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世界と繋がる一枚の写真

現在、東京都写真美術館で開催中の『報道写真展2007』を鑑賞してきました。この展示は毎年開催され、「プロの写真家が前年1年間に撮影した報道写真を対象に『世界報道写真コンテスト』を行い、事件、事故、紛争やスポーツ、アートなどのニュース写真を10部門に分類。それぞれ単写真、組写真の1位から3位までの入賞作品を選出」されたものが掲出されています。今回は世界中の報道写真から選りすぐられた写真約200点が展示され、最終的には世界45カ国以上を巡回する予定となっています。

壁面に並んだ写真は、目を背けたくなるほど凄惨でショッキングなものから、珍しい自然の生態を捉えたもの、ユニークな視点で非現実的な一瞬を留めたもの、被写体やシチュエーションの異常さが際だつものなど、どれも情報量が非常に多く、足早に通りすぎることのできないものばかり。




本展示の解説に“いま、この地球上で起こっているあらゆるニュースを最高の技術と取材力で、また、時に命を懸けて撮影した写真家たちの作品の数々が、今年も見る者の心を大きく揺さぶることでしょう”とありますが、まさにその通りで、特に紛争や戦場の現場を写した写真の前に立つ度に、世界のどこかではこういう出来事が実際に起こっているんだなということをリアルに実感し、自分の見識の狭さを思い知らされます。当たり前だけれど、どの写真もその場所で実際に起こったことであり、一枚としてフィクションはないということに改めて心を動かされ、すごいなあ、とただ圧倒されるばかりでした。


あるいは自分が知っている場面やお馴染みの顔も、一枚の写真だからこそ多くのものを物語っている場合があることにも気付かされます。例えば、世界中が注目するゲームで試合を終えたばかりのサッカー選手、プジョルやエトーの目には、大舞台で想像を絶するほどのプレッシャーを経験したからこその、なんとも言えない荘厳な光を宿していて、その先にある歓喜や絶望さえも写しているかのようでした。テレビニュースで何度も見たクラウチのボレーシュートのシーンも、改めて写真で見ると、一見何が起こっているのかがわからなくなるような不思議な瞬間となって飾られていました。テレビの映像よりも一枚の顔写真の方が圧倒的に臨場感が伝わってくるという、「報道」の底力を見せつけられたような気がしました。



(写真は全て『世界報道写真展2007』展示風景)


物理的にはたった一枚の写真ですが、どの写真も単なる出来事の記録だけでなく、明らかに撮影者による強烈なメッセージと伝達性を持っており、「メディア」としての野性的な本能のようなものが過不足なく表されていました。(その過不足のなさが見事に表現されているが故に、数多い報道写真の中からこのような大きな賞を受賞するのでしょうが)。シリアスで悲惨なものからユニークで心が和むものまで、一言で「報道写真」と言っても実に多彩で幅の広い瞬間が記録されていますが、そのどれもがこの世界で起こった出来事である、ということに「地球の脈動」のようなものを感じました。視覚を通じて世界と繋がる一枚と出会えるこの展示は、8月5日(日)までの開催です。

編集部・M

1977年東京の下町生まれ。現代アートとフィッシュマンズと松本人志と綱島温泉に目がないです。

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