渋谷文化プロジェクト

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「渋谷天空都市プロジェクト」で、都会のデッドストック「屋上」を再生する!

2017年7月、JR渋谷駅新南口エリアにオープンした「100BANCH」(ヒャクバンチ)は、「100年先の未来をつくるために100人のプロジェクトを支援する」ことを目的としたオープンイノベーションの拠点。2018年にパナソニックが創業100周年を迎えることを機に、パナソニックを中心に渋谷の企業であるロフトワーク、カフェ・カンパニーが協力して構想がスタートしている。
2階は一般公募で選ばれたプロジェクトチームが入居し、様々な活動を行うワークスペース「GARAGE(ガレージ)」
これからの時代を担う若い世代とともに、次の100年につながる新しい価値の創造に取り組む。常識にとらわれない価値観を持つ若者たちの「多様なプロジェクト」を、各分野のトップランナーがサポートを行い、メンタリングの機会を通して活動を支援していくという取り組みだ。渋谷文化プロジェクトでは今後、渋谷発の新たなアイデアやテクノロジーが数多く輩出されていくであろう、同実験区に参加するユニークなプロジェクトをいくつか紹介していきたいと思う。

第1回目となる今回は、遊休資産となっている都市における「屋上」に注目し、そのデッドスペースを価値あるスペースとして再生を試みる、建築家・鈴木克哉さんをお迎えする。いくつかある屋上再生アイデアの中で、今回のインタビューでは100BANCHで鈴木さんが取り組む「渋谷天空都市プロジェクト」について、じっくりとお話しを聞きました。そもそも、鈴木さんが「屋上」に魅せられたのはどうしてですか――。
鈴木克哉さん(szki architects株式会社一級建築士事務所 代表取締役)/牧之原市生まれ。横浜国立大学建築学科卒業。菅根史郎建築設計事務所(北京)勤務後、szki architectsとして独立。東京事務所として東新宿に実験スペース「みせるま」をオープン。設計業務を越えてマキノハラボ取締役として旧片浜小学校を管理中。また、HAZプロジェクトとしてエリア特化した空き家再開発に取り組み中。好きな音楽は祭囃子。祭囃子の全国大会を2019年に開催予定。
|空から見ても豊かな世界初の都市像を。

_まず、プロジェクトの概要を教えてください。
「渋谷の天空全てを使って、誰も見た事のない新しい都市をつくろう」というプロジェクトです。現在の渋谷は地上面においては世界屈指の賑やかな都市なのですが、ふと空から眺めてみると、室外機やキュービクル(電気を変圧する受電設備)がひたすら並ぶ、かなり荒れ果てた風景となっています。この広大なデッドスペースでしかない屋上や、壁面を価値ある空間に蘇らせ、空から見ても豊かな世界初の都市像を目指せないかと考えています。

_なぜ都市の屋上を活用し始めたのか、また100BANCHで活動しようと思ったきっかけは?
このプロジェクトの考え方自体は10年以上前から考えていて。昔、お金が無くて友人の家を泊まり歩きしていた時に、屋上や河川、高架下など空いたスペースで暮らす、新しい住み方が出来ないか実験もしていました。現在「みせるま」という自分の建築設計事務所を兼ねた飲食店を経営していますが、「みせるま」も元々は屋上にオープンしようと思っていたほど。鈴木さんを中心にプロジェクトメンバーたちがワークスペースで活動を行っている。
そんなこんなで10年ほど様々なアイデアを熟成させていたところ、100BANCHのメンター欄に長谷部区長のお名前を偶然に発見し、これは話が早いと思って参加することに。お陰で渋谷駅周辺整備課さんから地域の方や企業の方たちを紹介していただき、徐々に道が開けつつあります。

_これまでの「屋上活用」の事例を教えてください。
以前、ラジオに出演したことがあるのですが、その際に反響の高かったのが「天空防災キャンプ」という取り組みでした。天空防災キャンプというのは、都市型災害等で帰宅困難者が多数出たケースを想定し、「いかに楽しく避難生活をするか」ということに重きを置いた防災知識を学ぶものです。
天空防災キャンプの様子
避難経路を確認した後、屋上にテントを設置して都市型のキャンプを楽しみます。電気や水などのインフラが無い屋上でのアウトドア体験を通して、便利なインフラが突如無くなった場合に、何が必要か身をもって体感できます。
天空初日の出キャンプの様子
今年の元旦、静岡県牧之原市で管理運営している旧片浜小学校屋上で「天空初日の出キャンプ」を開催したのですが、サバイバルのような非日常感を味わえました。特に冬場はしんと冷たく澄んだ空気と、満月に照らされた山々に囲まれてみて初めて、登山家や冬キャンプ愛好家の方々が何故そんな過酷なことをしているのか、少し分かった気がしました。

|渋谷は出汁が効いている「鍋」。

_なぜ、「渋谷」で活動しようと思ったのですか?
長谷部区長の柔軟さは以前より拝見していたので、それが一番のきっかけです。あと、横浜国大の建築学科では三年時に建築家・西沢立衛さんの設計課題を受ける事ができるのですが、そのテーマが「渋谷」でした。その課題で提案したのが、小さな可動式の建築郡を都市のデッドスペースにバラまき、高架下にその建築群を置くためのプラットフォームを吊る案でした。都市スケールの設計を初めてしたのが渋谷で、細かいフィールドワークを初めてしたのも渋谷だったので、そこでの経験も大きいのかもしれません。 いずれにしても、都市の文献をあたれば渋谷は頻繁に参照されていますし、都市に言及する上で外すことのできない稀有なエリアだ、という意識がいつからか植え付けられていたように感じています。他のエリアでは不可能なことも、ここではできると。

率直に言えば、渋谷に「鍋」みたいなイメージを持っています。鍋みたいな地形に、どこから来たのか分からない人たちが色んな味を付加していくような鍋です。渋谷と関わっていく中で、実は金王八幡さまを中心とした地元の方々が「出汁」としてかなり効いていることも知り、更にこの鍋の深みを感じています。

_「出汁が効いている鍋」というのは面白い見方です。今後のプロジェクトの展開を教えてください。
まずは「天空防災キャンプ」の拡大化するため、アウトドアメーカーとコラボレーションができたらと考えています。何時間もかけて地方に行くことなく、都会ならではのアウトドアを楽しむことを「都市型アウトドア」と勝手に呼んでいるのですが、今までの都市環境では都市でアウトドアを楽しむというのは非現実的でした。でも都市が成熟してきた現代では、その土壌が整ってきているのではないかと思っています。

それと並行して「天空家具〜桜〜」の制作も進めています。天空家具というのは、屋上を中心とした工事が難しいところに設置する少し大きめのエクステリア家具シリーズです。直接工事をすることなく、設置するだけで周囲の雰囲気が著しく向上するような、建築のような家具として設計しています。例えば、何も無い空間にイスが一脚置かれるだけで、そこに「場」が生じますよね。人がイスをイスだと認知した時に、特別に説明を加えることなく「座る」などの、人の行為を誘導するヒントを与える、そういう脳内で補完していく「知覚空間」を最大限に利用する家具を制作しています。具体的には、桜の苗木を埋め込んだ小さなベンチを作っていまして、3月30日に渋谷駅前桜丘町で開催される「桜まつり」で会場に設置する予定です。これは持ち運びもできるため、桜神輿など動く桜、担ぐ桜として楽しむこともできそうなので、来年以降の課題にしていきたいと考えています。

もう一つ、桜の苗木には特別な役割があります。長谷部区長が「ロンドン、パリ、ニューヨーク、そして渋谷」とよく言っていますが、もし渋谷が世界と肩を並べられる機会があったら、渋谷で育った桜をぜひ海外へ贈呈してもらいたいなと思っています。ただ、今の渋谷の地上面で苗木を育てるのはほとんど不可能です。そこで屋上が最適だと考えていて、渋谷のペンシルビル屋上にポツポツと桜がある光景も、面白いものになりそうだと思っています。

天空家具の説明が長くなってしまいましたが、今後は天空活用の基礎部分も固めていきたいと考えています。このプロジェクトをやっていて感じるのは、屋上利用という考え方自体が全く未開拓だということ。屋上緑化することで、ヒートアイランド抑制、よりよい空気の循環、雨水遅延によるゲリラ豪雨の抑制、断熱性の向上、騒音の低減など、都市への貢献は多大です。一定規模以上のビルは屋上緑化が義務化されているため、都市環境に貢献しているビルもいくつかあります。また屋上で養蜂を行う「渋谷ハチミツプロジェクト」や、渋谷の遊休スペースの活用を進める「ネオ共用部」、円山町で屋上農園を行う「ウィークエンド・ファーマーズ」など、屋上活用を進めている団体もいくつかあります。でも、それを正当に評価するシステムは整っておりません。あまりに未開拓なままなので、まずは「天空緑地認定」のような賞をつくって、ちゃんと評価する仕組みづくりを行っていきたいです。

|ビジネスが成立する「マッチング・プレゼン大会」を開きたい。

_屋上活用をもっと加速させていくのは、どうすればいいですか?
牧歌的に、倫理的にやっていても、渋谷の天空全体を変えていくのはほとんど不可能です。ビルオーナーと不動産屋にちゃんとお金が落ちて、スポンサー企業や自治体が評価され、利用者が楽しみ、経済として回らなければ浸透していきません。そこで考えているのが、「マッチング・プレゼン大会」です。 これは屋上の権利を持っているオーナーを一同に集め、建築家や学生、デザイナー、事業者、あらゆるクリエイターが様々なアイデアをプレゼンし、そこに専門家の批評を加味し、オーナーが「ビジネスとして」発注するマッチング企画です。今までのアイデアだけのコンペにはなかった「実現性・収益性」に比重がかかったものです。システム化して定期開催し、ビジネスとして天空が変わっていけば加速度が違うと思います。建築家・フンデルトヴァッサーさんは「あなたは“窓の権利”を持つ事ができるが、同時に“木の義務”を負わねばならない」と屋上緑化の義務を主張していましたが、でも倫理観・義務感だけで引っ張っていっても限界があります。建築設計業務においても、現代のクライアントに倫理観だけで説得するのはとても困難で、経済として回さないとあまりにも厳しいです。渋谷は地価が高く人口も過密な都市です。だからこそ天空で新しいビジネスが成立しうる土壌があるのではないかと思っています。

_今後、こんな方々に協力・参加してもらいたいという呼びかけがあれば…
使っていない屋上や外壁を使って何かをやってみたい人、屋上もったいないなと思っている人、屋外部が好きな人、都市を違った視点で見たい人、環境問題に興味がある人、地球が好きな人、
そして、 CSRやCSVとして都市へ何か還元したいと考えている企業様!
どれだけ小さくても構わないのでビルを持っているオーナー様!
ぜひご協力をお願いいたします! ここは太字でお願いします(笑)!


_このプロジェクトで「渋谷をどう変えていきたいか?」、鈴木さんの意気込みをお聞かせください。
世界初の「立体的な都市風景」を形成してほしいと思っています。渋谷は1970年代まで渋谷パルコを中心とした「公園通り」が日本の都市を牽引する形で劇的に変化していきましたが、それ以降、都市風景はそこまで進化していません。渋谷の建築郡は郊外化し、駅前が大きくなった程度です。
「天空防災キャンプ」時に屋上から撮影
これは渋谷に限ったことではないですし、世界中の都市が成熟を迎えています。ここで渋谷が世界に先駆けて「新しい成熟の形」を提示できたら、世界中の都市、メガシティもいい方向に変わっていくのではないでしょうか。将来的に、都市人口比率はますます増加していくだろうと予測されています。都市の空気を、環境を、少しでも良いものにして気持ちよく呼吸したい。一般的に、建築のプロジェクトは1年以上かかるものも多く、都市のプロジェクトは10年以上かかるのが普通です。本来的に時間がかかる試みですが、立ち上がる人が増えれば増える程早く走っていきます。ぜひともご協力をお願いいたします。

<取材メモ>
東京の屋上は熱に満ちています。このエネルギーと開放的なスペースを有効に活用し、新たな都市の空間、集う場、防災の場を作っていくことは100年後の未来にどのような効果があるでしょうか。考えるとワクワクするこの取り組みに今後も注目し、多くの方と参加をしていきたいですね。

「渋谷天空都市プロジェクト」にご興味のある方はこちらまで
szki architects一級建築士事務所 天空都市事業部 info@szkaa.comまで

東新宿の「みせるま」が事務所になってますので、こちらもぜひ。
https://www.facebook.com/miselma.tokyo/

取材協力:100BANCH

砂子啓子(代官山ひまわり)

宮城県仙台市で始まった子育て中心の暮らしを、転居した東京で新たにスタート。育児、家事、防災、仕事、地域活動。多数の興味関心事をミックスし複合的視野を持って生活中。 

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