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「渋谷で一句プロジェクト」その二
 映画と俳句

六月某日、渋谷東急BunkamuraのLE CINEMAへ。
さて、何年ぶりの映画館でしょう?
実は、映画館へ来るのは、『千と千尋の神隠し』以来。
ひとりで観るのは、『永遠と一日』以来、もっと久しぶり。
そして、ここLE CINEMAへ来るのは『太陽と月に背いて』以来です。
Bunkamuraの美術展へは、赤ん坊の娘と来たりしたんですけど。
って、言い訳するのも変ですが、いやはや、ブランクを感じます。

大学生の頃は、大学の近くの映画館へ行ってました。
非日常な空間が好きで、俳句に詠んだことも。


映画館 隣の席へ 置く秋果
(えいがかん となりのせきへ おくしゅうか)


だったかな。
秋の果実の香りを、映画館の闇のなかに置くことで、際だたせたかったんです。




徳島出身者としては、『眉山にも惹かれつつ、
本日は、『スケッチ・オブ・フランク・ゲーリーを選択。

映画館は非日常の空間と言ったけど、今日のスクリーンには、建築家であるフランク・ゲーリーの日常が映し出されていく。
建築家というと、定規をスライドさせて、何本もの直線を引き、設計図を描く、というイメージがありません?
フランク・ゲーリーは、違う。
工作をするように、紙にはさみを入れ、へんてこな形の紙片を、透明テープでぺたぺた貼り付けていく。
「なんかへんだな」「もっと、怒ってる感じにしたい」
と、フランク語をつぶやきつつ。
その時の、フランクの表情が素敵。
楽しくてたまらない、そんな様子。
何か新しいものを創り出す時のわくわくだ。
つられて、こっちまでわくわくさせられる。

わたしの俳句が何の役に立たないとしても、やっぱり、やめられないでいるのは、こんなふうに、何か新しいものが創れるんじゃないか、とわくわくするからかも。
いくつになっても、その瞬間は、自分を、遊び飽きることのない力強い子供のようだと思う。

映画には、フランク自身の不安や、フランクへの批判も登場する。
それは現実だ、誰だって、いいことばっかりじゃない。
注目されるほどに、不安も批判も大きくなるのは、芸術家に限らずあること。
だからこそ、最後のシーン、フランクが自分の建物を、撫でながら歩く様子に、胸がぎゅっとなる。
自分にできる限りのことをして、創り出したものへの愛情。
それを持てる人間を芸術家と呼ぶのなら、やっぱり、芸術家は幸せだ、と思う。
建物だって、言葉だって、いつかは消えてなくなるものだから、今、触れることができることを、大切にしなくちゃ。
そんなことも思った。




今日のキーワードは、夏日、六月、渋谷、道玄坂、映画館、建築家、歪み、曲線…。
さぁどんな一句が生まれるかな。


大高 翔(おおたか・しょう)さん

1977年(昭和52年)徳島生まれ。
13歳より、俳人である母のすすめで作句開始。
高校卒業時に第一句集、20歳で第二句集を出版。
句集以外の著作に、紀行エッセイ集『夢追い俳句紀行』(NHK出版)、漱石俳句に注目した『漱石さんの俳句─私の好きな五十選─』(実業之日本社)。
最新刊は、アートブックのような俳句集『キリトリセン』(求龍堂/2007)。
現在、徳島新聞「季節(とき)のひとかけら」(中学生から25才までが対象の俳句欄)選者、毎日新聞社 まいまいクラブ「ケータイ俳句写真」選者、西武鉄道「秩父・川越 でんたび大賞」審査委員長を務めている。

大高翔さん公式サイト
「BUNKA×PERSON」インタビュー

大高 翔(俳人)

1977年徳島生まれ。13歳より、俳人である母のすすめで作句開始。高校卒業時に第一句集、20歳で第二句集を出版。現在、徳島新聞「季節のひとかけら」選者、毎日新聞社 まいまいクラブ「ケータイ俳句写真」選者、西武鉄道「秩父・川越 でんたび大賞」審査委員長を務めている。

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