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タナダユキ監督の
最新作「赤い文化住宅の初子」を見て

ここ最近、30代の女流映画監督が注目を浴びています。「かもめ食堂」の荻上直子監督(1972年生まれ)、「ゆれる」の西川美和監督(1974年生まれ)、「檸檬のころ」の岩田ユキ監督(1972年生まれ)、「さくらん」の蜷川実花監督(1972年生まれ)・・・等々、女性ならではの描写、台詞まわしや映像美が私たち映画ファンにとって新鮮に感じるのかもしません。つまり、今までの映画界があまりにも男性社会であったとも言えますが・・・。こうした新しい潮流の中にあって、ひと際、独自の存在感を放つのがタナダユキ監督(1975年生まれ)です。2000年にぴあフィルムフェスティバルでグランプリを受賞して以来、伝説のフォークシンガー高田渡さんのドキュメンタリー「タカダワタル的」、過激な性描写で話題となった「月とチェリー」や、つい最近では「さくらん」の脚本を手掛けるなど、その色が一体どこにあるのか、作品ごとに様々な可能性と才能を感じさせる女性監督の1人。このタナダ監督の最新作が、松田洋子さんの人気コミック「赤い文化住宅の初子」の映画化。


主人公の初子は母に先立たれ、父は蒸発、頼りの兄も喧嘩に風俗と当てにならない、そんな不幸を背負った中学生。家には電話がなく、未払いで電気が止まり、アルバイトもドン臭いと言われてクビになり(ちなみにクビにしたラーメン屋のオヤジは、ムーンライダースの鈴木慶一さん→どこかシティボーイズのきたろうさんに似ている・・・)、高校に行く夢もかなわない・・・、すべての欲を抑え込み、そして諦める、甘くもなく、夢もない青春ストーリー。が、この映画を見て、「初子は、まだまし!」と一喝した方も案外多いかもしれない。それもそのはず、初子は可愛いし、貧乏人とイメジられているわけでもなく、その上、中学生のくせに彼氏までいるのだから。私なんか、デブで、ブスで、貧乏で・・・、そんな青い文化住宅のケイコも、黄色い文化住宅のヨウコも、きっと世の中にはいるのではないでしょうか。


さて作品は暗さが漂うストーリー設定、坦々とした台詞回し、間合い・・・というと、退屈な映画のように感じるかもしれませんが、不思議なことにタナダワールドに次第に引き込まれていく自分に気がつきます。豊田道倫さんの音楽が作品を邪魔せず、シンプルに抑えられていることもありますが、ボソボソと広島弁で話す初子の台詞を聞き逃さまいと自然と耳が集中してしまう。また所々にくすりと笑いを誘うユーモアを入れるあたりは、まるでキタノ作品(人と比較されるのは、タナダ監督も嫌いかもしれませんが)のようでもあり、暗さ、重さが漂よいがちな作品全体にほっとする温かさ、優しさを感じさせます。そして初子と三島くんの別れ、「大人になったら、結婚しようね」と約束するラストシーンを見て、つい、今後の二人の未来を想像してみたくなる、そんなのりしろのある作品に仕上がっています。きっと三島くんは大阪の大学へ進み、初子を追いかけてくるのではないか、いや、初子は大阪で水商売に手を染め、すぐに別の男ができるに違いない・・・、といい加減なことを考えてみるのも面白いかもしれません。それからストーリーのほかに、赤毛のアン、赤いマフラー、赤いあやとり、鼻血、ゴム(これは赤じゃないか)、火事・・・等々、作品名「赤い文化住宅・・・」の通り、様々なシーンにキーカラーの「赤」が登場しますので、そんなところに注目して見るのも楽しみの一つ。

余談ですが、劇中で初子が食べるものがなくご飯に水を掛けて食べていたのを見て、以前、バラエティ番組でスマップの中居正広さんが幼少期の極貧時代に兄と一緒に「水かけごはん」を作って、よく食べていたという話を思い出しました。あー、中居さんも「赤い文化住宅のマーくん」だったのか。よくここまで頑張ってきたね、と映画を見ながら中居さんと初子をダブらせたのは私だけでしょうか。ちなみに「水かけごはん」をインターネットで調べてみると、人気コミック「美味しんぼ」の第60巻 4話水対決の中でも、究極のメニューとして「水かけ冷やご飯」が紹介されているようです。なんでも、水をかけることによって、ご飯の甘さや旨味が溶け出し、ご飯の美味さを増すんだとか。そういえば、これに似た話で、公園に住んでいたことのあるお笑いタレントの麒麟・田村さんがご飯を噛み続けるとだんだん甘くなり、それでも噛み続けると無味となり、さらに噛み続けると、一瞬フワっとした味が出るという「味の向こう側」説を唱えていたっけ。何事も紙一重ですね。映画と関係ない話で申し訳ありません。

赤い文化住宅の初子」は明日より、シネ・アミューズで上映となりますので、いま注目のタナダ作品を見てみてはいかがでしょうか(初日はタナダユキ監督&出演者の舞台挨拶もあるそうです。→詳しくはこちら)。きっと映画館を出たあとで、TSUTAYAに寄って、過去の作品も見てみたくなるはず。

写真: (c)2007松田洋子・太田出版/『赤い文化住宅の初子』フイルムパートナーズ

編集部・フジイタカシ

渋谷の記録係。渋谷のカルチャー情報のほか、旬のニュースや話題、日々感じる事を書き綴っていきます。

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