江戸時代から未来まで、「絵画」を通して渋谷の変遷を辿る
江戸時代を出発点とし、現代・未来までの渋谷の姿を「絵画」を通して紹介する企画展「描かれた渋谷」が現在、白根記念渋谷区郷土博物館・文学館で開催されている。
渋谷区の郷土学習の窓口として、渋谷区にまつわる歴史講座や体験学習などを実施している同館。終戦直後の様子など昭和期以降の渋谷を捉えた写真を数多く所蔵しているが、大正以前の渋谷を撮影した写真はほとんど残されていないという。同展では写真を通して記録されるようになる以前の渋谷を知る手がかりとして、渋谷を描いた屏風画や錦絵などの絵画を紹介する。
会場では江戸時代を出発点とし、明治・大正・昭和から現代・未来までの渋谷が描かれた作品を時系列順に紹介している。明治、大正時代までの渋谷は原っぱや畑が広がり、都市に暮らす人々にとって「郊外」だったという。玉川家の庭園を描いた「玉川家庭園屏風」(明治5年)には、画面中央を流れる渋谷川に水車が回る様子が描かれ、当時の様子を伝える資料の一つとして大変貴重だ。
広尾古川(左)、金王八幡宮の金王桜(右)
「江戸名所図会 3巻」より「金王八幡社」(長谷川雪旦・画)
そのほか、江戸の地誌「江戸名所図会」に掲載された氷川明神社や金王八幡宮の挿絵なども展示。挿絵には氷川神社の土俵や金王桜などが描かれており、今なお現存する実物と見比べて楽しむこともできるだろう。
現在の渋谷の写真と、同じ場所で描かれた昔の渋谷の絵を並べて展示。
昭和期に入って渋谷区が成立する頃には、写真資料も増えてくる。また仮に写真が残されている場合でも、時代の空気感や風俗などは絵画でしか表現できず、当時の暮らしを理解する上で貴重な情報源となりそうだ。そのほか、会場では中村啓治さんのイラスト集「記憶のなかの街 渋谷」より、軍用地ワシントンハイツ(現・代々木公園)に暮らすアメリカ兵を眺める日本の子どもの姿や、客引き女性らで賑わう昭和30年代の百軒店の風景などが描かれている。
戦後の渋谷駅前の闇市の様子。後方の大きな建物は、戦時中に迷彩をほどこされた東横百貨店(東急百貨店東館)、その右隣は玉電ビル(現・東急百貨店西館)。
同展の締めくくりは「渋谷の未来を描く」。40年ほど前に描かれた「しぶやの未来図」と、再開発で一変する「将来の渋谷駅」のパース画像が隣り合わせに一緒に並べられている。江戸時代から未来まで、まるで時空を旅しているような気分にさせてくれる。
かつて、江戸の都会っ子たちが「自然の風景を求めて訪れていた」という郊外としての渋谷。江戸の始まりから400年以上の時間が流れる間に、そんな渋谷の風景は工業地帯から闇市へ、現在では世界に知られる東京の繁華街へと移り変わってきた。スクランブル交差点の喧騒やハチ公前の賑わい、工事中の東急東横店東館の跡地など、現在の渋谷の姿も、変化し続ける街が垣間見せる一瞬の表情といえるだろう。展示を見終わって会場から渋谷の駅へと向かう途中、文化人の住居跡を示す記念碑から、駅前の工事現場の立て看板までが、渋谷の過去・未来の姿を想像させる情報源として目に飛び込んできた。渋谷の街をいつもとは違った目線で楽しめる同展。会場は駅から少し歩くが、道中の散歩も展示の一つとして、移り変わる渋谷の姿をディープに味わってみてもらいたい。
「描かれた渋谷」
〇開催:2016年1月19日(火)〜3月27日(日)
〇営業:11:00〜17:30(入館は16時30分まで)
〇会場:白根記念渋谷区郷土博物館・文学館/渋谷区東4-9-1
〇料金:一般100円 他
〇休館:月曜日
〇公式:http://www.city.shibuya.tokyo.jp/edu/koza/12kyodo/tenrankaishousai.html#3
編集部・横田
1980年生まれ、神奈川県在住。大学進学を期に上京して以来渋谷はカルチャーの聖地です。現在は渋谷文化プロジェクト編集部に所属しながら、介護士として働くニ足のわらじ生活です。