その圧倒的な美しさで世の女性を魅了してやまないティアラ。現在、Bunkamura ザ・ミュージアムで開催中の「プリンセスの輝き ティアラ展〜華麗なるジュエリーの世界〜」では、宮廷文化の栄えた19世紀から20世紀初頭に作られた作品を中心に、100点以上の貴重なティアラを間近に見ることができます。今回、この展覧会を訪れたのは、ジュエリー作家として国内外で多くの個展を開催するかたわら、ヒコ・みづのジュエリーカレッジの講師を務める嶺脇美貴子さん。ティアラの魅力や展覧会の感想について、またご自身の作品について、存分に語っていただきました。
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--展覧会を見た感想をお願いします。
まず、これだけのティアラが一堂に会しているというだけで大満足でした。もともと誰もが身に付けられるものではありませんから、信じられないほど上質な宝石が使われていたりして、一つひとつの作品が大きな存在感を放っていましたね。しかも、単にティアラを並べているのであれば、「きれいだなー」という感動だけで終わるのですが、この展示会ではティアラと一緒に、それを身に付けていた女性の写真や肖像画が豊富に展示されている。それらを一緒に鑑賞することで、「こんな人がこんな服装で身に付けていたのか」と、美しいティアラに秘められた物語をイメージできました。時代やスタイルによって整理されており、宝飾品の歴史を辿れる側面も興味深かったですね。
--とくに印象に残った作品を教えてください。
「こんなティアラもアリなの?」と思ってしまう異質な作品に惹かれました。なかでも、鉄製の「ベルリン・アイアン・パリュール(19世紀初期・ドイツ製)」は素材の面白さが光っていました。鉄はティアラには不似合いに思えますが、この作品はとても上品で繊細に仕上がっている。この頃は、武器を作っていた職人が職を失い、アクセサリーを作るようになるケースが多かったのですね。そんな職人が自分のアイデアで作ったのか、または誰かに依頼されたのかは不明ですが、ダイヤモンドで飾るのが当たり前の時代に鉄に目を付けるという発想力に感心しました。また、「トルコ石のフローラル・ティアラ(1860年頃・フランス製)」は、インディアンジュエリーなどに使われ、土着のイメージの強いトルコ石が大胆に使われていて、抜群の存在感でした。素材の特性を上手に生かし、モコモコとした独特のボリューム感を出している点にすぐれた個性を感じましたね。それから、この展覧会には、職人が顧客に対して「こんなデザインになりますよ」と、事前に確認するために作られた試作品も100体近く飾られています。こうした試作品が残されていたことにも驚きました。
--展覧会をより楽しむために、意識すると良い点はありますか。
ただただ、その美しさにため息を付く、という見方で十分に楽しめると思います。少しでも宝飾品に興味のある人であれば、ずーっと眺めていたくなるはずですよ(笑)。少しだけ専門的なことを言うならば、ティアラの裏側を覗いてみると、作品によって宝石の留め方などに違いがあることが分かります。表側の美しさだけでなく、裏側にも気を留めて観察すれば、職人のこだわりや工夫が見えてくるでしょう。
宝石などを贅沢に散りばめた女性用の髪飾り。古代ギリシア時代から作られていたが、とくに宮廷文化が隆盛した19世紀から20世紀初頭のヨーロッパにおいて上流階級の間で発展した。『プリンセスの輝き ティアラ展』では当時の作品を中心に100点以上を展示している。
--もともと、嶺脇さんがジュエリー作家を目指したきっかけを教えていただけますか。
秋田県の高校に通っていた頃、図書館になぜかヒコ・みづのジュエリーカレッジの教科書が置いてあったんですね。それを見てジュエリーづくりが仕事になることを、はじめて知りました。さらに友人がたまたま同校の学校案内を持っていたことも重なって、「大学受験に失敗したら、この学校に行こうかな」と、考えるようになったのです。すると、本当に大学に落ちてしまって(笑)。そういう経緯で入学し、風呂ナシ共同トイレの4畳半の渋谷のアパートに引っ越してきました。在学中にはジュエリーのデザインの勉強に没頭して、卒業後はジュエリー関連の会社に就職してデザイナーになろうと思っていました。それが講師に薦められるままに、講師助手になって、その後、正式に講師になって……と、本校に居座り続けています(笑)。同時に、自分の作品づくりも進めていて、1998年頃からプラスチックの既製品を利用したジュエリーを本格的に作るようになりました。
--プラスチック素材のユニークな作品を作るようになったきっかけは?
昔からプラスチックを素材にしたジュエリーを作っていました。それで、ある時、ガチャガチャのカプセルを切ったことがあったのですね。当然、形は丸になると思っていたら、豆のような形が現れた。それが面白くて身の回りのプラスチックを何でもかんでも切ってみるようになって(笑)。しだいに、100円ライターやプラモデルなどを切ったり、削ったり、穴を開けたりして、リングやネックレスを作るようになりました。女性なら子どもの頃に花を摘んで首飾りを作った経験があるかもしれませんが、私がジュエリーを作る感覚はそれに近いですね。「こんなモノから、こんな面白いジュエリーができましたよ」という思いで作っています。
--学校では、どのような分野を教えているのでしょうか。
私が担当しているファッションアクセサリーコースは、プラスチックや紙、皮など、さまざまな素材を用い、自由な発想でジュエリーを作ることを教えています。学生には、技術を伝えるだけでなく、ジュエリーの秘める“可能性”について話すことも多いですね。ジュエリーは体に身に付けて、どこにでも持ち運べる芸術品です。お気に入りのジュエリーを身に付けているだけでウキウキとした嬉しい気分になりますし、「可愛い指輪を付けているね」などと、会話のきっかけになったりもします。しかも、ジュエリーって“捨てられないもの”ですよね。それには高価だからという理由もありますが、誰かからプレゼントされたり、作ってもらったりするケースが多いため、気持ちが詰まっていることも大きい。そんなジュエリーを作ることの楽しさを共有したいと思っています。学生は発想が本当に豊かですから、「負けていられないな」と、こちらが刺激を受けることも多いですね。
--最後に今後のビジョンや目標を教えていただけますか。
私はちょっと変わったジュエリーを作っていますが、「こういうジュエリーの楽しみ方もある」ということを、もっと多くの人に広めたい。そのためには、今後も作品を作り続けるとともに、同じ気持ちを持つジュエリー作家を育てたいとも思っています。ですから私には、ジュエリー作家と講師という二つの顔が必要なのですね。それから、誰にでも、思い出が詰まっていて、捨てるに捨てられないものってありますよね。そういうものを加工して、その人だけの大切なジュエリーを作ってあげられたら面白いなと思っています。これまでにも、骨折が直った後に外れたギブスや、使い古したスーツケースを素材にしたことがありますよ(笑)。そうやってジュエリーの楽しみ方の可能性を広げていけたら嬉しいですね。
嶺脇さんにとって渋谷とは? 渋谷を歩くこと自体が、作品づくりに役立っていますね。流行に敏感な人たちが行き交っていますし、新しいショップも次々に生まれている。ちょっと歩いただけでも、膨大な情報が入ってくるから、デザインやマーケティングに関わる人にとっては教えられることの多い街だと思います。東急ハンズなどで、ジュエリー作りに必要な素材が歩いて手に入りますしね。では渋谷は好きか、と問われると、不思議なことに答えがすぐに出てきません。上京してからの思い出はつねに渋谷とあるため、“好き嫌い”を超えて、生活の一部になっているのです。渋谷に対して抱いている感情は、他のどの街とも異なりますね。
今後の渋谷に望むことは?私、工事現場がすごく好きなんですよ(笑)。今、特に気に入っているのが明治通りで、夜間、地面の隙間から工事の明かりが漏れ出ているのを見ると、「今、地下が動いている」と、すごく神秘的な思いに包まれます。これからも、渋谷ではたくさんの工事をして欲しいですね(笑)。それから、今後も大きく変わらないでほしいという思いは強いですね。渋谷駅近くの「がんこ爺」という庶民的な居酒屋には、学生時代から20年以上も通い続けていますし(笑)。渋谷を歩いていると、「ここに写真を撮りにきたな」「ここで友達と会ったな」などと、いろいろな記憶が頭をよぎります。そんな思い出のつまった路地の風景がいつまでも残ってほしいと思います。
■プロフィール
嶺脇美貴子(みねわき・みきこ)さん
1967年秋田県生まれ。1989年にヒコ・みづのジュエリーカレッジを卒業し、1992年に同校講師となる。1996年頃からプラスチックの既製品を加工したジュエリーの制作を開始。100円ライターやプラモデル、ガチャガチャのカプセルなど、自由な発想の作品を次々に生み出して、国内外で多数の個展を開催。作品は恵比寿にある「ギャラリードゥポワソン」などで販売されている。また、今年10月末に東京都現代美術館で開催予定の企画展にも出品予定。
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日本初のジュエリー専門の認可専門学校として開校。ジュエリースクールとしては世界有数の規模を誇り、業界に5000人以上の卒業生を輩出してきた。ハイジュエリーからシルバーアクセサリー、雑貨デザインまで、ジュエリーに関するあらゆる分野を学べるほか、靴や時計、バッグのデザインや制作技術を学ぶコースも開講されている。原宿のキャットストリート沿いにオリジナルジュエリーショップ「corazon+corazon(コラソン・コラソン)」を開いている。 住所:東京都渋谷区神宮前5-29-2 TEL:03-3499-0300 >>ヒコ・みづのジュエリーカレッジ |
18世紀から現代まで、歴史に名を残す女性達が着用した100点以上のティアラを集め、肖像画や写真などの資料展示も加えて、その魅力を多面的に紹介する。欧州の主要な王室や貴族、世界各地の美術館所蔵のティアラをはじめ、ショーメ、メレリオ・ディ・メレー、カルティエ、ミキモト、ヴァンクリーフ&アーペル、コッホ、ファベルジェ、ブシュロン、ブルガリ、ルネ・ラリックなどの作品も数多く展示している。 |