ヴィヴィアンの私的映画レビュー
「潜水服は蝶の夢を見る」
★『潜水服は蝶の夢を見る』★シネマライズで絶賛上映中!
これは実話で、フランス版ELLE元編集長ジャンが奇病ロックト・ インシンドロームにかかってしまう。片方の瞼以外は全く動かなくなる というもの。意識や記憶、思考、想像力は従来のままで、彼は自伝を左 目の瞬きのみで綴っていく。。。これは主人公のジャンの単なる闘病奮 闘記ではなく、医師、言語療法士、妻、子供達、元恋人、同僚、、、と 様々な視点から描かれており、限りある時間を生きるということ、人と の関係を見つめ直すこと、が丁寧に描かれている。。。

シュナーベルは『バスキア』という映画でその時代のNYのアート シーンを丁寧に描いてみせた。ウォーホール役がD・ボウイ、 シュナーベル役はG・オールドマン。
『潜水服〜』のなかの、手段が変わろうと、もしくは断たれようと何度 でも這い上がる主人公ジャンはシュナーベル自身の様。
ジャンが言語療法士からコンタクトすることで意思の疎通が出来ること を教えられた瞬間に、画面のなかの南極の氷山の様な大きな氷の固まり が突然崩れ出す。彼の固まっていた絶望感が音立てて溶解し出すのであ る。
そして、最期エンドロールで自らの自伝の出版を終え自身の人生を全う した瞬間に、今度はその氷山がフィルムの逆回転で次々と凝固始め る。。。
その様はシュナーベルの80年代の絵画そのものともいえる。
巨大キャンバスには一度割られたたくさんの皿が、元の様に形を整えら れ粗雑に貼付けられ、その上から絵の具で様々な具象が描かれている。 キャンバス上には行為のとしての「時間」が貼付けられている。
キャンバス上に縦横無尽に描かれているその作品で、キャンバス生地に 描かれている場所は純粋な「絵画」、割れた皿上の部分に描かれている 場所は「物質(としての絵の具)」として(皿の上に乗るものは物質な ので)表出している。

絵の具は皿の上に乗るので「物質」でもあるし、純粋に「色彩」でもある。
彼の意識はその「物質」の様な「現実」を帯びてもいるし、「色彩」の 様な「理想」という一面も含んでいるともいえるかもしれない。
映画の中にもキャンバスの中にも同時に「現実」と「理想」が同居して いるのである。

ヴィヴィアン佐藤(非建築家)
非建築家、アーティスト、ドラァククイーン、イラストレーター、文筆家、パーティイスト、、、と様々な顔を持つ。独自の哲学と美意識で東京を乗りこなす。その分裂的・断片的言動は東京では整合性を獲得している。。。なんちゃって。