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【イベントレポート】Shibuya Startup Ecosystem開催 −渋谷をさらなるスタートアップの集積地へ

<イベント概要>
Shibuya Startup Ecosystem
〇開催:2017年2月28日(火)12:30〜17:00
〇会場:渋谷ヒカリエ9階ヒカリエホールB
〇主催/共催:Tokyu Accerate Program(TAP)/SLUSH TOKYO

渋谷拠点のスタートアップ企業促進を目的としたイベント「Shibuya Startup Ecosystem(渋谷スタートアップエコスシステム)」が2月28日、渋谷ヒカリエ9階ホールBで開催された。スタートアップを支援する立場のベンチャーキャピタル(VC)やアクセラレーターらが集まり、渋谷での起業の魅力を発信した。

本来は「生態系」を意味する「Ecosystem(エコシステム)」だが、IT分野では「複数の企業や人物が結びつき、循環しながら共栄していく仕組み」などと解される。特に「スタートアップエコシステム」となると、優秀な人材を輩出する大学、起業家に投資をするVC、起業家を支援し会社を発展させるアクセラレーター、これらを支える大企業などが結びつくことが多い。

ご存知の通り、渋谷は日本有数のスタートアップ起業の集積地である。周辺にはリクルート(TECH LAB PAAK)や朝日新聞社(メディアラボ)、KDDI(∞Labo)などの大企業が出会いとイノベーションの場を提供し、多くのスタートアップを支援している。海外事例や国内の歴史を見ても「『スタートアップエコシステム』は地域密着型で育ってきている」ことから、今回のイベントは渋谷でのエコステム形成のさらなる構築を目指して企画された。第一部のパネルディスカッションでは、澤山陽平氏(500 Startups Japan/マネージングパートナー)をモデレーターに、ベンチャーキャピタリストら6人が登壇。「どうやって起業家を増やすか?」「スタートアップを渋谷という街でやる意味」などについて意見が交わされた。

まず、起業家を増やしていくにはどうすれば良いのか? 佐俣アンリ氏(ANRI/Founder and General Partner)は、これまでの経験から「あまり『起業家とはかくあるべし』とは決めなくていい」と主張。現状は、相当な気合を持った本気の人しか「起業家のドアを叩いていない」とし、「『起業するか、今の会社であと3年頑張るかどうしようか』というような人が来てくれれば、裾野が広がる」と、気負いなく起業家の門を開けてほしいと呼びかけた。

同じく登壇者の伊藤健吾氏(DAV4/COO)は、立地としての「渋谷の価値」について言及。実際にスタートアップをドライブし、エンジン・燃料として引っ張っていくメンバーには「学生が加わることが大事だ」と持論を展開する。特に渋谷は東大・早慶のキャンパスから電車でのアクセスが良く、近隣の大学から優秀な人材が集まりやすい利便性の良さが魅力だという。

また渋谷とスタートアップの相性について、佐俣氏は「スタートアップの起業家は、丸の内や新橋で働くサラリーマンタイプではなく、夜中に六本木や渋谷のクラブにみんなで行って、ワッって酒を飲むテンションに近い生き物だと思う」という。今後、ナイトマーケット(夜間市場)の発展が見込まれる東京であるが、中でもナイトマーケットの潜在需用の高い渋谷や六本木には、スタートアップ企業がさらに集積していく可能性を匂わせた。

一方、ヨーロッパの起業家の傾向から、渋谷に期待を寄せたのは猿川雅之氏(DIGインキュベーション/取締役CIO)だ。猿川氏によると、例えばドイツは、西側は丸の内のようなガラス張りのオフィスが並び、東側の古いビルにアーティストやミュージシャンが好んで入居している。その東側に今、起業家が流れてきており「築古の建物をリノベーションして使うのが1番カッコイイ」という風潮があるそうだ。続けて猿川氏は、ドイツの隣国ポーランドも同じ状況だと紹介し、「渋谷もそっちの方にいくと面白い」と語っていた。新しいオフィスビルも悪くはないが、今まで長い時間が刻まれてきた古い雑居ビルや工場など、空きスペースをうまく活用して、渋谷らしいオフィスを作っていく。再開発が進む今だからこそ、渋谷の古い建物や空きスペースに目を向けてみるというのは、面白い提案といえるだろう。
パネルディスカッションの様子
第二部は、アクセラレーター6人によるパネルディスカッション。「なぜ、渋谷に集積するのか?」、その意義を各社登壇者が語った。麻生要一氏(リクルートホールディングス/TECH LAB PAAK)は、本社銀座から離れた渋谷に拠点を置いた理由について、「スタートアップ支援なので、渋谷に居を構える事の必然性はあると思う」「これまでは渋谷を中心にスタートアップがオフィスを構えている歴史があったので、構えるのならここの村に入らないといけないと思った」と振り返った。同じく渋谷に強くこだわったというのは、白石健太郎氏(朝日新聞社/Asahi shimbun Accelerator Program)。メディアラボを計画している時に社長から「(本社のある)築地でやってちゃいかん。渋谷に行きたまえ」と助言を受け、「今の宮下公園前に居を構えた」と明かした。

今回の会場「渋谷ヒカリエ」の32階で、KDDI∞Laboを運営する皆川拓也氏も「渋谷で『着うたフル』やDeNAさんとの協業で成功体験を持っていた。そういった方たちと付き合うのなら、近くに行った方がいいよねというのが始まり。そういった舞台自体が渋谷にあり、違う地域から引っ越してくるならインキュベーション施設(KDDI∞Labo)もつくろうという計画があった」とその経緯を紹介した。各企業ともに新宿でも六本木でもなく、あえて渋谷という土地にこだわりを持ち、スタートアップを支援する拠点を構えたという。
イベントの様子は、オンタイムでグラフィックレコードでまとめられていた。
ディスカッションの最後に、加藤由将氏(東急電鉄/東急アクセラレートプログラム)は起業家を増やす方法をこう語った。「渋谷にはコワーキングやインキュベーション施設などがある。さらにソフト面ではアクセラレーターや、VCがすぐ近くにいて、メンタリング(スタートアップ企業の育成)もできる」。恵まれた渋谷の現状を紹介した上で「ソフトはコミュニティだと思う。海外、過去を遡っても、(起業家を増やすには)やはり『地域密着型コミュニティ』。渋谷全体でケアしていけば、起業家は(自然と)増えていくだろう」と、「Shibuya Startup Ecosystem」のさらなる構築の方向性を示した。

1999年代後半からのビットバレー構想で、ベンチャー企業が集まった渋谷の地域。3.11以降、渋谷にコワーキングスペースやシェアードオフィスが増えるとともに、若い起業家やスタートアップ企業を支援するVCやアクセラレーターらも拠点を置き始め、問題点の分析や課題解決などに一緒に取り組み始めている。現在、渋谷では再開発によるハード面の整備や充実が進んでいるが、同時にソフト面の担い手であるクリエイティブ産業や次代の起業家の創出が強く求められている。今回の「渋谷スタートアップエコシステム」は、「起業家・スタートアップ企業」「支援者(VC・アクセラレーター)」「まち(渋谷)」が三位一体となって取り組んでいける仕組みといえるだろう。渋谷発のエコシステムが一気に加速していくことを期待しながら、今後の成長を見守りたい。

重野マコト

社会部記者として新聞社に入社後、イベントプランナー、コンテンツディレクター、飲食店経営を経て、現在はフリーライター。インタビューやイベントレポートなどの現場取材をメインに活動する。

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