インドをルーツに進化した西洋更紗の企画展 〜マリーアントワネットも愛した「ジュイの布」とは?
田園風景や様々な花をちりばめた模様など、3万点を超えるテキスタイルデザインを有する西洋更紗を紹介する展覧会「西洋更紗 トワル・ド・ジュイ展」が現在、Bunkamuraザ・ミュージアムで開催されている。
交易が盛んになった17世紀後半、ヨーロッパに花や動物などで彩られたエキゾチックなインド更紗が渡来。そのコットンプリントは洗濯も可能で、それまで絹やウールに親しんできたヨーロッパの人びとの間に一大ブームを巻き起こした。1686年には、あまりの人気の高さから更紗の製作や綿の輸入、着用が禁止される事態までに。一方でフランス・マルセイユ地方を出発点に木版彫刻を用いたヨーロッパ独自の更紗の技法が開発され、フランス、オランダ、イタリアなどヨーロッパ各地へと広がっていった。
「トワル・ド・ジュイ」(ジュイの布)とは、1760年にヴェルサイユ近くのジュイ=アン=ジョザスの地方に設立した捺染工場で生まれた西洋更紗のことをそう呼び、ドイツ出身のプリント技師、クリストフ=フィリップ・オーベルカンプによって生み出されたもの。工場が閉鎖する1843年まで、ここで製造されたテキスタイルのデザインは3万点を超えると言われる。木版プリントによるジュイの布は、インド更紗のエッセンスを引き継ぐエキゾチックで様式化されたデザインから始まり、次第にフランス流の花模様を発展させたデザインへと変遷。バラ、ライラック、忘れな草など身近な花々が西洋の装飾文様とともに刷り込まれ、インド更紗とは異なる赴きの花園モチーフを展開していった。
1770年から始められた銅版プリントによる単色染めでは、人物を配した田園風景のモチーフが隆盛。動物画家ジャン=バティスト・ユエらによって、優美な物腰の人びとが動物とともに田園に遊ぶ洗練されたデザインが数多く生み出された。事業は好景気に乗って大規模化したが、フランス革命を経た1843年に工場は閉鎖している。
《グッド・ハーブス》 18 世紀末~19 世紀初頭 木版プリント・綿(ジュイ製) トワル・ド・ジュイ美術館蔵 ©Courtesy Musée de la Toile de Jouy
会場では、当時人気を集めたグッドハーブスのシリーズや花と鳥、パイナップルなどをモチーフとした木版プリントの綿生地のほか、ジュイ製綿を使ったエンパイアスタイルのドレスや、王妃マリーアントワネットが実際に着用したドレスの断片なども紹介。ユエがデザインした銅版プリントによる田園風景のシリーズは、フランドルの美しい野山や田園風景を多色の羊毛で織り上げた1600年頃のフレミッシュ織りタペストリーが並び、そのモチーフのルーツを探ることができる。
《工場の仕事》 J.B.ユエによるデザイン 1783-84 年 銅版プリント・綿(ジュイ製) トワル・ド・ジュイ美術館蔵 ©Courtesy Musée de la Toile de Jouy
今回の展示は、トワル・ド・ジュイの世界を日本で初めて包括的に紹介するもの。展示されている「ジュイの布」を通じ、ウィリアム・モリスや、ラウル・デュフィなど、後世のアーティストたちに強い影響を与えていることを再確認すると共に、テキスタイルデザインのルーツの一端を垣間見ることができるだろう。
《お城の庭》 J.B.ユエによるデザイン 1785 年 銅版プリント・綿(ジュイ製) トワル・ド・ジュイ美術館蔵 ©Courtesy Musée de la Toile de Jouy
当時生まれた西洋更紗の数々は衣類やファブリック、壁紙のトラディショナルなモチーフとして現在でも様々な形で親しまれる。伝統的な技法や工芸品の価値が改めて見直される昨今、地域を越えて流通し、独自の進化を遂げてきた西洋更紗の魅力を、時代を超えて再発見する機会にしてみてはいかがだろうか
「西洋更紗 トワル・ド・ジュイ展」
〇開催:2016年6月14日(火)〜7月31日(日)
〇営業:10:00〜19:00 毎週金・土曜日は21:00まで(入館は閉館の30分前まで)
〇会場:Bunkamuraザ・ミュージアム/渋谷区道玄坂2-24-1
〇料金:一般1400円 他
〇休館:会期中無休
〇公式:http://toiledejouy.jp/
メイン画像:《コクシグル》 1775 年頃 木版プリント、艶出し加工・綿(ジュイ製) トワル・ド・ジュイ美術館蔵 ©Courtesy Musée de la Toile de Jouy
編集部・横田
1980年生まれ、神奈川県在住。大学進学を期に上京して以来渋谷はカルチャーの聖地です。現在は渋谷文化プロジェクト編集部に所属しながら、介護士として働くニ足のわらじ生活です。