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秋の休日、都心で古美術と紅葉を体験〜根津美術館で記念展〜

「那智瀧図(なちのたきず)」「根本百一羯磨(こんぽんひゃくいちこんま)」などの国宝7件、重要文化財87件を含めた約7400件のコレクションを擁する根津美術館で、実業家で古美術蒐集家でもあった初代根津嘉一郎のコレクションの軌跡をたどる特別展「根津青山の至宝」が始まった。
隈研吾設計による美術館外観

根津美術館は初代嘉一郎の遺志によりコレクションを一般公開するために、1941年、南青山の根津家敷地内に開館。日本・中国・朝鮮を中心に東洋の美術品を展示する美術館として知られ、2009年には隈研吾さんの設計で本館が改築。青山という都心にありながら2万平米を超える広大な敷地には、美術館のほかに港区の保護樹林にも指定される豊かな日本庭園が広がる。

初代嘉一郎は1860年山梨県生まれ。1896年に東京へ進出し、1905年に45歳にして東武鉄道社長に就任。若い頃から古美術への関心が高く、1909年に米国視察実業団に加わってアメリカの公共の利益のために惜しみなく寄付を行う文化を目の当たりにして、美術館設立という目標に向けて蒐集に一層励んだ。40代の終わり頃からは茶の湯に関心を広げ、青山(せいざん)と号するように。1940年に急逝。同年に二代目嘉一郎がその遺志を継ぎ、1940年財団法人根津美術館を設立した。
6室を使って嘉一郎コレクションの軌跡をたどる

同展では財団創立75周年を記念し、書画と茶道具を中心に初代嘉一郎のコレクションの軌跡をたどる。第1〜2展示室は「コレクションの形成と茶の湯」と題し、嘉一郎が東京に活動の場を移して実業の傍ら集めた古美術を収集順にラインアップ。1906年、オークションで当時16,500円という大金で落札し、嘉一郎の名が古美術界に知れ渡るきっかけとなった「花白河蒔絵硯箱(はなのしらかわまきえすずりばこ)」(重要文化財、日本・室町時代)や、一筋の滝の姿に自然への畏敬の念が込められた「那智瀧図(なちのたきず)」(国宝、日本・鎌倉時代)などが並び、嘉一郎の好みや審美眼、茶道具へ関心を深めていった様子を伝えていく
嘉一郎の名を古美術界に広めた「花白河蒔絵硯箱(はなのしらかわまきえすづりばこ)」(重要文化財、日本・室町時代)

ほかに、仏教美術をあつめた第3室、中国古代の青銅器を並べる第4室、全10巻中8巻が正倉院に収蔵される国宝「根本百一羯磨」の第6巻など古写経コレクションをそろえる第5室が展開。第6室では「永久決別の茶会」と題し、1940年に80歳で逝去した嘉一郎が、亡くなる一週間前に青山の自邸で開催した茶事を再現。茶室に見立てた畳の展示スペースに、赤く焼けた肌に丸い同部が愛らしい「赤楽茶碗」(日本・江戸時代)や「石山寺蒔絵源氏箪笥(いしやまでらまきえげんじだんす)」(重要美術品、日本・江戸時代)などを並べている。

会場に並ぶ香炉や釜や花生などは、私たちの日常生活では使う機会のない品々が多く、お茶会は一部の人々のたしなみで、自分とは無関係と考える人も多いかもしれない。しかし展示品に添えられた説明書きに目を落とすと、お茶会がコレクションを披露する場として機能していたこと、嘉一郎には特に信頼する古美術商がいたこと、どうしても手にしたいと願うも叶わなかった品があること、古美術蒐集に込めた思いなど、嘉一郎という人のリアルな人間像が豊かに浮かび上がってくる点は非常に興味深い。そして改めて展示品を見直すと、古びていても美しさが素直に伝わってくる品々が目に入ってくる。同展では嘉一郎という一人の人物の眼差しを通すことで、敷居の高い古美術というジャンルを新鮮なものとして味わうことができるのだ。
「nezu cafe」 ガラス張りのカフェからは庭園風景が楽しめる

緑豊かな庭園からは秋の気配が伝わってくる

根津美術館を訪れたら、敷地内に広がる広大な庭園の散歩もおすすめ。この庭園は毎年ゴールデンウイークの時期に燕子花が水辺を彩ることで知られるが、これからの季節には高くそびえる木々の紅葉も見所。園内に点在する石造彫刻の苔生すひっそりとした佇まいも、根津美術館ならではの魅力といえる。秋の訪れを感じさせるさわやかな休日、あなたも都心・青山の一等地で古美術や季節の移ろいに思いを馳せるという、特別な体験を楽しんでみては?

財団創立75周年記念特別展 根津青山の至宝
〇開催:2015年9月19日(土)〜11月3日(火・祝)
〇時間:10:00〜17:00 ※入場は16:30まで、月曜休館(一部祝日などをのぞく)
〇会場:根津美術館/港区南青山6-5-1
〇料金:大人1,200円ほか
〇公式:http://www.nezu-muse.or.jp/jp/exhibition/index.html

編集部・横田

1980年生まれ、神奈川県在住。大学進学を期に上京して以来渋谷はカルチャーの聖地です。現在は渋谷文化プロジェクト編集部に所属しながら、介護士として働くニ足のわらじ生活です。

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