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【レポート】TOKYO WORK DESIGN WEEK 2015〜人と企業の新しい関係を話そう。

<イベント概要>
TOKYO WORK DESIGN WEEK 2015〜人と企業の新しい関係を話そう。
〇開催:2015年11月23日(月)14:45〜16:15
〇会場:渋谷ヒカリエ8階「8/」COURT
〇出演:篠田真貴子さん(東京糸井重里事務所 取締役CFO)
    佐藤雄佑さん(株式会社リクルートエグゼクティブエージェント)
〇進行:菊池龍之さん(株式会社コヨーテ 代表取締役)
〇公式:http://twdw.jp/

11月18〜24日まで開かれた「働き方」を考えるイベント「TOKYO WORK DESIGN WEEK 2015(TWDW2015)」。「勤労感謝の日」となる23日は、渋谷ヒカリエで「明日をつくる、働き方。」をテーマに4部構成で様々なスピーカーが登壇し、仕事観や新しい働き方について語り合う濃密な1日となった。中でも第2部のトークセッションでは、東京糸井重里事務所取締役CFOの篠田真貴子さん、リクルートエグゼクティブエージェントの佐藤雄佑さん、司会のコヨーテ代表取締役の菊池龍之さんを迎え、「人と企業の新しい関係を話そう」と題し、これからの会社と人の関係について来場者と意見を交わした。

■子どもが生まれて変わった仕事観
−長時間労働バリバリから、生産性アップの鬼と化す。

篠田さんは今年、米国・リンクトインの創業者リード・ホフマンらの著書『ALLIANCE(アライアンス)』の監訳を手がけている。アライアンスとは、人と企業が信頼関係を築きながら、仕事(プロジェクト)に応じて雇用関係を結ぶこと。日本版アライアンスを実践しているリクルートグループで人事マネジャーを務めた佐藤さんと、これまでの経験を振り返りながら、より良い会社との関係のヒントを探った。

日本長期信用銀行、マッキンゼー、ノバルティス・ファーマ、ネスレを経て、東京糸井重里事務所に入社したという経歴を持つ篠田さん。これまでの働き方や考えは、子どもを産んだことを転機に一気に変わってしまったという。「子どもを生むまでは『生産性なんて関係ない』と、長時間労働でバリバリ働いていました。それが出産を機にできなくなり、その後は生産性アップの鬼と化し、今は平日8時半〜17時半と週末ちょっとの勤務」と効率よく仕事をして、家庭の時間を確保することに注力しているそうだ。
さらに働く姿勢にも言及。新卒で就職した当時は、男女雇用機会均等法が施行されて間もない時期。もう一生安泰と思っている同期の男性とは異なり、「自分で道を切り拓くんだ」という強い意思を持って入行したと振り返る。ところが、「子どもが生まれた途端、仕事に対する意欲はあるが、『何をしたいのですか?』と聞かれたときに全く何も答えられなくなっていた。大きな仕事をやってみないかという打診に対しても燃えなくなっていた」とし、それに気づいたときはショックだったという。当時は37、8才で、あと20年は働ける年代。何を動機にしたらいいかわからなく空回りしたなかで、ほぼ日(ほぼ日刊イトイ新聞)で仕事をする機会を得たという。キャリアステップとは異なる、今までの仕事の延長線上ではない場所での仕事をチャンスと考え、「積極的に取りにいった」という。

最初の3年は糸井事務所を知ることと、自分のノウハウを現場に紹介していくことに努め、そのなかで自分の欲をうっすらと見つけていった。初めての目標は、「こんな面白い会社(糸井事務所)をみんなに理解してほしい」との思いから(優れた日本企業を表彰する)ポーター賞への応募。仮に受賞しなくても、審査員が一人でも納得してくれたら私のロジックは通じ、周りにも理解してもらえると考えたという(結果的に2012年受賞)。さらに、いまは糸井事務所が「上場」という目標に向けて動き始めている現状に触れ、「糸井は仕事の基本姿勢として『イニシアチブ』と言う。本当の意味でイニシアチブを持ってこれをやるべきと言えたのは上場の準備が初めて」語り、45歳のやっといま、自分のなかで働く動機が見つかったという。

佐藤さんも、かつては仕事120パーセントでやっていた人間で、圧倒的に高い目標を掲げてがむしゃらに働いていた。そんな中での転機はリーマンショック。当時人材サービスを担当していたが、「とにかく頑張って働けど、人を取りたいどころから切りたいくらいだよと(営業先の)社長さんに言われる時代だった。自分もとにかく頑張れとしか言えないマネジメントで、最終的には早期退職で部下が半分辞めるシーンにも出くわした」と振り返った。圧倒的にやるだけでは駄目なことに気づき、そこから価値ある仕事や方法を考えてみようと思ったという。もう一つの転機は篠田さん同様、子どもが生まれたときで、とにかく子育てに後悔しないよう主夫を半年間した経験から。育児休暇中や仕事の復帰時にいろいろ考える時間があり、「結果にコミットする仕事から、自分らしさや方向性に合った仕事にやりがいを感じた」と話した。

■終身雇用が絶対の正解ではない
−これからは「企業」と「個人」が対等な関係がやって来る。

後半の議題は「企業と人がどのような関係を作っていけばいいのか?」。篠田さんは、まず日本の終身雇用のモデルが絶対の正解ではないと指摘する。「結果的に私がこういう(長銀、マッキンゼーなど数社経験)経歴だということを考えたとき、それは自分で自分の人生をコントロールするという『個の自立』が必要だ」と会場に向けて語気を強めた。「私のいた日本の企業だと、上司でも2、3年に一度の異動は当たり前。さらに次は(畑違いの部署など)どこへ行くのか分からないという状態が続く。27歳の私にはそれが我慢できなかった」と振り返った。さらに「仮に自立の気持ちがあっても、なかなかできないのが当たり前。その中で私が良かったなと思ったのは、他の選択肢があるということを知っておくことだった」と語り、転職する気はなくても定期的にヘッドハンターに会ったりするなど、自分の仕事ぶりが他者にどう見えるかをチェックしていたという。

佐藤さんも、「かつては『一度入ったら会社の言うことは聞いてください。その代わり一生面倒見ますよ』という終身雇用だった。それが社員と会社の関係性だったが、(現在は)崩れている」と語り、「生涯1社だけで働くということを、決め付けないようにして欲しい」と若者たちにエールを送った。そのためには「どこに行っても通用するような力や意思を持つことが大事」とし、その結果、「嫌だけど仕事をやらなければいけないではなく、もうちょっと会社との関係が対等になってくるんじゃないかと思っている」と、個人も会社に対して要望する時代が来ることを予想する。一方、企業側も昔だったら一蹴したことができなくなるとし、「今は優秀な人材を獲得することが難しい時代。会社としても優秀な人が入るために、残ってくれるために、育ってくれるために、従業員に対して手間暇かけますよと自己表示していかないと逃げられる」と語り、企業と個人の関係がより対等に向かうと期待を寄せた。

一生安泰と思われた大企業でも、経営悪化などでリストラや倒産すらある現代。一生会社が護ってくれる時代は終わり、確かに企業と従業員の関係はこれまでとは変わってくるはず。今回のイベントを通じ、どこでも通用する自分のスキルを絶えず持つこと、伸ばしていくことが大切だと改めて痛感させられた。

重野マコト

社会部記者として新聞社に入社後、イベントプランナー、コンテンツディレクター、飲食店経営を経て、現在はフリーライター。インタビューやイベントレポートなどの現場取材をメインに活動する。

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