「だまし絵」などのトリックアートが楽しめる、青山通りの「からくりミュージアム」が、今年の8月31日をもって閉館となります。その最後の企画展として、現在「岩崎祐司 パロディ彫刻展」を開催中。駄洒落を木彫刻で表現する遊び心たっぷりなパロディ彫刻の世界に、フィギュアイラストレーターとして活躍し、渋谷の街角でパフォーマンスも披露するデハラユキノリさんが出会いました。
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--「岩崎祐司 パロディ彫刻展」を見た感想は?
ホームページでいくつか作品は見ていましたけど、実物で見た方が、駄洒落のばかばかしさがより伝わりますね。でも「これを作るのに何日かかるんだろう」と思ったら、ただの軽い駄洒落としては見られませんね。はじめの思いつきを、同じモチベーションで最後まで持続し何かを創り上げることは本当に大変なんです。さすが、仏像など、正統な木彫刻を作る彫刻家さんだなと感心する。「おもしろいというのは、ああ、こういう作品だ」とあらためて思いました。“アート”って、実はだれも求めてないんですよ。偉そうだから。でも岩崎さんのパロディ彫刻は、見ている人が考える必要がない。いいか悪いかは別として、普通の人の多くは、難しいアート作品よりわかりやすい作品の方が見ていて楽しいだろうなと思いましたね。アートは“わからなくてなんぼ”っていうところがあるけど、岩崎さんのパロディ彫刻には絶対にひねらない良さがある。でも技術がしっかりしているから、余計に「どうしたんだろう?」って感じがしますね(笑)。
--岩崎祐司さんの世界に共感できますか?
もちろんです。楽しんで作っている感じがいいですよね。実は、「ダックスふんどし」という作品を見て、高校時代を思い出してしまいました。高知県の田舎町で、村おこしのための「案山子(かかし)コンテスト」というイベントがあって、優勝賞金の50万円にひかれて、友達4〜5人で出品しようということになったんです。例年、駄洒落を使ったものが入賞していると分析して、みんなで考えたのが「脱穀フンド」。すっごく恥ずかしい思い出ですけど、作っていて楽しかったことを思い出しました。僕は見る人がおもしろいと思うものを、自分も楽しみながら作りたいと思う。自分を「アーティストです」と言うような人って信じたくないという感覚があるんですけど、あの彫刻の数々を見て、自分もちょっとそうなっていたなと気づかされました。「あ、オレ、かっこつけてたな」って。
--粘土のフィギュア作りに目覚めたのはいつ頃ですか?
幼稚園ぐらいの頃から、油粘土でよく遊んでいました。仮面ライダーとかガンダムなんかを作っていたんじゃないですかね。ヒーロー役と悪役の人形を作って戦わせるんです。ガンガンぶつけ合って、腕や足がもげたらまた丸めて作り直して…の繰り返しでした。昔から、手先を動かすことが好きな手のかからない子どもでした。
高校時代には、美術や工芸の授業が好きでしたけど、美術部や漫画部に入るタイプじゃなかった。気持ち悪がられるんじゃないかと思って、家でひっそり紙粘土のフィギュアを作っていました。この頃って、「死霊のはらわた」などのスプラッタ映画が流行っていて、誰もが観るものだと思って当然のように観ていたんですけど、どうやら好んで観る人はそれほど多くなかったみたいですね(笑)。僕の今のフィギュア作品には、その頃観た映画がかなり影響しているのかもしれません。
--作品が世に出たきっかけは何ですか?
絵やフィギュアを本格的に仕事にしようと思ったのは、大人になってからです。大学卒業後、サラリーマンとして京都のデザイン制作会社に就職しました。その仕事の合間を見つけて、休日に絵を書いたり粘土で遊んだり、たまに展覧会もやったりと趣味として楽しんでいたんです。あるとき会社でカレンダーを作る仕事をした際に、イラスト代わりに自分の立体を使ったらけっこうおもしろいものが出来たんです。そのときに、ああ、これはいけるんじゃないか、と確信しました。そのカレンダーを作品として持って会社を辞め、東京に出てきたんです。いろいろなところに売り込んでみたら、立体が珍しかったみたいで、フィギュアの方でけっこう仕事が決まったんですね。で、「ちょろいな」と思っていたら、そんなのはやっぱり長くは続かなくて(笑)。フリーの人って大変なんだなと実感しました。仕事がなくヒマで仕方なかったんで、これはまずいなと思っていたときに考えついたのが個展を開くことだったんです。期日を決めて場所を押さえてしまえば、作らざるを得ないですからね。そうしたら、不思議なことに自分の作品を気に入って買ってくれる人も出てきて、これはおもしろいぞ、と。さらに個展をきっかけにして、ポスターや広告などの仕事が決まったりして、いい形で仕事がまわり始めたんです。最近ではニューヨークや台湾など、海外での個展の話もくるようになりました。毎回、テーマを掲げて作品づくりをするんですけど、楽しみながらやってますよ。
--イラストレーターの金子ナンペイさんと、「メンペ」の活動を始めたきっかけは何ですか?
3年前ぐらいに、イラストレーターのスクールのようなものがあって、そこにイラストレーターの金子ナンペイさんと僕が講師で呼ばれたんです。それが彼との出会いで。僕は金子さんの作品が前から好きだったし、同じ雑誌で仕事していたんですが、話してみたら意気投合しちゃって。話が合うんですね。で、個展を一緒にやることになったんですが、僕は立体の展覧会が続いていて、一度ちゃんと絵を書きたいな、と思っていました。そこで二人でペインティングでやりましょうということで、「メンペ(東京メンズペインター協会)」というユニットをスタートさせたんです。展覧会を開いたり、二人で鎧を着て戦ったりといったストリートパフォーマンスをしたり…。二人とも「道で絵を描くのってイヤだよね」って話していたんですけど、メンペは新人アーティストなんだから、路上から始めてみようかということで、月1回ペースで代々木公園周辺でやることにしたんです。メンペはいいんですよ。唯一、収入と関係なくやってますから好き勝手にやれる。「やらされてる感」がないので、テンションも上がりますよね。イラストレーターって、地味な仕事なんですよ。作品は人目に触れても、それを描いている人にまで注目する人は少ない。だから、目立ちたいと思って。そして、渋谷を盛り上げようと思ってます(笑)。
--これからはどんなことに取り組みたいですか?
実は、小説を書いているんです。ゲイ極道の恋愛小説。展覧会でそういう設定のストーリーを発表したことがあって、それを見た編集者の方が本にしたらどう?って声をかけてくれて。以前、短編ものを書いたことがあるんですけど、それがとてもしんどくてつらかったんです。でも絵同様に文章を書くのも好きなので、やってみることにしました。今年の11月頃には完成させる予定です。今は絵やフィギュア、パフォーマンス、文章といろんな表現方法をやってみることが楽しいですね。楽しくやってる方が、みんな、バカな事してるねって言って楽しんでくれているから、今はこれでいいかな、と思っていろいろ試しています。
デハラさんが今までに手掛けた作品をいくつかご案内します。
デハラさんにとっての渋谷とは? よく行く街ですね。いろいろなところへ出るときの中継地点でもあるし。映画やCD探しにもよく出かけます。メンペのストリートライブも代々木公園周辺なので、本当に頻繁に行ってますね。人が多い時はうんざりするけど、ほかの街じゃ見られない光景なので、冷静に人を観察しているとおもしろいです。夏休みの夜には、どこかのリゾート地のように盛り上がりますよね。
今後、渋谷に求めることは? 普通の若者が立ち寄れるギャラリーが路面に増えたらいいなと思いますね。おもしろい作品を展示していて、誰でもふらっと入りやすい渋谷ならではのギャラリーがあれば、おもしろそうですよね。
今秋公開の映画「ヅラ刑事」を記念し、2006年9月1日〜12日まで渋谷パルコ・ロゴスギャラリーにて「ヅラ」をテーマにした新作フィギュア個展を開催予定。
■プロフィール
デハラユキノリさん |