桜の樹の下で
来週掲載予定の「Bunka×Person」の取材のため、昨日今日と渋谷の「桜スポット」を巡ってきました。渋谷区の指定天然記念物にもなっている「金王桜」が満開の金王神社をはじめ、桜丘町、松濤公園、宮下公園、美竹公園、代々木公園など、渋谷の街では予想以上に多くの桜の木を見ることができます。意外なことにハチ公像の前にも立派な桜の木が二本あり、ハチ公の後ろにもしだれ桜が咲いていて、待ち合わせをする人たちや外国人観光客の目を楽しませていました。街頭ビジョンやカラフルな広告ボードに紛れてはいるものの、大振りな桜の花はその存在を強く主張しているように見えました。
この時期にお花見をするなら、すでに花見客でにぎわう代々木公園が質量ともにボリュームもあっておすすめですが、松濤公園の湧水池につつましく佇む桜にも別の味わいがあります。
また、座ってお花見をすることはできませんが、桜の持つ幻惑的な魅力を五感で味わいたければ、桜丘町の坂道の両脇に列をなす桜のアーチが圧巻です。
桜を下から見上げると、四方八方に枝が広がり、茶と白とピンクで乱雑にコラージュされた視界の隙間から、グラデーションのかかった青空が写し出されます。天然のモザイク画ともいえるその光景をずっと眺めていると、だんだんと視覚が拡がって遠近感を喪失し、そのうちに五感の全てが曖昧になって気が遠くなるような錯覚を覚えます。梶井基次郎が「桜の樹の下には屍体が埋まっている」と書いたように、その妖しい美しさは人にどこかこの世のものでない領域を感じさせる力があるのかもしれません。地名に名を残すほど、桜丘町の桜は印象的だったのでしょう。
編集部・M
1977年東京の下町生まれ。現代アートとフィッシュマンズと松本人志と綱島温泉に目がないです。