BUNKA X PERSON

この冬、渋谷の新たな映画スポットとして誕生する「シアターN」。その記念すべき上映一作目となるのが、警察VS犯人が繰り広げるメディア戦をテーマとした、香港エンターテインメントムービー「ブレイキング・ニュース」です。そこで今回、大の映画好きであり、単館系が充実する渋谷にも多忙な時間を縫っては訪れるというアナウンサーの東海林克江さんに、ニュース報道の第一線で活躍する立場を通して、本作品の魅力を語ってもらいました!
映画「ブレイキングニュース」のストーリーはこちら
シアターN
--作品をご覧になった感想や印象に残ったシーンなどを教えてください
最初は、とにかく7分間続く銃撃戦に圧倒されて、何がどうなってるの?っていう感じで。でも、人間の心理的な部分もすごく丁寧に描かれているから、見ているうちに、「ああ、こういうことだったか」って、点と点がつながって、どんどん作品に引き込まれていきましたね。ケリー・チャンも、すごくカッコよかったし! 一番印象に残ったのは、そんな彼女が演じるレベッカの「グレート・ショウを市民に見せなくては」という言葉。報道をショウに仕立てようって…それはもう、実際やったら大変な問題になりますから(笑)。でもその前代未聞のストーリー展開が、この作品の見せ場であり、他にはない魅力だと思います。

--メディア側の人間として、ニュースを「ショウ」にすることは絶対にあってはならないわけですよね? もちろんもちろん。私たち、伝える側の人間にとって、客観性はまず第一に求められるべきところですから。でもまあ、「ショウ」ではなく「演出」という部分は入ることはありましますけど…。

--その演出について、東海林さんご自身、テレビもラジオも、両方ご経験されているわけですが、双方において何か違いはあるのでしょうか? それはもう、全然違いますね。テレビだとまず、映像がある。アップで見せるか引きで見せるか、そこにどんな音楽や効果音を入れて、どのタイミングでテロップを流すかっていう、映像の見せ方ひとつで、視聴者に与える印象はかなり違ってきますからね。そして何といっても、私自身、ひとつの情報になるわけですから。テレビカメラに向かっている間は、目線や手元の動かし方ひとつとっても、どこかしら計算しなくてはいけないっていうのはありますね。ラジオだと、情報は声と音響しかない。それだけでニュースを的確に端的に伝えなくてはいけないので、発音や速度など、声の発し方でどう聞かせていくかっていうのは、テレビ以上に気をつける部分だったりもします。
映画「ブレイキングニュース」のストーリーはこちら

--計算に計算を積んで、メディア操作を企てるレベッカですが、そんな彼女の気持ちって理解できますか? うーん、正直なところ、わからなくもないかな(笑)。もちろん、情報操作というのは絶対あってはならないことだけど、彼女には市民の信頼を取り戻すという任務が課せられていて、その重大な課題をショウという形で克服しなくてはならないわけですよね。「ここは伏せときましょう」「ここはクローズアップしましょう」って瞬時に決定して、自分の与えられた仕事のために全力を注ぐ、その姿勢は、同じ女性としてカッコいいと思うし、共感できる部分ですよね。

--そんなレベッカに対し、ユアン率いる犯人チームはネットを通じて対抗してくるわけですが。プロの目から見て、一般の人でも簡単に情報発信ができるということを、どう思いますか? 今は、デジカメで写真をとって文章をつけてネット上に公開すれば、それだけでひとつのニュースが簡単に完成してしまう時代じゃないですか? 私自身、ニュースに必要な情報をネットで調べることもあるんですけど、数字ひとつとっても微妙に違っていたりして。いろいろな視点からの情報や意見が錯綜していて、どれが真実か分らないっていうのは、ちょっと怖いですよね。私たちは誤った情報を流すわけにはいかないので、自分で情報の信憑性をしっかり見極めなきゃならないな、と。

--今回のタイトルでもあるブレイキング・ニュース(速報)の場合、その情報の見極めが、より難しいのかなという気がするのですが… そうですね。通常のニュースと比べて裏を取る時間が圧倒的に少ないですから。時事通信社、共同通信社や内閣府とか、発信元が明確なものならまだ良いんですけど、中には独自ネタという形で送られてくるものもあって。その辺りの情報の正確さを、どう確認していくかという問題がある。かといって、あんまりじっくり裏を取っていたら、それはもう、「速報」じゃなくなりますからね(笑)。本当に難しい部分ですね。 --東海林さん自身、メディアの影響力の大きさを感じるご経験はありますか?
私がアナウンサーになろうと思ったきっかけって、さかのぼれば小学生の時なんです。生徒会の活動でみんなの前でしゃべったとき、すごく影響力があるっていうことに気付いて。その後、ご縁あってこの世界に入ったんですが、メディアの影響力は想像以上でしたね。特に今はラジオで自分の番組を持っているので、自分の発言に対しての反響の大きさというのは常に実感してます。番組中に話したことで、強く共感していただいたり、逆に厳しいおしかりをいただいたり…。メディアって、そういう強い力があるからこそ、オモシロくもあり、でも一歩使い方を間違えたら怖いっていうものなんですよね。

--では最後に、情報を発信する側にとって大切なものって何だと思いますか? この作品では、警察側、犯人側から次々に情報が出てきて、市民は相当困惑してますけど(笑)。情報って、最終的にはそれを受けた人たちがどう判断するかっていうことに行き着くと思うんです。だからこそ、自分の納得のいく、客観的な情報を正確に迅速に伝えることが、私たちの役割なのかな、と、思っています。

映画「ブレイキングニュース」のストーリーはこちら

東海林さんにとって、渋谷はどんな存在ですか? 一言で言うと「みんなとの交差点」。百貨店も、CDショップも、そして映画館や、シアター、なんでもあるし、交通の便がいいから、とりあえず、「渋谷に集合ね」っていうのが高校生の頃からの定番でした。

渋谷でよくすることorお気に入りの場所は? 最近は自由が丘とかもお気に入りだけど、CDを買うならやっぱり渋谷ですね。それでショッピングして、本屋寄って、軽く何か食べて…っていう、ごく当たり前のことをしています。お気に入りの場所はBunkamuraかな。ギャラリーで写真展見て、お茶を飲んで一息つける、こういう場所があってくれて、助かります(笑)。

これからの渋谷に期待することは? よく考えると渋谷でゆっくりご飯を食べたことってないんですよね。女性一人でお茶できるカフェとか、ゆっくり落ち着ける場所とか、渋谷の大人の顔の部分をもっと見てみたいかな、という気がします。今の渋谷は、そういう静かな部分とにぎやかな部分、両方同居してるけど、これが今後、どんな風に変わっていくのか、すごく楽しみでもありますね。


■プロフィール
東海林克江(しょうじ・かつえ)さん
東京都出身。アナウンサー、キャスター。岩手放送、テレビ東京を経て、フリーに。現在、J−WAVE「ニュース」をはじめ、テレビやラジオで幅広く活躍中。渋谷歴は長く、高校生の時からだそう。「年齢と共によく行く街は変わるものだけど、なんでも揃って便利な渋谷はいつも変わらずに訪れる場所のひとつ」とは本人談。

一覧へ