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The Greatest Weekend On The Earth.
(地球上で最高の週末)

SHIBUYA BUNKA LIVE「夏フェス特集」の取材のため、映画『グラストンベリー』を鑑賞してきました。「フジロックフェスティバル」のお手本にもなったイギリスの「グラストンベリーフェスティバル」のドキュメンタリー映画です。毎年夏至の週末に行われ、今年で30回を越える世界最大級のフェスティバルは、グラストンベリーという、ストーンヘンジやアーサー王伝説と関係の深いスピリチュアルな土地で開催されることもあり、ただの「野外音楽フェス」とはいえない神秘的な雰囲気が漂っています。

個人的に2003、4、5年と3回連続してグラストンベリーフェスに参加したこともあり、映し出される全ての光景と人と音楽に親近感と強い郷愁を感じてしまいました。今思い出しても「あのライブがすごかった」というよりは、「あの空間がすごかった」という感想で、あのお祭りに参加した人なら誰でも感じるであろう、独特の一体感と多幸感が見事に映像化されていました。

映画はグラストンベリーの土地にまつわる映像とフェスの準備をする若者たちから始まります。車が誘導されて駐車場に入り、会場ではテントが設営され、ライブやパフォーマンスが始まり熱狂に身を任せ、やがて暗くなりダンステントやストーンサークルで焚き火をしながら、様々な音楽と狂騒が明け方まで続く。公式に撮影された映像だけでなく、観客が撮影した30年も前のホームビデオなどの素材から編集されているため、現在のフェスティバルの様子だけでなく、過去のフェスティバルの風景や出来事も随所に入ってきます。そのフェスティバルに飲み込まれていく様子が実に見事で、フェスシーズン前の疑似体験としては申し分のない出来でした。


(写真は2003年のグラストンベリーフェスティバル会場の様子。個人撮影)


この映画はいわゆる「ミュージックドキュメンタリー」ですが、“過去に出演したミュージシャンの豪華ライブ集”などではなく、ミュージシャン・観客・スタッフ・主催者・地域の住民・警察など、世界最大のフェスティバルに関わる全ての”人”が主役の映画です。ステージの上で行われている有名ミュージシャンのライブだけではなく、仮装大賞並の衣装で楽しげに演奏する観客や、目的のわからないパフォーマンスをする人、思い思いの主張を掲げるヌーディストやニューエイジ・トラヴェラーズなど、様々な人種が余すところなく映されていて、そこに集まる人の熱狂と思い入れと、グラストンベリーという神秘的な土地の歴史が詰め込まれ、本当の”フェスティバル”とはどういうことかということを実感させてくれます。

ライブの映像も、ただ出演者のライブを映しているのではなく、歌詞やリズムをフェスティバルの歴史や成長に重ねて描いているようでした。火を使ったパフォーマンスと併せてプロディジーのステージが映り、ビョークの「Human Behaviour」では歌詞が胸に迫り、「人は何のために歌い踊り、こうやってフェスに集まるのだろう」といった根源的な問いを感じさせられ、エンディング間近に流れるパルプの「Common People」では、普通の人の普通の生活の中に、フェスティバルという非現実的な空間があることに感傷を覚え、不思議な高揚感に包まれました。


(写真は映画『グラストンベリー』より)


また、レイヴカルチャーと切っても切れないドラッグの濫用と警察の介入の問題や、主催者であるマイケル・イーヴィスと出演者との金銭を巡る揉め事、過去に起きた暴動の様子など、フェスティバルにまつわる負の側面もきちんと時間を割いて描いています。ライブシーンも充実していてテンポも選曲もよく、随所にイギリス人らしいウィットを感じさせるカットが入り、2時間18分を退屈することなく楽しめました。

印象的だったシーンは、フェンスをよじ登って侵入を試みる人たちとそれを取り締まる警備員のチェイシング、イギリスを代表するグラフィティキング・Banksyによって描かれたシニカルなグラフィティ、グラストンベリー名物とも言われる泥まみれのトイレとその衛生管理、抗議のために警察の格好をして猥雑なダンスを踊る人たち、巨大なバルーンに捕まって空中ブランコをするパフォーマー、泥まみれのテントサイトを行き来するカヌー、瞳孔が開きっぱなしのレイバーの表情など、DVDなどでもう一度ゆっくり見たいと思うシーンばかりでした。 個人的に気に入ったセリフは、うろ覚えですが、「100年に一度現れる伝説の街で、4〜5日過ごしている気分だ」という観客のおじさんの一言。


グラストンベリーフェスティバルの正式名称は「GLASTONBURY FESTIVAL of Contemporary Performing Arts」。ここからも「FUJI ROCK FESTIVAL」との違いは明らかなように、グラストンベリーフェスティバルは、プロのミュージシャンが奏でる音楽だけではなく、すべての人が営む表現行為を広く受け入れ、音楽やパフォーマンスに託された自由と、その隣り合わせにある負の部分も交えて全身で楽しむという、まさに“フェスティバル”な空間そのものなのです。会場にいると、音楽を愛し音楽に助けられた人たちによる壮大な感謝祭に参加しているようなハッピーな気分になります。タイトルの「The Greatest Weekend On The Earth.」はイギリスの音楽誌『NME』がグラストンベリーフェスティバルを評した言葉ですが、フェスやレイヴ好きだけでなく、音楽を愛する全ての人にお勧めしたい映画です。


(写真は映画『グラストンベリー』より)
©2006 Glastonbury Festivals Limited ©2006 Newhouse Nitrate Production Limited

編集部・M

1977年東京の下町生まれ。現代アートとフィッシュマンズと松本人志と綱島温泉に目がないです。

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