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【レポート】BAPA卒業制作ライブ−「ライブエンタテイメントの未来」とは?

<イベント概要>
BAPA2期生の卒業制作展「LIVE BAPA」
〇開催:2015年7月20日(月)17:30〜19:30
〇会場:渋谷ヒカリエ9階ヒカリエホール ホールB
〇出演:虹のコンキスタドール
〇進行:ヒデさん(ペナルティ)、西村真里子さん(HEART CATCH代表)
〇公式:http://bapa.ac/

渋谷ヒカリエで7月20日、次世代クリエイター育成スクール「BAPA(Both Art and Programming Academy)」の2期生の卒業制作展「LIVE BAPA」が開催された。アイドルユニット「虹のコンキスタドール(虹コン)」とコラボレーションし、未来の渋谷を先取りする「新しいライブ体験の演出」を卒業制作のテーマに課せられた学生たちは、当日のライブで一体どのような仕掛けを試みたのだろうか。

単なる学生による「卒業制作の作品発表の場」という趣旨を超え、「新たなクリエイティブ」「新たなエンタテイメント」の可能性を感じた同ライブイベントの様子をレポートしたいと思う。
そもそもBAPAとはどんな学校なのだろう?
本題に入る前に開校の経緯などを簡単に触れておこうと思う。広告やデジタルコンテンツなどの制作を手掛ける「バスキュール」(港区)と「PARTY(パーティ)」(渋谷区猿楽町)が運営する同スクールは、「アート(デザイン)&コード(プログラム)」のスキルを兼ね備えた次世代のクリエイター育成を目指すもの。もっと噛み砕いていえば、「文系クリエイター」から「理系クリエイター」へ、さらには「文系と理系領域を往き来できるクリエイター」を発掘・育成したいと考えている。一般的にデザイナーといえば、かつては美術大学、デザイン系の専門学校出身の文系が主流であったが、インターネットの登場以来、紙媒体を中心としていたグラフィックデザイナーたちの仕事は大きく変わった。ウェブデザイン、コーディング、プログラムなどの専門・細分化が進み、デザイナーに求められる仕事の幅はデジタル分野まで広がったのだ。さらに2007年のiPhoneの登場でスマホアプリやSNSの需要が急増し、クリエイティブ業界は「デザイナー(=文系)」の時代から「プログラマー(=理系)」の時代へ大きくシフトせざる得ない状況となった。

たとえば、2013年にPerfumeのカンヌパフォーマンスが世界に衝撃を与えたが、それを舞台裏で仕掛けたのはライゾマティクス(港区)という制作会社。同会社の代表・齋藤精一さんはコロンビア大学建築学科、取締役の真鍋大度さんは東京理科大学理学部数学科出身のバリバリの理系だ。さらには47万人の集客を記録した『チームラボ 踊る!アート展と、学ぶ!未来の遊園地』(日本科学未来館)を手がけたチームラボ(文京区)は、代表の猪子寿之さんが東京大学工学部応用物理・計数工学科の同級生と共同で立ち上げた会社である。デジタルアートやインタラクティブデザインなど、インターネットやスマホ、新しいデジタル技術との融合が求められる今日のクリエイティブの世界においては、こうした理系の力が不可欠となっている。いわば、BAPAは「Art&Code(アート&コード)」をキーワードとして、今まで「文系」「理系」と分断されてきた領域を繋ぎ、自由なアイデアと発想を自らの力で具現化できる「逸材=スーパークリエイター」を輩出していこう、という高い志を持つ学校なのだ。

こうした熱い想いから昨年開校した同スクールは、今年で第2期目を迎えた。1月に入学募集が行われた今期は、広告代理店やメディアなどで働く若手社会人や学生などを中心に42名が入試を経て合格。今春から7月まで、広告やクリエイティブ業界の第一線で活躍するクリエイターを講師陣として迎え、全13回にわたって実践的なカリキュラムのもとで授業が進められてきた。今回の卒業制作ライブは4カ月間にわたる授業の総仕上げで、学生たちの成長と力量をはかる最終試験ともいえる。
さて、学生たちへの最後の試練となる、卒業制作のテーマは「2020年の渋谷系 次世代エンタテイメント」。女性アイドルユニット「虹のコンキスタドール(虹コン)」の協力のもと、彼女たちのライブパフォーマンスの中で、デジタルとアートを融合させた「インタラクティブな演出」を取り入れること。そして、未来の渋谷を先取りするような「新しいライブ体験」を実現することが、今回の卒業制作の課題となる。

ちなみに「虹のコンキスタドール(虹コン)」を知らない人のために…
虹のコンキスタドールとは、イラスト投稿のSNS「pixiv」が開催するアイドルを育成する「つくドル!プロジェクト」の全国オーディションから誕生した、第一期生のアイドルユニット。2014年のデビュー時には、でんぱ組.incプロデューサーの福嶋麻衣子さん、楽曲提供に前山田健一さん(ヒャダイン)、衣装デザインに岸田メルさんら豪華なクリエイター陣が集結し、大きな話題を集めたことでも知られる。 http://pixiv-pro.com/2zicon/

A〜Iの全9チームに分かれた学生たちは、会場に集まったオールスタンディング300人の観客を前に最優秀作品の座を競い、虹コンのライブ演出を順番にプレゼンテーションしていく。
司会進行役は、お笑い芸人のペナルティヒデさんと、HEART CATCH代表の西村真里子さんが担当し、各チームによるライブパフォーマンスの合間に軽妙なトークを交えながら、会場を大いに盛り上げた。

各チームの審査方法は、会場にいる300人の観客が自らのスマホから専用ページにアクセスし、実際にライブパフォーマンスを体感して、最も楽しく盛り上がれた「ライブ演出」を行ったチームに一人一票を投じる形で行われた。
300人中115票の圧倒的な支持を得て、堂々の第1位に選ばれたのはチームH「Sync Ring−シンクロしまくリング」だった。彼らのチームは、観客全員に指先にはめるセンサーを事前に配布。LEDが光るリングを指先に付けたまま、虹コンの曲「ぴくしぶおんど」に合わせて、大型スクリーンの右から流れてくる「←マーク(左に手を振る)」→マーク(右に手を振る)」「両手マーク(手を叩く)」などの記号に従って動作を行う。観客がリズムと記号に合わせて一斉に動き、そのシンクロ度をスクリーンにパーセンテージ表示していくなど、リズムゲーム(音ゲー)のような楽しさが高い支持を集めた一番の理由といえるだろう。 センサーの付いた指を動かすと、会場はライトアートのように光の軌跡が浮かび上がった。

続いて、2位となったのはチームI「コトバズーカ」(62票)。会場に設置された大きな拡声器型の装置「コトバズーカ」に向かってメッセージを叫ぶと、その言葉が瞬時に音声からテキストに変換されて大型スクリーンに表示されるという仕組み。
ライブ中に観客が一人ずつ交代でコトバズーカから虹コンメンバーに向かって「超絶カワイイ」「しげちー好きじゃああああああ…」などの熱い想いやメッセージを送った。「音声入力機能」そのものはPCやスマホなどでも実用化されており、目新しい機能ではないものの、アイドルとファンとの距離感を一気に近づけるライブ演出として人気を集めた。

3位はチームB「EXCITOSS!」(42票)。会場の右側半分を「ソラ組」、左側半分を「モモ組」にチーム分けし、大型スクリーンに映し出された自軍側の籠に玉入れをするように手を振るジャスチャーを行う。その手の動きにセンサーが反応し、ライブを観ながら2チーム対抗のガチンコの玉入れ勝負が楽しめるというもの。 スマホなどのデバイスを一切に介さずに、手を動かし、体を動かしてライブに自然と参加できる演出が観客の心をつかんだ。

そのほか、各チームのライブ演出は下記の通り。
チームF「煌めけ!虹のコンキスタドール」。虹コンの推しメンを選び、ライブ中にそのスマホ画面を振ると大型スクリーンに星がキラキラと輝いて反映される。推しメンの星を増やすため、必死にスマホを振る観客の姿が目立った。

チームG「WE ARE 虹コン BAND〜会場全員でバンドを組もうぜ!〜」。会場の観客にギター、ドラム、キーボードの3種類のダンボール楽器を配布。その楽器に自分のスマホを装着すると、誰もが簡単に楽器演奏ができるようになる。虹コンと共に総勢300人が一夜限りのスペシャルバンドを組み、観客自らがメンバーの一人として音楽を発信し楽しんだ。

チームE「LIVE SCORE 〜虹コン 真夏のぬきうちテスト〜」。虹コンの「今」を可視化する演出として、ランブ中の歌声をカラオケ採点機のように大型スクリーンに得点表示をするという趣向。得点が出るまでのドキドキ感をメンバーとファンが共有できた。 左写真は、採点機を使い、ヒデさんが「きらきらぼし」を歌う姿。ちなみに採点結果は64点だった。

チームA「NIJICON LIVE GYM」。ライブで虹コンを応援すればするほど、カロリーが消費されてダイエットが出来るというもの。ライブ前にスマホに自身のネームと体重を入力し、会場全員の体重を合算した数値から減量目標に向かってダイエットにチャレンジするという試み。ちなみに今回のライブではダイエットチャレンジに成功し、メンバーと観客全体で喜びを分かち合った。

チームD「きみをどくせん砲」。超指向性スピーカーを用いた大砲のような筒を虹コンメンバーが肩から担ぎ、ライブ中にファン一人一人に向けて視線と歌声を届けるというもの。超指向性スピーカーから届けられる歌声は、まるで自分のためだけに囁かれているというような錯覚を得て、「特別感」を感じる演出ツールとしてライブを盛り上げた。タレント兼プログラマーとして知られる池澤あやかさん(右写真、Tシャツ姿)も学生の一人としてチームDに参加し、虹コンと共にイベントに花を添えた。

チームC「CHEER PEOPLE」。スマホからメンバーに向けて13文字の応援メッセージを送ると、大型スクリーンにプラカード文字として1文字ずつ表示してくれる。その様子は、まるで高校野球のアルプススタンドの人文字応援のようで、とても可愛らしいライブ演出となった。

同スクールの校長・伊藤直樹さん(左)と朴正義さん(右)、プレゼンテーションを終えた学生たち。「みんな寝ずに頑張った。学生たちを褒めてやりたい」(伊藤さん)とライブの成功を喜んだ。

学生の卒業制作の作品発表としては、異例の盛り上がりを見せた同ライブ。果たしてアイドルのライブが主役なのか、それとも演出が主役なのか、とやや疑問を感じる部分もなくはないが、新しいライブエンタテイメントの可能性を十分に感じることができる内容であった。中には、そのまま実際のライブ演出として、すぐにでも使えそうなものもいくつかあったように思う。また一方で、気になる点としてはスマホを活用した演出がとても多かったが、デバイスの操作や複雑な動作などが加わると、どうしてもライブそのものを純粋に楽しむ気持ちが半減してしまうようにも感じた。チームB「EXCITOSS!」のように道具を一切使わず、手を動かすだけでインタラクティブな演出に参加できるシンプルな設計が、意外に大事なポイントといえるのかもしれない。机上だけでは分からない、ライブ演出の奥深さを改めて実感させられた。

最後に同ライブの最大の発見は、やはり「虹コン」だろう。ライブ終了後も彼女たちの歌が頭から離れない状態が続いている…。今後もBAPA卒業生および虹コンの動向に注目していきたい。

<関連記事>
*朴正義さん&伊藤直樹さんインタビュー記事(2014/07/17)
http://www.shibuyabunka.com/keyperson/?id=120
*【レポート】ヒカリエで「BAPA2期生」公開プレゼン(2015/06/22)
http://www.shibuyabunka.com/blog.php?id=677

編集部・フジイタカシ

渋谷の記録係。渋谷のカルチャー情報のほか、旬のニュースや話題、日々感じる事を書き綴っていきます。

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