【レポート】炎天下の渋谷・東急本店屋上で「渋谷産のハチミツ絞り」を取材!
台風が通り過ぎた8月9日(水)。渋谷では午前中から厳しい暑さとなり、午後0時過ぎには38度を超え、今年一番の暑さを記録した。
立っているだけでも汗がにじみ出る中、渋谷・東急百貨店本店の屋上では、今年最後の養蜂活動となる「ハチミツ絞り」が行われ、その様子を取材してきました。
渋谷で養蜂と聞いて、驚いている人もきっと多いのではないでしょうか。 実は「都市養蜂」の先駆けとして知られる「銀座ミツバチプロジェクト」に触発され、2011年3月8日に有志で「渋谷ミツバチプロジェクト」が発足。当初は桜丘町にあるビルの屋上で小規模で行われていたが、その後、同プロジェクトとはちみつ専門店「ラベイユ」を運営するラベイユ(本社:杉並区)と共同で積極的に活動を進め、現在、渋谷や恵比寿、青山など、広域渋谷圏を中心に計7カ所のビル屋上で養蜂活動が行われている。
その7カ所のうちの一つが、東急百貨店本店の屋上である。創業50周年を迎える東急本店では、都市の中での自然との触れ合いの場を提供したいという考えから、「ミツバチプロジェクト」のほか、今年の5月には屋上に水田を作り、近隣の神南小学校の生徒達と一緒に田植えを行うなど、「環境保全」や「地域連携」に力を注いでいる。
田植えから3カ月間が過ぎ、夏の青空に向かって順調に生い茂る稲穂。今秋には、田植えに参加した子どもと共に稲刈りや脱穀体験を行い、収穫したお米を実食する体験も行うという。
さて、ミツバチに話を戻そう。今年の3月に設置されたミツバチの巣箱は、全部で4箱。1つの巣箱に約4万匹、4箱で約16万匹のミツバチたちが暮らす。大都市、渋谷の蜜源・花粉源は一体どこか? 実は、都内でもベスト10に入る広さを誇る「代々木公園」が約1km先に広がる。そのほか、代々木公園に隣接する明治神宮や目黒川周辺、さらに渋谷は街路樹や一般家庭の園芸植物もとても多い。春先のサクラをはじめ、フジ、トチ、サルスベリ、クローバー、ひまわり、ラベンダー、コスモスなど、春から夏にかけてミツバチたちの蜜源は豊富で、決して悪い環境ではないのだ。
さらにもう一つ都市養蜂ならでは利点がある。昨今、世界的にミツバチの失踪や大量死等が問題視されているが、その一番の原因は世界中に広く普及する「ネオニコチノイド系農薬」だと言われている。果物を栽培する農家が受粉を助けるミツバチ不足に悩まされている、というニュースを聞いてことがある人もきっと多いだろう。既にEUでは「ネオニコチノイド系農薬」の使用を禁止する動きも進んでいる。一方で渋谷などの大都会は多くの人びとで賑わうため、比較的に農薬散布が行われておらず、ミツバチにとっては安全に蜜集めができるオアシスと言えるのだそうだ。では一層のこと、すべての養蜂を都会で行えば良いのではと思う人もいるかもしれないが、渋谷の蜜源は、せいぜい現状の巣箱数が限界。今以上に増やせば、1箱当たりの採蜜量が減少したり、またハチ刺害の不安を感じる住民が増えるなど、単に増やせば良いということでもないらしい。
春から3回目を迎える今回の採蜜(はちみつ絞り)で、今シーズンも最後。花の多い春から初夏に比べると、8月過ぎは蜜源が枯渇することや、また天敵であるスズメバチが増えること。さらに越冬休眠に向け、産卵育児に専念させてミツバチの数を十分に増やすため、8月を過ぎると採蜜をせずに静かな場所に巣箱を移すのだそうだ。
巣箱の引っ越し準備を行う養蜂のスタッフたち。
ちなみに渋谷のミツバチたちは、高尾山にあるラベイユの自社養蜂場に運ばれて、また来年の春に渋谷へ再び戻ってくる。もちろん、ミツバチの寿命は約40日前後と言われているため、今、巣箱にいるミツバチだたちがそのまま戻ってくることは決してない。彼らの孫孫孫…くらいのミツバチたちが数を減らしながらも厳しい冬を乗り越えて、渋谷に戻ってくるのだ。次世代のミツバチにバトンを繋げるため、越冬に必要な蜜をせっせと貯める姿を見ているだけで、何とも心が洗われる。ハチと聞くと刺害を怖がる人もきっと多いと思うが、ミツバチは性格がおとなしく、巣が襲われない限り、人を刺すことは少ないという。今回の取材でもかなり巣箱に近づき、撮影や取材を行ったが襲ってくる様子はなかった。
屋上の水田では水分補給するミツバチの姿も見られ、養蜂と稲作の組み合わせは、エコシステムとして上手く機能していることがうかがえる。
採蜜の手順は、まず巣箱から巣枠を取り出す。
ミツロウで被われた「蜜ブタ」をナイフで削り、蜜を出やすくする作業を行う。
その後、遠心分離器に巣枠をセットして、手動で回転させながら巣とはちみつを分離させていく。分離機内に貯まったはちみつは、ゴミや埃などを取り除くためにバルブから取り出して、濾過を行う。今回の採蜜量は約40kg、今シーズン3回の採蜜作業で約120kgのハチミツが絞られた。
僕らは濾過を行う前の、採れたてのはちみつを試食させてもらったところ、スッキリとした甘さが口中に広がった。さらに驚いたのは、市販品に比べてものすごく香りが豊かであること。花の香りが口から鼻へ一気に駆け上がっていくような、そんな五感を刺激する美味しさを感じた。ちなみに、この時期はサルスベリの花などの蜜が主流なのだという。
採蜜後、はちみつを製品化するまでには何度も濾過をしてゴミ除去を行い、その後、成分分析などの検査を行う。しっかりと安全が確認されたのちに出荷されるため、店頭に商品が並ぶのは早くても1、2カ月先。今回、採蜜したはちみつは、9月過ぎ頃から渋谷ヒカリエShinQ’sの「ラベイユ 渋谷ヒカリエ店」で販売を予定しているという。店頭に「渋谷産のはちみつ」が並ぶのが待ち遠しい。
編集部・フジイタカシ
渋谷の記録係。渋谷のカルチャー情報のほか、旬のニュースや話題、日々感じる事を書き綴っていきます。