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『ラスト、コーション』熱く上映!
政治が無い世の中では恋愛も有り得ない?

『ラスト、コーション』熱く上映!政治が無い世の中では恋愛も有り得ない?

『ブロークバック・マウンテン』でアカデミー賞監督賞を取ったアン・ リー監督。先日マンダリン・オリエンタルで来日記念パーティが行われ、現在はBunkamuraル・シネマで熱く上映されております。時は1942年、日本占領下の上海。抗日運動に身を投じる女スパイの ワン(タン・ウェイ)。彼女に任された重要任務は傀儡政権特務のイー (トニー・レオン)に近づき、愛人になりすまし彼を殺害するというもの。危険な逢引を重ねるうちに何ものをも信頼していないイーにワンは 魅かれ始めるのであった。。。

私的なことだけれど私の父親は昭和4年(1929年)生まれ。その年 前後に生まれた人たちは皆特殊だといわれているわ。どうしてかというと、彼らが中学生から高校生に移る多感な次期に第二次世界大戦が終結 したから。これは世界的にこの世代に共通していることで、昨日までは 自国が一番と教え込まれていたことが、次の日からは他国が一番、、、 とあさっりと訂正される。これは戦争に勝った国でもその大きな世界大 戦が本当に正しかったのか?と疑問が生まれ、その勝利との代償を考え るとその国の若者は何に対しても懐疑的に成らざるを得なくなる言われ ているわ。

この時期の上海は傀儡(かいらい)政権と言って、被植民地的な要素が 強い政権下で、政治家や特務機関の人間はとても複雑な精神状態を数年 強いられることになるわ。その結果自分の国を信じたくても表向きは信 じることができない、敵国の手先を自ら演じることによって自分たちの 裕福な生活が保障されると言う屈折的な状況にもなり、また同国のスパ イに命を狙われるという最悪の状態に。
劇中のイーやワンはそういった不透明で先が見えない、不安定な政治的 な国家の利益より、肉体的な「痛み」や手探りの皮膚感覚しか信じるこ とが出来なくなる。。。政治や社会活動は「共同の幻想」だとすると、 恋愛を始め肉体の問題は「個人の幻想」ともいえるかもしれないわ。映画でいえばN・ジョーダンの『クライングゲーム』や『プルート で朝食を』など政治的テロリストが敗北する瞬間に、ジェンダーや性的 肉体的な常識の境界の逸脱に向かい始める。ナチゲシュタポとユダヤ人の時間的経過に伴う立場の変化とねじれた恋愛を扱った『愛の嵐』も。

社会的「共同幻想」が存在しにくい社会は、その勝利も敗北も無く、 「個人の幻想」たる肉体の問題も生まれ難く、結果究極な恋愛は生まれ 難いのかもしれないわね。



助演俳優:ワン・リーホンと。マンダリンオリエンタルにて。



菊池凛子嬢と。

ヴィヴィアン佐藤(非建築家)

非建築家、アーティスト、ドラァククイーン、イラストレーター、文筆家、パーティイスト、、、と様々な顔を持つ。独自の哲学と美意識で東京を乗りこなす。その分裂的・断片的言動は東京では整合性を獲得している。。。なんちゃって。

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