マインドが変わるのは、人と話をしたり、新たな環境に身を置いたとき。◎横石崇さん(TWDWオーガナイザー/BENCH)
11月23日は国民の祝日「勤労感謝の日」。この日を挟んだ7日間に働き方を考えるイベント「TOKYO WORK DESIGIN WEEK 2015(TWDW 2015)」が開催されます。「働き方」や「仕事」にまつわるアイデアなどを交換して、多様な交わりから「未来の働き方」を思い描いていこうという試み。イベントを立ち上げから3年を経て、コワーキングスペースやクラウドソーシングをはじめ、ICT活用によるワークスタイルなど、日本の仕事環境の変革は確実に進んでいます。こうした働き方の過渡期の中で、オーガナイザーの横石さんはTWDWの存在意義をどのように捉えているのでしょうか。イベントに向けた想いを語っていただきました。
■震災後、“対話”をする場がないことに気付いた。
_TWDWを始めたキッカケを教えてください。
構想したのは第1回開催(2013年)の前々年の東日本震災後です。ちょうど日本全体が何もかも揺さぶられ、働き方や生き方などが揺らいだ時期でした。「これから先どうやって考えて生きていけばいいのだろう」と思った時に、“対話”をする場所がないことに気づいたのです。そのとき周りを見渡したら、greenz.jpの兼松佳宏さんや日本仕事百貨のナカムラケンタさん、仕事旅行社の田中翼さんなど、社会に出て10年目くらいの同世代の仲間が、これからの新しい社会を仕掛ける活動をやっていました。でも、それは点と点でしかありませんでした。そこで“TOKYO WORK DESIGIN WEEK”という7日間のイベントを通じ、点から線に、そして面にしていきたいと。僕らがやっていることを社会に発信していければ、新しい働き方のヒントやアイデアを共用できる場が生まれるのでは、と考えたのが始まりです。
_その頃、横石さんは仕事に何か悩みや疑問があったのですか?
僕自身は美大を出て、会社勤めを10年しています。マネジメントが中心だったのですが、その間にいろいろな課題にぶち当たってきました。強い組織を作るとか、いい仕事をするためのチーム作りなどですね。そこで感じたのは、マネジメントや会社経営において一番大切なのは、結局は「人」なのだということです。その当時は相談できる相手がいなくて、一人で悶々と悩んでいたことも。もう少し仲間とか共有できる場があれば、今とは違った状況になっていたかもしれないけれど…。そういった意味では、TWDWという場を作ることで、自分自身も救われるのではないかという思いもありました。
■働き方をアップデートすると、ウイルスのように周囲に感染が広がる。
_そういう想いで始めたTWDWも早3年目を迎えます。初年度から見続けきて、どのような変化を感じていますか。
それこそ(WEB上で企業と個人の業務委託をマッチングするサービスを展開する)ランサーズやAUTO DESKをはじめ、インターネットやAIの力で新しい働き方が生まれています。テクノロジーの進化とともに働き方もアップデートされていて、たった2年ですが全く状況が変わっています。例えば、企業においても「“個”の力をどう発揮してチームを組んでいくか」みたいことが、当たり前に話されるようになったのではないでしょうか。僕らの運営メンバーの中にも新しいチャレンジに向けて職を変えるなど、新しい働き方を実践している人が増えています。次の働き方をアップデートすることは、ある意味でウィルスのようなもので、その周囲の人びとを巻き込んでどんどん感染が広がっていく。いろんな書籍やネット記事を読みますが、やはりマインドが変わるのは、人と話をしたり、新たな環境に身を置いたときにかなり強くて、それが結果的に行動を伴っていくのだと思います。
そのマインド変化の最たるものが、TWDWのイベントの現場です。その場で新たな仕事が生まれたり、またスタッフや出演者を含めて、そこで出会った人の中から「TWDWで何か一緒にやれないか」とか「次はステージに登壇したい」など、色々な相談や提案をしてもらえるのはとても嬉しいですね。実際に去年の運営メンバーの一人は、今年のプログラムの一つ「75歳現役マーケッターに聞く、20代のためのキャリア戦略」(11/24開催)を企画し、自ら登壇することが決まっています。
■「個」から学び取り、企業の中の働き方に転換してほしい。
_TWDWのイベントを運営するにあたり、重きを置いていることは何ですか?
TWDWは「転職」や「起業」のためのイベントでもありません。意識しているのは「ただ話を聞く」というよりは、話を聞いてそれを周りと話して自分の意見を言ってもらう。議論するという「対話」に重きを置きたいと思っています。ただ対話するにも難しいのは、参加者にある程度同じボキャブラリーがないと成立しないということ。初年度はちぐはぐな会話も多かったですが、継続していく中で、みなさんのボキャブラリーがある程度揃い、徐々に高次元な対話が行われるようになってきました。昨年からは参加者の実際のアクションにつなげていこうという、対話型のワークショップの割合も増えています。
_TWDWのプログラムや登壇者の人選をする際に、どんなポイントを重視していますか?
TWDWが意識しているステージ像は、二つありまして、一つは”NHK紅白歌合戦”ではないですが、今年を振り返ってみたときに話題になったトピックスや人物にご登場してほしいと考えています。もう一つは、会社の規模や有名度、年齢にこだわらず、ご自身のユニークな実績や経験、哲学をお持ちの方にスポットライトがあたるような舞台でありたいと思います。新しい働き方や取り組みは、個人の想いやアクションから始まることも多く、大きな企業にお勤めの方も、「個」から学び取ることが多いんじゃないかなと思っています。それこそ今日ではセルフブランディングや、セルフマネージメント能力がすごく求められていますよね。起業や転職をせずとも「大きな組織の中でどう働くか?」ということを考える際にも、すごく参考になるはずです。
■自分がやりたいことで食べていける、そんな人を増やしていきたい。
_初年度からメイン会場を「渋谷ヒカリエ」に構えています。渋谷を拠点にイベントを開催する意義を教えてください。
渋谷は常に新しいカルチャーを生み出してきた場所、僕の世代だとビットバレーやコギャルなど日本の希望を作ってきた街だと思っています。同時に今、「“遊び場”の渋谷から“働く場”の渋谷へ」とシフトしていくべき時期じゃないかなと感じています。渋谷で遊んでいた人間からすると、働いている側からも楽しめる街にしたい。「遊ぶように働くことができる街」になったら面白いなと思う。さらに「多様性(ダイバーシティ)」という名の下で、渋谷はいろんなパーツを持っている点でも魅力的。そのパーツを使って「渋谷の街で、どういうストーリーを生み出すか?」ということを、TWDWを通じてみんなと一緒にいろいろ考えていきたいと思っています。
_最後に「仕事とは何か?」や「働くとは何か?」について、横石さんの考えをお聞かせください。
仕事には「自分のため」「家族のため」「社会のため」という、誰のために働くかという点で3つあると思っています。昨年、個人的な事ですが家族ができたこともあって、今は自分以外の「家族や社会のため」にできることを考えるようになってきました。仕事観は徐々に変わっていくと思うので、これからも変化を楽しんでいこうと思います。「生きる」と「遊ぶ」と「働く」の境界がどんどん曖昧になり、その一方で「働く」という定義が拡張されていると感じています。「自分がやりたいことで食べていける」ことは大切にしたいけど、簡単じゃない。僕はそれが少しでもできる世の中の方が楽しいと思うんですよ。だから、そういう人たちをもっとたくさん増やしていくためにTWDWを続けていきたい。
「TOKYO WORK DESIGIN WEEK 2015(TWDW 2015)」
〇日時:2015年11月18日(水)〜24日(火)
〇会場:渋谷ヒカリエ8F 8/COURT ほか
〇公式:http://twdw.jp/
重野マコト
社会部記者として新聞社に入社後、イベントプランナー、コンテンツディレクター、飲食店経営を経て、現在はフリーライター。インタビューやイベントレポートなどの現場取材をメインに活動する。