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孤高の報道写真家セバスチャン・サルガドの眼差し

徹底した取材によるドキュメンタリー写真で世界的に知られるモノクロ報道写真家のドキュメンタリー「セバスチャン・サルガド 地球へのラブレター」が2015年8月1日より、Bunkamuraル・シネマで公開されている。

セバスチャン・サルガドさんは1944年にブラジルに生まれ、サンパウロ大学で経済学を学んだ。60年代、軍事政権下の祖国を逃れてフランスに移住し、パリ大学で博士課程を修了。エコノミストとしてロンドン国際コーヒー機構で働いたが、アフリカ訪問をきっかけに29歳でフリーランスの写真家へと転身した。何ヶ月も被写体と共に過ごし、経済学を基盤にした徹底した取材を行う制作スタイルで知られ、現在までにアフリカの飢餓を捉えた「SAHEL(サヘル)」や、近代化で消えていく肉体労働者を取材した「人間の大地 労働」などを発表。緻密さと美しさを兼ねた報道写真家として国際的に高い評価を受ける。

戦争、難民、虐殺と、人間の闇と弱さに向き合い続けたサルガドさんが、種の起源を見つめるプロジェクト「ジェネシス(根源)」に取り組む姿に追った同作。作中ではサルガドさんが熱帯雨林から北極圏までの僻地に赴いて、独自の生態系を育む動物たちに密着。少数民族との共同生活から、地を這いながらセイウチに近づく様子まで、緻密さ・美しさでも知られるサルガド作品が生まれる瞬間の姿を捉えた。
メガホンを取ったのは、サルガド作品の大ファンでもあるという巨匠ヴィム・ヴェンダース監督と、サルガドさんの実子で、共にジェネシスに取り組むドキュメンタリー作家ジュリアーノ・サルガドさん。過去の自身のプロジェクトに対する考えや、故郷への思いなどにも言及し、40年にもわたって独自の視点で写真を撮り続けてきた孤高の写真家の秘密に迫る。
セバスチャン・サルガド写真展「アフリカ」(2009年、東京都写真美術館)

私がサルガドに強く惹かれたのは、6年前に東京で開催された写真展で、南スーダンのディンカ族のアマク放牧キャンプを捉えた一枚を観てから。牛の群れがキャンプに戻ってくる様子なのだそうだが、牛達の角南スーダンのディンカ族が描く迷いのないカーブ、牛達を引き連れる人々の引き締まった背中が、埃っぽいキャンプを舞台に逆光に照らされて映し出される様子に目を奪われた。構図や光の入り具合など完璧な美しさをたたえており、それが報道写真家によるドキュメンタリー作品なのだということが、にわかには信じられなかった。
(c)Juliano Ribeiro Salgado

報道写真の役割は、目の前で起こっている事実を、それを知らない人たちに視覚的に知らせること。戦場の様子や、自然災害のつめ跡を記録して、出来事の当事者でない人たちにその激しさ、無念さを伝えることができるのが、報道写真の醍醐味だ。しかしサルガドの写真が伝えるのはそれだけではない。難民キャンプで子を育てる母のぬくもりに満ちた眼差し、採掘場で肉体労働に励む男たちの力強さ、やせ細った子どもが楽しそうに遊ぶ様子など、サルガドの写真群はかわいそうとか大変そうとかいう一面的な感想には収まりきらない感覚を強く想起させる。唯一無二の存在感で、見るものに人が生きていくということの根源を突きつけてくる。一体そんな写真を撮ることが、どうしたらできるのか。サルガドは一体、どんなふうにこの世界を見ているのか。同ドキュメンタリーを通して、孤高の写真家・サルガドさんがファインダーをのぞく、その眼差しを見つめて欲しい。

 映画「セバスチャン・サルガド/地球へのラブレター」
 〇公開:2015年8月1日〜
 〇劇場:Bunkamura ル・シネマ ほか
 〇監督:ヴィム・ヴェンダース、ジュリアーノ・リベイロ・サルガド
 〇出演:セバスチャン・サルガド ほか
 〇公式:http://salgado-movie.com/

【画像クレジット】
配給:RESPECT(レスペ)×トランスフォーマー
©Sebastião Salgado ©Donata Wenders ©Sara Rangel ©Juliano Ribeiro Salgado

編集部・横田

1980年生まれ、神奈川県在住。大学進学を期に上京して以来渋谷はカルチャーの聖地です。現在は渋谷文化プロジェクト編集部に所属しながら、介護士として働くニ足のわらじ生活です。

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