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【レポート】もう一度、これからの「カッコよさ」の話をしよう

<イベント概要>
Hikarie+PLANETS 渋谷セカンドステージ vol.8
「もう一度、これからの「カッコよさ」の話をしよう」

〇開催:2015年9月2日(水)19:00〜21:00
〇会場:渋谷ヒカリエ8/COURT
〇出演:
 浅子佳英さん(建築家/デザイナー)
 落合陽一さん(筑波大学助教/メディアアーティスト)
 門脇耕三さん(建築学者/明治大学専任講師)
 川田十夢さん(AR三兄弟)
 宇野常寛さん(評論家/PLANETS編集長)
〇進行:
 吉田尚記さん(ニッポン放送アナウンサー)

批評家・宇野常寛さんが主宰する文化批評誌「PLANETS」と、渋谷ヒカリエによるコラボレーションでシリーズ展開するトークセッション『Hikarie+PLANETS 渋谷セカンドステージ』。9月2日(水)に開催されたVol.8では「カッコよさ」をテーマとし、吉田尚記さん(ニッポン放送アナウンサー)の司会のもと、浅子佳英さん(建築家/デザイナー)、門脇耕三さん(建築学者/明治大学専任講師)、川田十夢さん(AR三兄弟)と宇野さんの4人が登壇。さらにオーストリアに出張中の落合陽一さん(メディアアーティスト)は、ネット(Skype)中継で議論に加わった。

「カッコよさ」という言葉は非常に曖昧で、各個人や性別間でも受け止め方が大いに変わるところだろう。また「カワイイ」という言葉がクールとされる一方、「カッコイイ」は半ば悪口とも受け取られかねない不自由さもある。そこで今回のイベントでは、クリエイティブな世界で活躍する出演者たちが「カッコいい」と思う人物やモノを具体的に挙げながら、その本質に迫っていこうというもの。このレポートではトークセッションの中で語られた、各出演者が思う「カッコよさ」をそれぞれ紹介していきたいと思う。

◎サスティナブルではなく、アップデートができること/浅子佳英
プレゼンのトップバッターの浅子さんは、自らがデザインした「寝椅子」をスライドで見せながら紹介を始めた。浅子さんの「寝椅子」は、フランスで活躍した建築家ル・コルビジェの有名な作品「LC4」を現代風にアップデートしたものなのだそうだ。100年くらい前のコルビジェらが始めたモダンデザインが、建築界では未だに強い影響力を持つ。こうした環境に対して、浅子さんは同じデザインが繰り返し使い続けられていることを危惧する。「永遠にカッコいいものはない」と言い切り、「サステイナブルなものは、本当の意味でカッコいとは思わない。アップデートが可能なことがカッコよさに重要だ」と強調した。

◎多様な価値に合わせて、たくさんのカッコいいを作る/門脇耕三
続いて、門脇さんもコルビジェ建築を紹介しながら説明を加えていった。「コルビジェの時代は工業化の時代で、『今までの大工と違ったものを作らないとダメなんだ』というイデオロギーがあったからこそ、皆がカッコいいと同意できた。ところが、今は『これがカッコいいんだ』と言っても一つの価値観にすぎず、多方面から“(笑)”というツッコミが入る。それが今の時代の難しさで、完璧にカッコいいというものがどうしたって相対化している」とコメント。門脇さんは現在、多様な価値観を有する時代の中で、見る角度ごとに「カッコいい」部分がある住宅を作っているのだという。
門脇さんのプレゼンの様子。「全てのカッコよさに“(笑)”がついてしまうのは仕方ない。ただ、なるべくたくさんのカッコよさを同居できるような住宅を作っていくしかない」(門脇さん)と現状の仕事に意欲を見せた。

◎楽しさを追求しすぎて、真逆の世界にも作用するカッコよさ/川田十夢
AR三兄弟の川田さんが敬愛する人物は、アメリカの小説家であるヒューゴー・ガーンズバック。元々電気技師であるヒューゴーは技術の楽しさを追求するがあまり、作家として物語も書き始めたのだという。「空想である物語という、技術者からすると真逆の世界に居ながらも、SFの黎明期に作用したのがカッコいいなと思う」とし、小説家で注目を集める一方で、電気技師を続けていた彼の姿勢を川田さんは高く評価しているそうだ。その影響を受け、川田さん自身もARなどの開発をしながら舞台の演出なども手掛けているのだという。

◎21世紀のカッコいい像はシャア・アズナブル/落合陽一
歴史的な著名人を挙げる声が多かった中で、落合さんは、アニメ「機動戦士ガンダム」の登場人物であるシャア・アズナブルを推す。「戦略作戦戦術兵站の概念を無視した存在にシャア・アズナブルってヤツがいて、いわば現場仕事のできる国家元首のような人で、21世紀のすごくカッコいい像だと思う」(落合さん)。デザイン思考や現場、イノベーション、研究などを一人のキャラクターに集約した理想の姿と称賛する。「いろんなボーダーを取り払って、尚且つ、それを一人に収れんしてオーガナイズできる人がカッコいい」と述べ、その適任者としてシャアを支持した。

◎「男性性」の象徴であるヘッドフォンはカッコいい/吉田尚記
司会を務めるアナウンサ−の吉田さんは、カッコいいアイテムとして、仕事柄、身近な「ヘッドフォン」を挙げる。小学生はあまり持っていないが、男子中学生になると途端に増えるとし、「自分一人の世界に入る、外観を遮断するための道具がヘッドフォン。『男性性』の象徴であり、思春期的なもの微妙なラインに存在するのがいい」と主張。さらに最近、思春期ゴコロを刺激するヘッドフォンがグッスマから発売されたといい、四角に変形するデザインを見た瞬間に「なにこれ!カッコいい」と直感的に思ったという。まるで変形ロボットのようなデザインは「どう見ても大人の買うものではない」としながらも、その視点の素晴らしさに興味をそそられたそうだ。

◎アニメカルチャーから生まれた“カッコかわいい”が新しいカッコよさ/宇野常寛
宇野さんは「仮面ライダー旧1号」と「曹操ガンダム」の2つのキャラクターを紹介した。今ファッション界で話題の「ノームコア」(ノーマル+ハードコアという意味の造語。極めてシンプルなファッション)を認めることは「文化の敗北だと思う」と熱く語り、人間の身体に昆虫の仮面を被せることで自意識を脱臭したサイボーグ的身体の代表として「仮面ライダー旧1号」を取り上げた。さらにガンダムシリーズのモビルスーツを、頭が大きく手足が短い3頭身にデフォルメした「曹操ガンダム」は、その定義から外れ「乗り物」として進化した歴史を持つ日本のアニメーションのロボットを生き物に再編集し、かつ三国志の人物データベースをも加えるという、非常にねじれた存在に仕上げている点を指摘。メインターゲットである児童が「“児童のまま”カッコよくなるにはどうしたらいいか?」という欲望にストレートに応える形で表現をしているという。そのうえで、「これは馬鹿にした話ではなく、日本の漫画アニメカルチャーが出した『カッコかわいい』の最進化系でもあり、ひとつの財産だ」と強調した。
今回このレポートで紹介したのは、トークセッションの中のごく一部のコメントである。多岐に渡るトークの全体像をレポートという形で紹介することはなかなか難儀であるが、建築家やデザイナー、アーティスト、批評家など、クリエイティブな世界で活躍する彼らの考える「カッコよさ」の一端が少しでも伝わればと思う。やや偏った意見も多かったかもしれないが、彼らが思う「カッコよさ」をヒントにしながら、あとは皆さんが思う「カッコよさ」を探してみるのもいいだろう。今回は男性ばかりの意見となったが、「モテ」という視点を含め、次回は女性たちの意見も聞いてみたい。

<関連記事>
*宇野常寛さん(評論家/ PLANETS編集長インタビュー記事(2015/06/16)
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*【レポート】Hikarie+PLANETS 渋谷セカンドステージ vol.8(2015/07/07)
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重野マコト

社会部記者として新聞社に入社後、イベントプランナー、コンテンツディレクター、飲食店経営を経て、現在はフリーライター。インタビューやイベントレポートなどの現場取材をメインに活動する。

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