2016.04.19

見えない背中を追いかけて〜バンクシー、NYでの1ヶ月を追ったドキュメンタリー

2014年/アメリカ/81分/カラー/16:9/DCP 提供：パルコ　配給：アップリンク、パルコ

アップリンク渋谷で現在、ロンドンを中心に活動する覆面芸術家バンクシーが仕掛けたNYでのアート活動を追ったドキュメンタリー「バンクシー・ダズ・ニューヨーク」が公開されている。

バンクシーは、出生から素顔まで正体不明のストリートアーティスト。MoMA、メトロポリタン美術館、大英博物館などに無断で自作を展示したり、仏カレーの難民キャンプにシリア移民の父を持つ故スティーブ・ジョブズを描くなど、作品を通して幅広い社会問題を提示。「強いメッセージ性」と「覆面芸術家」というミステリアスな部分が世界的に注目を集め、壁や路上に「違法」に描く彼のグラフィティは高値で取引されている。

同作は2013年10月、バンクシーがニューヨークという街全体を会場に行ったアート活動にまつわるドキュメンタリー。10月1日、マンハッタンに「GRAFFITI IS A CRIME」というメッセージとともにスプレー缶を手にした少年を描いたグラフィティが描かれた。
10/1に公開された作品。スプレー缶を手にした少年の横には電話番号が書かれており、そこに電話するとオーディオガイドを聞くことができた。

告知も無くゲリラ的に始まったその展示は、毎日１点、ニューヨーク各地の路上に作品を残し、場所を明かさず公式サイトに投稿するというもの。ギャラリーの集結するチェルシー地区、アジア系移民が集うチャイナタウン、憧れのセントラルパーク、グラフィティの聖地の一つサウスブロンクスなど、連日ニューヨークの幅広いスポットにバンクシーの作品が登場。
10/13 セントラルパークにて、バンクシーオリジナル作品が60ドルで販売された。
10/11 家畜のぬいぐるみの乗ったトラックが街を走り回る。
10/22 クイーンズに作られた廃材のスフィンクスはすぐにディーラーへと渡り、ギャラリーで転売された。

ファンはSNSを駆使して宝探しのように作品を探し出し、普段なら絶対に踏み入れないような場所に足を運んでいく…

メガホンを取ったのは、アメリカ・コネチカット州生まれのTVディレクター、クリス・モーカーベルさん。実は2013年10月、監督自身はニューヨークには居なかったという。当時のメディアの盛り上がりを第三者として見ていたそうだが、後にプロデューサーからこの件に関する映画制作の話を持ちかけられ、ウェブサイトやSNSに投稿された数多くのコンテンツを使用しながら同作品づくりに着手。バンクシーの一ヶ月間に及ぶニューヨークでの活動を、あたかもリアルタイムで追いかけているような作品に仕立てている。素材集めに利用したのは、♯BanksyNY、♯BetterOutThanInというバンクシーファンが写真や動画を投稿するのに用いたハッシュタグ。ハッシュタグで集約された大規模なオンラインアーカイブが、映画の元になっているのだ。

同作から見えて来るのは、バンクシー作品そのものに加えて、集まったファンたちの熱狂ぶりや、バンクシー作品を保護して観光スポットに仕立てたり、富裕層に向けて売り込むディーラーの理屈。またバンクシー作品を落書きとして消す所有者たちの反応や、作品の上から自作を描く地元のグラフィティ作家たちなど、様々な思いが交錯する。
このバンクシー非公認のドキュメンタリーには当然本人は一切登場せず、謎に満ちた覆面芸術家の正体を暴くことは難しい。しかしながら、その代わりに見えてくるのは、ニューヨークという都市が抱える貧困や格差などの社会問題。バンクシーの見えない背中を追いかけることで、日常生活でも観光旅行でも味わうことのできないニューヨークが抱える闇や矛盾を浮き彫りとする。同作を見終わった後、渋谷の街を見渡すと、ちょっと景色が違って見えるはずだ。駅前、宇田川町、青山、円山町などなど、アップリンクから徒歩圏内の渋谷地区だけでも、渋谷には様々な土地柄を持つエリアが密集している。異国からやって来たバンクシーになったような気分で街を歩いてみると、新鮮な体験ができるに違いない。

もしあなたがバンクシーなら、この渋谷にどんな絵、どんなメッセージを残すのだろうか。