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BOOK × SHIBUYA 渋谷の書店がオススメする3冊

渋谷ではたらく人びとに向け、渋谷にショップを構える書店員が月替わりで「今、読んでおくべき本」を紹介します。

今回のテーマ

草食系男子に読んでほしい「男の美学」

かつて理想の男性像といえば、男臭さプンプン、豪放磊落な三船敏郎や、野性味溢れる松田優作だった。ところが、最近では「草食系男子」という言葉に象徴されるように、ゴツゴツした男っぽさは流行らない。むしろ、女性のような行動や趣向、容貌を持つ中性的な男性が好まれる。また、「男は男らしく」「女は女らしく」と言おうものなら「性差別だ!」と受け取られ、デリケートな問題にも発展しかねない。もはや、男が男らしく振る舞い難い時代といえるだろう。 そんな男性が中性化する中で、移動式書店「BOOK TRUCK」の店主・三田修平さんは「かつて良しとされていた(男性らしさという)価値観が失われるのは残念」と嘆く。とはいえ、現在31歳の三田さんご自身も「本好きの文化系男子」。自分の中に眠る「男らしさ」に目覚めたのは、渋谷・神山町の書店「SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS(シブヤパブリッシングブックセラーズ)」で店長を務めたのち、2012年に大型トラック(=BOOK TRUCK)を店舗として書店をオープンしたのがきっかけ。商売を始めるにあたり、それまで全く興味がなかったクルマを思い切って購入。しかも、車種は80年代シボレーの大型バンだ。燃費が悪く設備費にもお金がかかるなど、よほど好きでなければ乗り続けられない代物と言える。三田さんは「今まで無縁だったクルマを買って、クルマ好きになった。こういう種類の男っぽさもいいなと思う」と心境の変化を明かす。とにかく『ダサい』『時代錯誤』と食わず嫌いせず、「かつて『男らしい』とされていた事柄に思い切って触れて見れば、『確かにカッコいいかも』と思える発見やヒントがきっと得られるはず」と力を込めて言う。 そこで今回の「シブヤ×ブックス」では、移動式書店「BOOK TRUCK」の店主・三田修平さんがブックセレクターとなり、「男の美学」をテーマにお薦め3冊をピックアップして紹介してもらった。古き良き武士道の精神を説く「三島由紀夫」、親世代の男らしさの象徴である「チャールズ・ブロンソン」、性を超越した中性目線で人間の美学を語る「淀川長治」という3人の賢者の言葉を通じ、三田さんと一緒に「男らしさとは一体何なのか?」という問いにじっくりと迫ってみたい。

今月のブックセレクター

BOOK TRUCK 三田修平さん(書店歴9年)

1982 年生まれ。「TSUTAYA TOKYO ROPPONGI」、「CIBONE 青山店」のブック担当を経て、渋谷の出版社兼書店「SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS」の店長を開店から4年間務める。2012 年に独立し、同年 3 月、移動式本屋「BOOK TRUCK」を始動。2013年10月、妹島和世さん設計の「大倉山集合住宅」に初の固定店舗「BOOK APART」をオープン。その他にも馬喰町の飲食店「イズマイ」のブックセレクトなど、様々な 形で本の販売に携わる。 今回の取材は、三田さんが定期的に出店する「代官山ヒルサイド マーケット」で実施。同マーケットは毎月第一日曜日、「食と雑貨」「骨董・古書」「食と雑貨」「陶器」と季節毎にテーマを変えながら市を開催しており、三田さんは「骨董・古書の市」に参加している。詳しくは公式HPへ

ブックセレクターからのオススメ

古き良き武士道の精神を知る一冊−「若きサムライのために」

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タイトル
「若きサムライのために」
著 者
三島由紀夫
出版社
日本教文社
発売日
1969/7/10
価 格
924円(税抜)
サイズ
18.8cm×13cm
ページ
220P

「Pocket パンチ Oh!」で連載していた「若きサムライのための精神講話」(1968年6月〜1969年5月)、「文藝春秋」に寄稿した「お茶漬けナショナリズム」(1966年4月号)、「東大を動物園にしろ」(1969年1月号)などのエッセイと、福田赳夫らとの対談等を含み、ナショナリズムや自主防衛、憲法メニュー論など、反革命を宣言した問題の書。死の一年前に書かれた「若きサムライのための精神講話」は、学生運動が激しさを増し従来の価値観が崩壊する中で、平和ボケと現状否定を厳しく排し、若い男性に向けて「サムライ」の生き方の規範と指針を示した遺言書といえる。
<三田さんのオススメポイント>
「若きサムライへ…」というタイトルの通り、若き日本男児に向けの生き方や規範を示したエッセイ。現代を生きる僕たちは直接、「武士道」教育を受けているわけではありません。若い人たちに「サムライ」と言っても当事者感は全くないし、誰も自分のことをサムライだとは考えていないだろうと思う。でも、この本ではそれを代弁する三島の言葉を通して、僕らがサムライ像のようなものを初めて認識することができます。それは、とても新鮮なこと。よく知られている通り、三島は思想も文章も厳格できっちりし、耽美的な美しさを求める美学の人。僕らが彼のマネをそう易々と出来るレベルの人ではないですが、伝統に裏付けられた美学に従う「男の生き様」は読む者の心を打つものがあります。特にエッセイは、小説では分からない作者の人間性が垣間見られ、本来持つ作家のキャラクターが掴みやすいもの。エッセイを通して三島の人間性を理解した上で、次に小説を読むとより作品が楽しめると思う。若い男子、「ポパイ」とかを読んでいるシティボーイに読んでもらいたい。

親世代の男らしさの象徴を知る一冊−「STUDIO VOICE 男の世界」

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タイトル
STUDIO VOICE VOL.242 男の世界 ブロンソン大陸で会おう!
責任監修
田口トモロヲ & みうらじゅん(ザ・ブロンソンズ)
出版社
INFAS
発売日
1996/2
価 格
571円(税抜)
サイズ
22.6cm×30cm
ページ
106P


サブカルなど魅力ある情報を発信した月刊カルチャー雑誌「スタジオボイス」(刊行期間は1979 年〜2009年)。1996年2月号の特集は「男の世界〜ブロンソン大陸で会おう!」。みうらじゅんさん、田口トモロヲさんが俳優チャールズ・ブロンソンさんの男気に憧れて結成したユニット「ザ・ブロンソンズ」が責任監修を行い、ブロンソンを通して語られる「男の美学」を語り尽くす特集号。主な企画は、ブロンソンがあごを撫でながら「う〜ん、マンダム」の名セリフで流行した「マンダムCFコレクション」や「ブロンソン大陸の男たち(リー・マービン、ジェイムズ・コバーン、スティーブ・マックイーンほか)」「ブロンソン大陸の夫婦たち(ジョン・レノン&ヨーコ・オノほか)」「ブロンソン大陸から聴こえる歌」「男気討論!ザ・ブロンソンズvsスチャダラパー」など。「ブロンソンの世界」を面白真面目に紹介した遊び心に富んだ特集号として、未だに高い人気を持つ一冊である。
<三田さんのオススメポイント>
口髭を携えた男らしい風貌の俳優、チャールズ・ブロンソンさんは、親世代の若者たちに「男の世界」を見せてくれたアイコンだと言えます。当時、スタジオボイスでは田口トモロウさん、みうらじゅんさんが「ブロンソンに聞け」という人生相談コーナーを連載。読者からの人生相談に対して、ブロンソンに成り代わって二人が男気ある回答をしていました。これが無類に面白い。「こういう場合、彼だったらどう解決するだろうか?」――ブロンソンの男らしい行動規範を想像することが、すなわち「男の美学」を鍛えることに繋がるわけです。たとえば、マンダムのCF撮影時、契約終了の時間が来ても希望の絵がとれなかった日本人スタッフが「どうしてももう1カット撮影したい。もう1時間もらえないだろうか」とお願いしたときに、ブロンソンは「私は約束の時間以外は働かない主義だ!」と語気を強め、ニヤリと笑っては腕時計の針を1時間戻し「私の時計はよく狂うんだ…まだ1時間残っている。さあやろう」と言ったというエピソード。こういう男気ある言動はナルシズムを多分に含んでいて気恥ずかしいものですが、こういった粋な振る舞いが自然にできる男は格好良いなと思います。本書は特に姉妹しかいない女子に読んでもらいたいです。男っていうのは、不器用で馬鹿!それを大目に見てもらうためにも読んでほしい。女性に三島的な武士道の世界は理解し難いだろうし、距離がある。でもブロンソン的な「男の世界」は愛嬌があるし、「所詮、男の子はこうだよね」と笑って理解してもらえると思う。

性を超越した人間の美学を知る一冊−「美学入門/夜中の学校 3」

タイトル
美学入門/夜中の学校 3
著者
淀川長治
出版社
マドラ出版
発売日
1992/9/20
価 格
951円(税込)
サイズ
19cm×22.5cm
ページ
99P

天野祐吉が企画・司会を務め、テレビ東京深夜に放送された「夜中の学校」。糸井重里、中沢新一、橋本治、野田秀樹、秋元康、景山民夫など、週1回1カ月毎に多才な講師を各界から招き、それぞれのテーマで講義を行う異色番組。1991年8月〜1992年3月までの放送で計13人の講義が行われ、各テーマ毎に1冊ずつ議事録を書籍化。「美学入門」は淀川長治が番組内で講義を行った「愛の美学」「笑いの美学」「粋の美学」「人生の美学」、さらに特別補講「映画は愛の学舎である」をまとめた一冊である。
<三田さんのオススメポイント>
淀川さんは、人生を豊かにする物事を映画からすべてを学んだと言います。生涯独身を貫いた淀川さんらしい中性的な着眼点は、男性でも女性でも大いに参考になります。本書の中で僕が一番印象に残ったのは「粋の美学」の章です。外国映画をたくさん観ている淀川さんは、フランス人の「フランスの粋」、アメリカ人の「アメリカの粋」など、外国映画の中に「粋」を見出しています。僕らが慣れ親しんだ「日本の粋」とは趣が違ったりもしますが、世界各国の「粋」はそれぞれ魅力的で格好良いなあと思いました。今の時代は、どうしても「効率」が求められます。ところが「粋」は全く別軸の話で、「効率」を第一に置かない振る舞い(生き方)とも言えます。情報が溢れる現代では、分かり易さばかりが重視され、説明が難しいものや感覚的なものは敬遠されがち。そういう効率性だけでは割り切れないものの中に「情緒」や「豊かさ」があることを、淀川さんの本から教えられます。ぜひ、映画好きの人に読んで欲しいです。
今回3冊を見てきましたが、自分なりの男像を確立して、それに反する行動を厳しく律して生きるのが「男の美学」なんじゃないかと思う。僕の「男の美学」は「セルアウト」しないこと。「セルアウト」とは、社会へのメッセージ性を排し、商業的な成果だけを求める行為(姿勢)を指す音楽用語ですが、アメリカの偉大なラッパー・KRSーONE(ケアレス・ワン)は著書「サイエンス・オブ・ラップ―ヒップホップ概論」の中で、「セルアウト」について「売れる曲を出す事がセルアウトではない、目先の利益に目が眩み、自分のルーツを失う時にセルアウトというのだ」と語っています。僕も自分のルーツを失わないように男気をもって勝負し続けていきたいと思います。

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