若くて謙虚なソーダとサンドイッチの店「Tokyo Kenkyo」
1年ほど前、まだお店がオープン当時、サンドイッチを注文したら「すみません、今、パン買いに行ってます」と言われた。
レストランで注文して、なかなか料理が出てこないと「今、魚捕りに行ってるんだよ」などと言い合って笑うことがあるが、これは冗談ではなく、本当にパンを買いに行っていたという話。でも、残っているパンでハーフサイズならできるというので、そちらをお願いした。
店員さんの人柄か、言い方か、不思議と腹も立たない。きっと、とびきりおいしいパン屋さんがあって、そこのパンをお客さんに食べてもらおうと、一所懸命パンを買いに自転車(たぶん)を走らせている姿が目に浮かぶ。後にそれは、参宮橋の「タルイベーカリー」 だったとわかる。
そして、オーダーが入ってから肉をたたき始めるという「極厚の豚ヒレサンド」は、しっかりとしたソースが肉をひきたてた味わいで期待通り。
その店の名前は「Tokyo Kenkyo」。
今回お話を聞いたのは若干20歳の石原さん。とても若い人達の作ったお店だった。
どうして、このKenkyoという名前にしたのですか?
「僕たちにできるのは、僕たちなりの謙虚な姿勢と感謝をもってお客さんに接し、喜んでもらえるようにすることだと考えて、この店名にしました」
ひとつひとつの言葉を丁寧に話す石原さん。静かな闘志のようなものが伝わってくる。 自分たちが20歳の頃と比べるとどうか。謙虚と真逆の方向に進んでいたという人がきっと多いのではないだろうか。
石原さんは、お店から帰るお客さんをいつも出口の外まで見送っている。お店がオープンしたばかりなら「きっと張り切っているのだろう」と納得がいくが、毎回そうされるので、これはお店の姿勢なんだと気付く。それは決して接客をマニュアル化したものではなく、自らそうしたいと考えてしていることだという。店長からも「自分の考えるホスピタリティをお客さんに示すように」とだけ言われているらしい。それが、この店にいると気持ちがいい理由かもしれない。
一人暮らしのおしゃれにうるさい男の子の部屋に、ちょっと遊びに来たかのような武骨な雰囲気の店内だが、なんとも言えないのんびりとした時間が流れている。渋谷駅から10分の場所とは思えない緩やかさがある。「謙虚な店」という姿勢と、店長やスタッフの人柄がなせる技なのだと思う。
Kenkyoの看板メニューは、ソーダとサンドイッチ。さっぱりとした甘さとすっぱさに炭酸の刺激が気持ちいい。「夏は炭酸!」という人も多いはず。太陽のアップルマンゴーソーダ、極寒が育んだ林檎のソーダなど種類も豊富で、迷っているとサンドイッチに合うものを選んでくれたりする。
繊細のキウイソーダ(550円)
たっぷりの果物を北海道産のてん菜糖で漬けてフルーツシロップを作る。てん菜糖は体温を下げない身体に優しい砂糖だという。果物と砂糖とのバランス、気温など少しの変化で味が変わるらしい。夏限定の吉野葛を使った新食感のソーダフローズンや、かわいらしいエディブルフラワーなど、五感を刺激する。Kenkyoの丁寧で繊細な感覚がうかがえるメニューの一つ。
極厚の豚ヒレサンド(1,090円)
サンドイッチは全7種類。冷凍ものは一切使わず、どれもオーダーを受けてからその場で作るというこだわり。
この日は近所のパン職人・芦谷さんが焼き立ての「南平台フロマージュ」(左写真)を届けてくるなど、オープンから1年で早くも地域との絆も築きつつあるという。
さらにコーヒー。たっぷりと注がれ、満足度が高い。エチオピア、ケニア、TokyoKenkyoブレンドの3種類のコーヒーが楽しめる。9月には上のフロアにコーヒーだけのエリアをオープンする予定。店長と語り合いながらコーヒーが飲める場所を作るのだとか。そちらも楽しみだ。コーヒーの色にしっくりくる藍色の器が気になって聞いてみると、店長が窯元まで出向いて、破棄されていた器の山から形と色を組み合わせ、オリジナルのカップを焼いてもらったという。マグカップは店内で販売もしている。 緩やかに進化するこの店を、この先もずっと見ていたいなと思う。
あきれるほどの暑さの中、忙しい日々を過ごすことに疲れたら、この若者たちの本気の謙虚さに触れながら、ゆっくりと流れる時間に身を任せに行っていただきたい。
Tokyo Kenkyo
○住所:渋谷区南平台町7-9
○電話:03-5784-0193
○営業:8:00〜22:00(ラストオーダー)年中無休
○公式:https://www.facebook.com/tokyokenkyo
代官山ひまわり
代官山を拠点に活動するNPO法人「代官山ひまわり」。所属するママさんライターが渋谷情報をお届けします。