映画「ヴィクトリア」、140分全編ワンカットの奇跡
2015 年/ドイツ/139 分/ドイツ語、英語/配給:ブロードメディア・スタジオ
ベルリンの街を舞台に、全編140分ワンカットで撮影された意欲作「ヴィクトリア」が現在、渋谷・イメージフォーラムで公開中だ。
アレハンドロ・G・イニャリトゥ監督の「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」で再注目されることになった「全編ワンカット」という手法。いくつのもカットを組み合わせて物語を紡いでいくのが一般的な映画の作り方だとすれば、カメラを長回ししながらその場に生まれた状況の変化や感情の起伏をそのままに伝えるこの手法は、緊張感や空間的な広がりを強調する上で絶大な効果を発揮する。「バードマン」では撮影・編集技術の進歩を受けて擬似的にワンカットを演出し、同年度のアカデミー賞作品賞を受賞して大きな話題となった。
一方、同作では編集技術に頼ること無く、スタッフとキャストがベルリンの街をリアルタイムに駆け回ってワンカット撮影を断行。誰かが間違えればすべてが台無しになってしまうという強烈な緊張感の中、孤独な女の子のささやかな冒険が悪夢へと変わる様子を、とある一夜・140分の出来事として伝えきった。
物語は3カ月前にマドリードから単身ベルリンにやって来たばかりの若い女性ヴィクトリア(ライア・コスタ)が、地下のクラブで激しいダンスに身を委ねているところから始まる。踊り疲れて帰路につく途中、夜明け前の路上で地元の若者4人組に声をかけられる。まだドイツ語をしゃべれず、友人さえ作れずにいた彼女は、酒を手に入れた4人とビルの屋上で楽しいひとときを過ごす。しかし4人は危うい事情を抱えていた。裏社会の人物への借りを返すため、これからある 「仕事」を実行しなくてはならないのだ。4人のうち運転手役の青年が酔いつぶれてしまったため、ヴィクトリアは代役を依頼される。リーダー格のソンネ(フレデリック・ラウ)に好意を抱き始めていたヴィクトリアはそれを受け入れるが、彼女たちの行く手には人生が一変するほどの悪夢が待ち受けていた……。
メガホンをとったのは、1968年生まれのセバスチャン・シッパー監督。シーンとロケーション、登場人物たちの大まかな動きを記した12ページの覚え書きを土台に、140分ぶっ通しのベルリン・ロケを実施。ドイツ語とブロークン・イングリッシュが混在するセリフは俳優たちが即興的に発したもので、撮影中に起こった想定外のハプニングもカメラに収めていったという。作中、登場人物たちは自転車や盗難車、エレベーター、階段、タクシーなどを利用しながらベルリン各地を慌ただしく移動。夜更けから夜明けへと移り変わる空模様の変化も、ある一日のリアルタイムだ。
物語があらかじめ用意されたものあることは承知の上、どこを切り取っても一発勝負の緊張感。ドキュメンタリーとも一線を画す生々しさは、長回し演出の大きな魅力だ。その分長回し演出はリスクも大きく、失敗したら最初からやり直し、そしてもう二度と同じものはできない。全140分をワンカットにおさめた同作が伝えているは、役者たちの演技、カメラマンの立ち振る舞い、映り込む街並み、街をあるく実際の住民たち、空模様が伝える時間の移り変わりなど、たくさんの偶然を凝縮した一夜の奇跡。夢を見るように身を任せて、あるときある瞬間のリアルを追体験してみては?
ヴィクトリア
〇監督:ゼバスチャン・シッパー
〇撮影:ストゥルラ・ブラント・グロヴレン
〇出演:ライア・コスタ フレデリック・ラウ
〇上映:2016年5月7日(土)より
〇劇場:シアターイメージフォーラム
〇公式:http://www.victoria-movie.jp/index.html
編集部・横田
1980年生まれ、神奈川県在住。大学進学を期に上京して以来渋谷はカルチャーの聖地です。現在は渋谷文化プロジェクト編集部に所属しながら、介護士として働くニ足のわらじ生活です。