お金か同僚か? 二者択一で見つかる”生きる意味"ー映画「サンドラの週末」
「エディット・ピアフ〜愛の讃歌〜」でアカデミー賞主演女優賞に輝いたマリオン・コティヤールが、ベルギー生まれの社会派兄弟監督ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌとタッグを組んだ映画作品「サンドラの週末」が現在、渋谷Bunkamuraル・シネマで公開されている。
これまで無名の新人を主演に据え、その瑞々しい視点を通して人間の尊厳を見つめるような作品群を生み出してきた同監督。過剰な演出をそぎ落としたシンプルで力強い作風が特徴で、カンヌ映画祭では二度のパルムドール大賞に輝く。コティヤールへの出演オファーはエレベーターの中で偶然出くわしたことがきっかけだといい、「その瞬間から私たちは魅了されてしまった」(リュック・ダルデンヌ)そうだ。「ビッグフィッシュ」(ティム・バートン監督)や「エディット・ピアフ」などハリウッドでも活躍していたコティヤールにとっては、華やかな要素を封印した今回の出演は「映画的で人間的な冒険」(コティヤール)と振り返る。
物語は、間もなく復職する予定だった主人公・サンドラが、上司から解雇を言い渡されるところから幕を開ける。突然の知らせに潰れそうな気持ちでなんとか上司に掛けあい、サンドラが解雇を免れるために出された条件は16人の同僚の内半数以上が自らのボーナスを諦めること。ボーナスをとるか、サンドラをとるか、月曜日の投票に向け、サンドラは夫と2人の幼い子どもに支えられながら、同僚の自宅を訪れて回る週末の説得ツアーをスタートさせる…。
訪問を繰り返すうちに、明らかになる彼らの家庭事情。あるものはサンドラ同様に妻が失業し、ある者は休日も別の仕事に励み、ある者はサンドラに罪悪感を抱き、あるものは良心と家族との板挟みにあって悩んでいた。同僚たちの言い分からとある田舎町が抱える雇用問題、社会問題が浮き彫りになる。同時にそんな彼らに自分の思いを伝えることは、サンドラ自身にとっても休職していたことへの後ろめたさや、そこまでして会社に残ったところで仕事を続けられるのかという不安との戦いでもあった。
激しいアクションも華やかな音楽も一切排し、淡々と物語は進んでいくのだが、その時々での同僚、サンドラ、家族の真っ直ぐな思いに心を大いに揺さぶられる静かで熱い作品。矛盾する気持ちを抱えながらも、人びとがそれぞれの立場や信念を伝えたり守ろうとしたりする姿はひたむきで、素朴で、美しい。そして迎えた月曜日、サンドラが見つけ出した自分が生きる証とは? 作品を見終わったら、あなた仕事をすること、生きることへの自分自身の期待や失望を、新しい視点で見つめなおすことができるのではないかと思う。もしあなたが少し人生に疲れているのなら、どうかほんの少し力を振り絞って、一人で映画館に足を運んでみてほしい。帰り道の足取りは、きっと軽くなっているはずだ。
「サンドラの週末」
〇公開:2015年5月23日(土)〜
〇劇場: Bunkamuraル・シネマ
〇時間: 10:45/13:05/15:25/17:35/19:45
※上映時間は変更になる場合があります。
〇監督:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ
〇出演:マリオン・コティヤール、ファブリツィオ・ロンジォーネ
〇公式:http://www.bitters.co.jp/sandra/
2014/ベルギー・フランス・イタリア/95分/配給:ビターズ・エンド
©Les Films du Fleuve -Archipel 35 -Bim Distribuzione -Eyeworks -RTBF(Télévisions, belge) -France 2 Cinéma
編集部・横田
1980年生まれ、神奈川県在住。大学進学を期に上京して以来渋谷はカルチャーの聖地です。現在は渋谷文化プロジェクト編集部に所属しながら、介護士として働くニ足のわらじ生活です。