「渋谷に生息する微生物を調べ、次世代の都市デザインを考える」 GoSWABプロジェクト始動中!
2017年7月、JR渋谷駅新南口エリアにオープンした「100BANCH」(ヒャクバンチ)は、「100年先の未来をつくるために100人のプロジェクトを支援する」ことを目的としたオープンイノベーションの拠点。2018年にパナソニックが創業100周年を迎えることを機に、パナソニックを中心に渋谷の企業であるロフトワーク、カフェ・カンパニーが協力して構想がスタートしている。
2階は一般公募で選ばれたプロジェクトチームが入居し、様々な活動を行うワークスペース「GARAGE(ガレージ)」。
これからの時代を担う若い世代とともに、次の100年につながる新しい価値の創造に取り組む。常識にとらわれない価値観を持つ若者たちの「多様なプロジェクト」を、各分野のトップランナーがサポートを行い、メンタリングの機会を通して活動を支援していくという取り組みだ。渋谷文化プロジェクトでは今後、渋谷発の新たなアイデアやテクノロジーが数多く輩出されていくであろう、同実験区に参加するユニークなプロジェクトのひとつをいくつか紹介していく。
今回はGoSWAB(ゴースワブ)代表の伊藤光平さんにインタビューしました。現役大学生を中心に構成されるGoSWABは、公共交通機関や大学,商業・観光施設など、私たちが生活する都市環境に生息する「微生物」を調査し ヒトとどう関わっているのかを解明していくプロジェクトです。
さて、渋谷で採取される微生物には、一体どんな特長があるのでしょうか――。
|地道な息の長い取り組みが、未来の都市環境にどう影響を及ぼすのか
__GoSWABプロジェクトの活動目的を教えてください
私たちの生活する都市環境には、数多くの微生物が生息しています。その微生物や動植物のゲノム(遺伝情報の全体)を集めて調査し、ヒトとの関わり合いを明らかにして「次世代の都市デザイン」を行おうとしています。
微生物は、腸内・口腔内・皮膚上などヒトのあらゆる部位に共生していることが知られ、大気中にも多く生息しています。その微生物と周囲の環境がお互いに影響を及ぼし合って、複雑な反応系を形成しています。もともと、ニューヨークにあるコーネル大学医学部のクリストファー・メイソンという先生が、ニューヨークの公共交通機関(地下鉄)のゲノムを調査し、論文化したことがアメリカ国内でニュースになって、「都市環境微生物」という分野に注目が集まるようになりました。
日本の公共交通機関はアメリカよりもかなり混雑していて利用人口も多い。それに比例して存在する多くの微生物が人や環境とどのように関係し何に影響しているのかを明らかにすることは「感染症予防」などをはじめ、様々な可能性が示唆されます。その可能性を追求していくため、私たちは学生団体GoSWABを立ち上げて、本格的に調査していこうと決意しました。
_そもそも「微生物」分野に進もうと思ったのは、いつごろ、どんなことがキッカケですか?
小学生の夏休みの自由研究では有線電話を作ったりなど、小さい頃から「人と違うことがしたい」という意思を持って行動していたところがありましたね(笑)。地元・山形の高校に通っていたときに、鶴岡市にある慶應義塾大学の先端生命科学研究所で「特別研究生」の募集告知が目に止まりまして。即座に応募したところ、合格することができまして、そこで高校時代の3年間にわたって「微生物」研究を行ったのがキッカケ。「微生物には無限の可能性がある」と感じ、さらに研究を続けたいという気持ちが高まって、慶應義塾大学への進学を決めました。
|様々な人種や世代が集積して、「渋谷の微生物コミュニティ」が形成
_5月12日(土)に渋谷の街でゴミ拾いをしながら、細菌の採取イベントを催したそうですね。当日の様子を教えていただけますか?
今回の採取イベントでは、100BANCHIのプロジェクト仲間である「ふんどし部」をはじめ多くの方に参加していただきまして、とても良い会になったと思います。ちなみにふんどしで採取するメリットは一切ありませんが(笑)、かなりインパクトが有ったと思います。当日参加者には場所を決めず、みなさんに自由に採取してもらいました。自動販売機や公園の蛇口、砂場、路上など、それぞれ採取する場所が異なっているところが面白かったですね。今回採取したサンプルはアメリカのコーネル大学に郵送し、向こうの解析チームが解析します。世界中からサンプルが届くため、結果がわかるのは当分先になります……。でも、すぐに結果の出ないところも、息の長い取り組みとして、楽しみながら取り組んでいけるプロジェクトじゃないかなと思っています。
_都市・渋谷での調査を通じて何を感じましたか? また、渋谷を拠点とする100BANCHで活動しようと思った理由も教えてください。
渋谷は、とても混雑する場所なので、微生物の総量がとても多く、きっと人と人との微生物の交換が他エリアよりも活発だと思います。また、様々な人種や年齢層の人たちが集まっている点も、都市環境の微生物を研究する上で、とても面白いエリアだなと着目しています。先行研究や過去のGoSWABの研究結果から推測するに、ヒト由来の微生物(口の中、肌の上、腸内)と環境微生物(土壌、河川、海)によって、「渋谷の微生物コミュニティ」が構成されているのではないかと。その点を調査によって掘り下げていきたいと考えています。
_研究と一般社会の繋がりは密接でありながら、相互の接点が見えにくいこともあります。専門家でなくとも参加協力ができる仕組みや、子どもも関われる取り組みなどは、お考えですか。
過去には、私の母校である山形県立鶴岡南高校で何度かレクチャーを行い、校内で高校生と一緒に微生物のサンプリングを行ったこともあります。サンプリング自体は小学生でもできる簡単なもので、誰でも気軽に参加が出来ます。今後、都内でもイベントを開催していこうと検討しているところです。そういった若い人びとを巻き込んだイベント開催を通じて、微生物に興味を持つキッカケになればといいなと思っています。
_こんな方々に協力・参加してもらいたいという呼びかけがあれば教えてください。
・微生物の調査・解析
・建築デザインを含めたメタデザインの検討
・活動自体のマネジメント
・各種メディアへの広報活動
以上の点で興味があり都心に住んでいる学生であれば、どなたでも参加可能です!ぜひ一度お話を聞きに来て頂ければと思います。
_大切にしている"想い"や"言葉"、今後の展望をお聞かせください。
「やりたいことをやる」ということを僕は大切にしています。GoSWABでやっていることは、僕が心からやりたいことでもありますし、所属しているメンバーたちにも彼らがやりたいと思っていることを、極力できるような環境を整えようと努力しています。プロジェクトを始めた当初、「そんな事は無駄だよ!」とか「そんなのできっこないよ!」など、否定的な声も様々ありました。そんな中でも、国内・国際学会での発表や、メディアでの取材など、できることを1つ1つ着実に成し遂げてきました。まだ、僕たちが目指す「新たな都市デザインを行う」という目標には程遠いですが、少しずつ前進しているを実感しています。これからも、やるべきことを見失わずに進んでいきたいと思います。
<取材メモ>
「やりたいこと、やるべきことを見失わずに進んでいきたい。」という、伊藤さんの言葉に共感します。同時にメンバーに対しても同様の配慮が感じられます。その共生のスタンスが広がり生み、ゆくゆく研究が社会環境作りに反映されていくことを願っています。
採取した微生物が都市環境、人とどのように関係しているのか、これからも同プロジェクトに注目し関わりを見つけていきたいです。
砂子啓子(代官山ひまわり)
宮城県仙台市で始まった子育て中心の暮らしを、転居した東京で新たにスタート。育児、家事、防災、仕事、地域活動。多数の興味関心事をミックスし複合的視野を持って生活中。