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水面下で揺れ動く心の動きを捉える
奥原作品の魅力とは?

「ゆっくりと、もの静かな日常の水面下で揺れ動く心の動き」を描く達人。
監督・奥原浩志さんを一口に言えば、そんな表現が妥当かもしれません。

先日、当サイトの特集企画「No Movie,No Life」で奥原監督をインタビュー取材するにあたり、過去作品の「タイムレスメロディー」「青い車」をレンタルDVDで、最新作「16[jyuroku]」を渋谷シネ・ラ・セットで見ました。この3作品に共通して言えるのは、淡々と続く日常生活の中にあるエピソードを誇張することなく、あえて説明することなく、じっくりと時間を刻みながら、頭ではなく、感覚で伝えようとしている作品であること。日ごろ、テレビドラマに見慣れた私たちは、わかり易いストーリー、ジェットコースターのような映像を求めがちですが、いわば、奥原監督はそうしたテレビ作品とは、対極にある作品づくりをされている作家の1人と言えます。とかく追加、増量、プラスといったものが持て囃される風潮の中で、削ぎ落とせるものは落とし、無駄な台詞は抜き、無駄な感情の起伏や演出を抜き、無駄なカット割りを抜き・・・、そうした足し算ではなく、引き算したシンプルな表現の中で、芯にある心の葛藤、切なさ、寂しさや、喜びを見出そうとしています。

「タイムレスメロディー」では、ビリヤード場でバイトし、音楽活動する河本(リトル・クリーチャーズの青柳拓次←最近、エビス<ザ・ホップ>のCMに出演している)とバンド仲間・チカコ(市川実日子)の微妙な関係?ピアノ調律師の田村と過去のない謎の男・篠田の関係を・・・。「青い車」では、幼少期のトラウマ、そしてサングラスで目の傷と心を閉ざすリチオ(ARATA)の真意、お互いどこか遠慮しがちな妹・このみ(宮崎あおい)と姉・アケミ(麻生久美子)の関係を・・・。「16[jyuroku]」では、東京へ向かう列車の中で、また東京のファミレスでサキ(東亜優)に気づかれない間に、そっと姿を消すヤマジ(柄本時生)の思いを・・・。決して言葉で多くは語られないものの、微妙な間や独特な空気感が、私たちにそれぞれの登場人物の心境や思いを深く考えさせる時間を与えます。この曖昧で、よく分からない関係や各々の思いが、実はとても人間らしいことのように思えてなりません。完璧な人間なんて、誰一人いるわけもなく、常に心の中では様々な思いが揺れ、正解や結論のないことも多々考えながら・・・、それでも、人間は日々暮らしています。割り切れないことも、理解できないことも含め、人間は生きているわけです。そんな日常の水面下で揺れ動く心の動きを、本当に上手に描くのが奥原監督です。作品を見ていて思うのは、一見主役だと思われていた台詞が実は、台詞のないシーンを際立たせるための脇役であったのかもしれない、と思えてならないこと。もの凄く退屈なことを言っているようですが、物事の本質を捉えるには、余計なことは全くいらないのでしょう。これこそがテレビと映画の違いであり、奥原作品の最大の魅力と言えます。


ちなみに現在公開中の「16[jyuroku]」について、もう少しお話しますと、この映画は東亜優主演の「赤い文化住宅の初子」のスピンオフ作品。つまり低予算、短時間(約1週間)で作られたオマケ作品なのですが、ところが、さすがは奥原監督と唸らざるを得ないものに仕上がっています。サキ(東亜優)が上京し、女優として第一歩を歩むまでの短い期間の話は、まるで新人女優・東亜優さんのリアルな話ではないかと錯覚するほど。このドキュメンタリーとフィクションを融合したような巧みなストーリー展開は、人の心情を映像表現として捉えることの上手い監督ならでは。それから本作品で見逃せないのはヤマジ役の柄本時生さんの存在感です。ハッキリ言って、イケメンではないのだけど、何かだるく眠たそうな演技はなかなかいい味を出していました。今後の活躍に期待大です。

映画「16[jyuroku]」は7月6日まで、渋谷シネ・ラ・セットで公開してます。

編集部・フジイタカシ

渋谷の記録係。渋谷のカルチャー情報のほか、旬のニュースや話題、日々感じる事を書き綴っていきます。

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