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ヴィヴィアンの私的映画レビュー
「タクシデルミア ある剥製師の遺言」

現在、渋谷イメージフォーラムで熱く上映されております『タクシデルミア ある剥製師の遺言』。先日青山ヴェロアでも「ハクセイナイト」と題して上映記念パーティを私ヴィヴィアン佐藤がオルガナイズ。
出演者も豪華でドロマイツ、ジョン(犬)、山川冬樹、日比谷カタンと面白い顔ぶれで、ヴェロアのvipルームはその夜はたくさんの剥製!!!に埋め尽くされました。悪趣味〜!!!!

前作『ハックル』という最初から最後までセリフもなければ字幕もない、ハンガリーの田舎町の1人の老人がしゃっくりを永遠と吐き出し続ける映画を、「吐き出して」しまった奇才・パールフィ・ジョルジの長編第二弾『タクシデルミア ある剥製師の遺言』。この映画自体の歴史もまた物語以上に大変ドラマチックである。2004年に米国のサンダンス映画祭でNHK国際映像作家賞を受賞。NHKが出資したにも関わらず、当のNHKでは放送出来ないというびっくりする様な事実があった。物語と同様に数奇な運命を背負っている本作は、2006年にカンヌ映画祭で「ある視点部門」を受賞した。

無理矢理に形容するなら、ハンガリー版『ブリキの太鼓』、もしくは『百年の孤独』とも言えるだろうか。超個人的な一族の話とハンガリーという国の歴史、魔術的リアリズムと歪みのない等身大の画面。近視的な視線から鳥瞰的俯瞰。これらの全く相反するものが何の境目もなく、ピントを合わせたり外したりするレンズの様にスクリーン上に展開される。さながら高速で回転する宇宙コマや、精度のよい金属で出来たの螺子山をボルトでなぞり一体化する感覚。それは、人間と機械が同化することを好む傾向にあるこの監督の気質とピタリと重なる。

本作は三世代の「男たちの物語」だ。第二次世界大戦の当番兵である祖父。共産主義時政権下の国家的威信をかけた大喰いアスリートである父。EC統合後、アメリカ型資本主義がうまく機能していない現代のハンガリーで剥製業を営む息子。タイトルの「タクシデルミア」とは剥製術という意味である。いままで一族の話というものは何かしら「女性性」が挟まれ、子宮的・母性的な連帯を通して描かれる場合が多いが、本作の場合は「女性性」を全て排除している。かといって父親像というものもほとんど機能せず、終始「男性性」の物語である。三世代の物語ではあるが、世代同士が繋がっているわけではなく、各々の世代の主人公は限りなく自己完結型。観客はその不完全な因果関係を自分の解釈で埋めて行かなくてはならないのである。。。祖父は自慰による妄想によってしか自分を解放することが出来ない孤独な「独身者」。便所の横に建てられた小屋でマッチやロウソクで性的妄想に浸り、ポップアップ本すら欲望の吐け口にする。そのうち、将校の二人の娘や家畜である豚と寝る想像をしつつ、将校の「豚のような」妻と寝てしまう。そこで生まれたのが豚の尻尾を持つ父親。同時に祖父は頭を撃ち抜かれる。父親は共産主義政権下ハンガリーの国家的大喰いアスリート。オリンピックに参加するために日夜食べては吐き続けるという訓練を大真面目に行っている。そこで同じく大喰い女性アスリートと結婚。結婚式当日の不倫によって生まれた子が似ても似つかない病弱そうな息子だ。息子は天才的剥製技師として現代を生きていた。父親はアスリートとして挫折し、まったく身動き出来ない巨漢になってしまい、息子に食べさせてもらっている。。。

パールフィ監督の独特な映像センスとカット割り、物語構成力、隠喩力には目を見張るものがある。ハンガリーにこんな天才的な映像作家がいたこと自体が驚きである。孤独な祖父は暗い小屋でロウソクを片手に子守唄を歌うが、それは決して接点のない孫への贈り物だ。物語の最後に孫の臍にクローズアップすることによって現れる暗闇は、祖父の自慰の王国の小屋へと確かに繋がっている。その小さな小屋はパールフィ監督が覗き込むカメラにも重なることだろう。母性性の欠落から子宮や臍の緒は登場しない。それに変わる動物的な尻尾の存在が、自分のために突き進み続ける戦闘性や密室性を象徴している。「剥製」とは本来生前を再現する「死んだ物たち」であるが、この映画は映画の剥製では決してない。物語ることが困難と言われている現代、これほど物語が生き生きと描かれている映画は滅多にない。



■2008年3月12日にヴェロアにて行われた「ハクセイ☆ナイト」の様子

日比谷カタン氏と

剥製で埋め尽くされたヴェロアのvipルーム

ジョン(犬)氏

ヴィヴィアン佐藤(非建築家)

非建築家、アーティスト、ドラァククイーン、イラストレーター、文筆家、パーティイスト、、、と様々な顔を持つ。独自の哲学と美意識で東京を乗りこなす。その分裂的・断片的言動は東京では整合性を獲得している。。。なんちゃって。

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