着。長時間露光によって捉えられた風景の中に点在する光が不思議な世界を作り出す。ほかにも建築物や車などをカメラ装置に改造することで、時間の経過や移動によって変化する風景をパフォーマンス、インスタレーションとして発表するなど、様々な手法で自己のテーマを具現化してきた。
同展ではプリント作品を中心に、《光ー呼吸》シリーズや移動式カメラ・オブスクラによる最新作など99点を展示。佐藤が初期から現在まで取り組み発展し続ける、表現哲学を感じてみては?
闇のあとの光
ユーロスペースでは5月31日から、メキシコの若き巨匠カルロス・レイガダスによる日本初の劇場公開作「闇のあとの光」がスタートする。
舞台はメキシコのとある村。フアンは愛らしいふたりの子供と美しい妻ナタリアとともに何不自由ない恵まれた日々を送っていた。ところがある夜、赤く発光する“それ”が彼の家を訪問したときから、なにげない平和な日常が歪みはじめる。掘ったて小屋で行われる依存症の集会、寄宿学校でのラグビーの練習風景、サウナに集まり乱交する上流階級の人々、光降り注ぐ浜辺にたたずむ成長したふたりの子供、不意に人に取りつく暴力、親戚が一堂に会する華やかなパーティー…光と闇が互いに戯れるがごとく交わる世界の断片は、1発の銃声によって新たな位相に導かれてゆく。フアンの家に現れた“それ”とはいったい何だったのか?禍をもたらす「悪魔」なのか、それともどこかに彼らを導こうとする「神」だったのか…。
前職は弁護士というレイガダス監督は前作「静かな光」でカンヌ国際映画祭審査員賞を受賞。1990年代以降にメキシコで起きた映画運動「ヌエーヴォ・シネ・メヒカーノ」の一員として、人間の根源にある「欲望」をえぐり出し、独自の映像世界で表現。日本では同作が初の劇場公開となる。
ポルトレ PORTRAIT
- タイトル
- ポルトレ PORTRAIT
- 開催場所
- アップリンク
- 上映期間
- 2014年6月7日(土)〜13(金)
- 上映時間
- 上映スケジュールの詳細は劇場まで
- 監 督
- 内田俊太郎
- 出 演
- 吉村界人(新人)、松本まりか、須佐心一、新井秀幸、他
アップリンクでは6月7日から一週間、モノクロ映像で渋谷を切り取った恋愛映画「ポルトレ PORTRAIT」が劇場公開される。
主人公は渋谷の街で暮らす、19歳の青年。大学を中退した青年は、夢も希望も持たず、深夜に渋谷の裏街をあてもなく漂流する。昼夜は逆転し、人とのコミュニケーションすら断る青年は、ポラロイドカメラで自身のポルトレを撮ることが日課。ある日、いつものように夜の渋谷を徘徊していると、様々な大人たちが出入りする社交界に遭遇する。そこで魅力的な女性に出会い、青年の気持ちは少しずつ変化していく。
2014年、多摩美術大学で開催された映画祭たまふぃるむで上映され、完全版として待望の劇場デビューを果たした同作。デジタルと16mm フィルムを織り交ぜた映像美が特徴で、「最小単位のもので描きたかった」という監督の言葉通り、モノクロの色彩によって紡ぎ出される映像は、厳格な規律を保ち、被写体を美しく切り取る。
現代都市を生きる人々へのみずみずしい人間賛歌を、モノクロ映像によって豊かに味わいたい。