「渋谷で一句プロジェクト」その一
(ゲストブロガー・大高 翔)
渋谷で俳句が詠みたくなる、そんなブログを目指して綴りたいと思います。「渋谷と俳句?」と思われてしまうかもしれません。
そんなことないです。
だって、俳句は、今の自分を詠むもの。
電車のなかでも、スーパーのなかでも、そこが渋谷でも、「あっ」と思ったら、それが俳句の種。
わたしの目を留めたものたちが、俳句のヒントになることを願って、渋谷をメモしていきたいと思います。
わたし自身、中学生の時に渋谷の大雪を詠んで以来、ちょこちょこと、この街から、俳句を賜っている。最新の渋谷俳句は、「渋谷文化プロジェクト」で発表したもので、推敲を経て、最新刊『キリトリセン』のなかに収録した。ぜひお手にとって、見つけてやってください!
さて、五月某日、平日午後、すっかり夏日の渋谷に到着。
「渋谷エクセルホテル東急」で、出版社の方と、本の内容についての打ち合わせ。
アイスティー、美味しい。
打ち合わせ、楽しい。
「こういうの、どうでしょう」と自分の内側のイメージを、言葉に置き換える作業は、難しくて、楽しい。
話すことも、文章を書くことも、俳句も、そういう意味では同じだと思う。
わたしは、伝えたくて、言葉を探す。
打ち合わせを終えて、渋谷駅前から、公園通りの坂を上がっていく。
学生時代の頃は、このへんに買い物や飲み会で時々遊びに来た。
歩くこと、ただそれだけのことが、とても新鮮に思える場所だったんだなぁと思う。
公園通り、という響きが、明るくて好き。
十二月の公園通りを、俳句に詠んだこともあったっけ。
公園通り 光にあふれ 十二月
だったかな…。
MARNI、MIUMIUのディスプレイに目が留まる。
ガラスの向こうにある静かな空間には、着てみたい洋服と、眺めていたい洋服。
手に取ったり、取らなかったり。
こういう、ちょっとの寄り道が楽しい。
そろそろ目的地、アプレミディ。
七、八年前くらいに、音楽好きの友人が連れてきてくれたカフェで、
それ以来、ひとりでも立ち寄るようになって、渋谷で、いちばん落ち着ける居場所になった。
脳へ糖分補給、ティラミスとコーヒーを注文しながら、
ここに連れてきてくれた友人、中学時代の同級生のことを思い出す。
そういや、最近会ってない。
「そのうちゆっくり食事に行こう」ってメールをくれてたけど、なんか忙しそうだった。
そろそろ会いたいな。
メールしてみようかな。
会って、ネタもグチも思い出話も、洗いざらい(笑)、何でも話したいし、聞きたい。
なつかしい時間も補給しなきゃ。
ここから見下ろす公園通りは、人と車が行き交い、色と音にあふれている。
その風景は、わたしのなかに静かに流れ込んできて、なつかしい原点を呼び起こす。
わたし、もうちょっとがんばらなきゃな、と思う。
娘を迎えにいく時間がそろそろ。
母親になる時間まであと少し。
帰りの公園通りは下り坂だから、元気に歩いて帰ろう。
渋谷、公園通り、五月、路地、俳句のキーワードをつぶやきながら、電車に乗る。
大高 翔(おおたか・しょう)さん |
大高 翔(俳人)
1977年徳島生まれ。13歳より、俳人である母のすすめで作句開始。高校卒業時に第一句集、20歳で第二句集を出版。現在、徳島新聞「季節のひとかけら」選者、毎日新聞社 まいまいクラブ「ケータイ俳句写真」選者、西武鉄道「秩父・川越 でんたび大賞」審査委員長を務めている。