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伝説の写真「砂丘モード」を一挙公開!
あの時代ときのホリゾント 植田正治のファッション写真展

渋谷のアツコバルーで現在、「あの時代(とき)のホリゾント」 植田正治のファッション写真展が開催されている。植田正治さんは、鳥取砂丘や地元である境港市にある弓ヶ浜半島を舞台に数々の名作を生み出した、山陰を代表する写真家。代表作は「少女四態」や「パパとママとコドモたち」「妻のいる砂丘風景」など。山陰の風景を背景に、被写体をオブジェのように配したその演出は「植田調(Ueda-cho)」と呼ばれ、世界中で高い評価を受けている。小さな町の写真館を営み、「生涯、アマチュア写真家」を自称し、生まれ故郷の鳥取で写真活動を続けたことでも知られる。

彼の生まれ故郷である鳥取県境港市は、人口わずか3万人強の小さな港町だ。私事ながら、筆者も境港市出身であり、18歳で上京するまでこの地で育った。「ゲゲゲの鬼太郎」ブームで一躍日本中に名前が知られている観光地だが、ほんの10数年前までは、さびれた小さな田舎町であった。地元にある学校は植田正治が19歳で創業した「植田写真機店」が学校の集合写真を担当しており、私も小〜中学にかけてスタッフの方に撮影してもらっていた記憶がある。おそらく、境港で唯一のカメラ店ではなかったか。そのくらい、とにかく小さな町なのである。

いまから約20年前、鳥取県西伯郡に「植田正治写真美術館」がオープン。彼のモノクロ写真を見て、その完璧な美しさとシュールな世界に魅了された。と同時に、こんな田舎町にこんなすばらしい写真を撮る人がいたことに驚き、いままで彼の存在をまともに知らなかった自分の無知を恥ずかしく思った。

©Shoji Ueda Office

植田正治が初めてファッション写真を手掛けたのは1983年、70歳のとき。「生涯、アマチュア写真家」を自称していた氏が、商業写真、しかもファッション写真を撮影し始めたことは、彼を知るものにとって大変な驚きだったという。その背景には、最愛の妻の死があったようだ。写真を撮る気力さえ失っていた様子を見かねた次男の充氏(アートディレクター)が勧めたのが、有名ファッションブランドであるTAKEO KIKUCHIのカタログ撮影であった。

一切注文を付けないことを条件に仕事を引き受けた、植田正治が舞台に選んだのは鳥取砂丘。彼にとって、砂丘は巨大なホリゾント(=写真スタジオで用いる背景幕)であり、長年の経験により、砂丘の地形はもとより、太陽の向き、風の動き、すべてを把握していたと言われている。砂丘にモデルを配するという、これまでの常識を覆したこれらのファッション写真は「砂丘モード」と呼ばれ、各界に衝撃を与え、氏の名前を新しい世代に伝えていく大きな役割を果たした。

植田正治の写真展と言えば、家族や子どもたちを撮影した作品が中心となることが多いが、今回の写真展のメインは、ファッション写真である。TAKEO KIKUCHIのカタログをはじめ、雑誌「BRUTUS」「AVENUE」「スプリング」「TOKION」「セサミ」などに掲載された作品を約38点展示している。かっこいいだけじゃない、シュールでコミカルで、ちょっと不思議なモノクロの世界。普段はなかなか見ることができない貴重な作品ばかりだ。

同展では、砂丘のホリゾントをバックに写真撮影をすることもできる。スタッフに声を掛ければ、植田作品のモチーフである黒傘を借りることができるので、傘を広げたり、ステッキのように持って「Ueda-cho」に写真を撮ってみてはいかがだろうか。
©アツコバルー

なお、期間中には、「80年代」をキーワードにアート、ファッション、グラフィックなどカルチャーがひとつの頂点を迎えた時代の証言者たちを迎えたトークイベントも開催されている。料金は各回1500円(1ドリンク付き)。こちらもお見逃しなく。

「あの時代(とき)のホリゾント」 植田正治のファッション写真展
○開催:2016/4/16 (土) 〜 2016/5/29(日)
〇開廊:(水〜土)14:00〜21:00(日・月)11:00〜18:00/定休日 火曜日
〇料金:500円(1ドリンク付)
〇場所:アツコバルー arts drinks talk
    渋谷区松濤1-29-1 クロスロードビル5F
    JR渋谷駅ハチ公口より徒歩9分、京王井の頭線神泉駅北口より徒歩6分
〇Tel: 03-6427-8048
〇公式:http:// www.atsukobarouh.com

田賀井リエ(代官山ひまわり)

代官山を拠点に活動するNPO法人「代官山ひまわり」。所属するママさんライターが渋谷情報をお届けします。

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