「渋谷駅桜丘口地区」再開発の施設名称「Shibuya Sakura Stage」発表 地元悲願の「新改札口」も
渋谷・桜丘エリアの再開発プロジェクト「渋谷駅桜丘口地区第一種市街地再開発事業」の施設名称「Shibuya Sakura Stage」が発表された。
渋谷駅中心地区の大規模な再開発事業は、「5街区」と呼ばれる5つの大きな再開発プロジェクトと都市基盤整備から成る。渋谷再開発事業の筆頭は2012年4月、東急文化会館跡地に開業した「渋谷ヒカリエ」である。その後、東横線渋谷駅ホームや線路跡に「渋谷ストリーム」(2018年9月開業)、「渋谷スクランブルスクエア東棟)」(2019年11月開業)、さらに東急プラザ跡地に「渋谷フクラス」(2019年12月開業)と、今までに4つの街区が誕生してきた。その後、東京五輪やコロナ禍を挟み、今回5つ目の街区となる「渋谷駅桜丘口地区」の開発概要が明らかとなった。
施設全体の名称は、「桜丘町」「さくら坂」のシンボリックな存在であり、桜を愛する地元の人々の想いや日本人の心を意識して「Shibuya Sakura Stage(渋谷サクラステージ)」に決定したという。
さらにA街区の名称を「SHIBUYAサイド」、B街区の名称を「SAKURAサイド」とし、「SHIBUYAサイド」に建設中の高さ約127m、地上30階建てのA1棟は「SHIBUYAタワー」、約90m、地上17階建てのA2棟は「セントラルタワー」、「SAKURAサイド」に建設中の高さ約127m、地上30階建てB棟は「SAKURAタワー」、B先端棟は「SAKURAテラス」とそれぞれ命名された。施設は今年11月に竣工し、以降順次開業していく。店舗等が概ね出そろうのは2024年7月頃になる見通しで、その頃に「まちびらきイベント」を実施する予定だという。
再開発概要に触れる前に、まず桜丘町の歴史を少し振り返ってみたい。後背地に鶯谷町、代官山町、南平台町などの住宅街を持つ桜丘町は、戦前から食料品や雑貨を扱うお店の多く、とてもにぎやかなエリアだったという。街が大きく変わったのは、1964年の東京五輪開催に伴い、国道246号線が整備されてから。幹線道路によって駅や繁華街と完全に分断され、渋谷駅周辺の発展の波から取り残された経緯がある。もちろん、「孤立化」「ガラパゴス化」は、決してマイナス面ばかりではない。大資本に飲み込まれず、個人経営の小さな飲食店や飲み屋が比較的に多くことや、丘の上のヤマハスタジオを中心に楽器店やライブハウスなどが集積し「音楽のまち」としてのイメージを育んできたことなど、「分断」がまちの個性や独自のカルチャーを形成してきたとも言えるだろう。
そもそも再開発プロジェクトの名称は「桜丘町地区」ではなく、「渋谷駅桜丘口地区」なのは、なぜだろうか?
実は桜丘町から渋谷駅に直結する「改札口を作りたい!」という地元の人々の切なる想いが、この「桜丘口」という言葉に込められているのだ。1964年の東京五輪開催時や、JR新南口の改札供用時など、当時の地権者は幾度なく「桜丘町側にも改札口を作ってほしい」と要望を出してきたが、結果的に実現してこなかった。
「Shibuya Sakura Stage(渋谷サクラステージ)」は今年11月に竣工するが、こうした過去の経緯を踏まえ、JR渋谷駅と直結できる「新改札口」及び「渋谷駅南口橋上駅舎」も順次供用を開始することが決まっている(供用開始時期は未発表)。渋谷フクラスから桜丘方面にかかる「西口デッキ(2Fレベル )」から直結できるほか、JR山手線頭上を跨ぐ形で「SHIBUYAタワー」と「渋谷ストリーム」をつなぐ「北自由通路(3Fレベル)」が新たに誕生し、この通路からも「新改札口(3Fレベル )」へアクセスが可能となる。さらに品川方面にある「JR渋谷駅新南口改札(改札口は閉鎖予定)」と桜丘町側をつなぐ「南自由通路」の開通も予定し、桜丘町からの移動の利便性が一気に高まる。
幹線道路に阻まれ、駅までの利便性が損なわれてから約60年。ようやく、地元の人びとの「悲願」が叶う。再開発事業というと、新しくできる施設ばかりに目が行きがちであるが、桜丘町の場合は「新改札口」の供用開始こそが「主役」と言っても過言ではないだろう。
「渋谷駅桜丘口地区」が今までの4街区と大きく異なるのは、100人を超える地権者の多さだ。他の4街区は旧東横線渋谷駅ホームや線路跡、商業施設の建て替えだったが、桜丘町の場合は、住人や商業者、ビルオーナーなど、多くのステークホルダー(関係者)が関与している。価値観や考え方もそれぞれ立場によって異なるため、一筋縄ではいかない。2008年に準備組合を設立してから、東急不動産を中心に計640回にも及ぶ議論を重ね、実に構想から25年もの歳月を経て、今回の再開発事業にこぎ着けているという。おそらくは、その間には互いの利益や権利を主張し合い、話が進まないこともきっとあったに違いない。四半世紀という時間の長さがそれを物語っている。
特にハイアットが運営する長期滞在者向けの宿泊施設「サービスアパートメント」や、日本語・英語・中国語に対応する「子育て支援施設」、多言語対応の「診療クリニック」など、外国人ビジネスパーソンをターゲットとした取り組みが目立つ。「国際都市」としてのプレゼンスが高める都市機能の導入も、他の街区にはない特徴といえる。
SHIBUYAサイド低層階の「商業施設」のリーシング内容に関しては、今回発表されなかったため定かではないが、約4600坪ある商業施設の延床面積のうち、地権者が持つスペースは約2600坪、東急不動産がリーシングするスペースは約2000坪だという。こうした比率を考えると、整然としたショッピングセンターやモールというよりは、「しぶちか」や、旧東急プラザ地下1Fの「渋谷市場」に近い、雑多な雰囲気が漂う「昔ながらの商店街」のようなフロアになるのではないだろうか。再開発工事で一旦閉店や移転した懐かしいお店が、開業時に戻って来ることを期待したい。
そのほか、オフィスフロアは現在6割くらいの成約が決まりつつあり、「2024年夏のまちびらきまでに満室を目指す」という。主にIT系、クリエイティブコンテンツ系の企業を中心にリーシングを進めているそうだ。「ファイナルファンタジー)」や「ドラゴンクエスト」など、人気タイトルを持つゲームソフトメーカー大手、スクウェア・エニックスが新宿から移転してくるとも言われており、今後の正式発表が待ち遠しい。
編集部・フジイタカシ
渋谷の記録係。渋谷のカルチャー情報のほか、旬のニュースや話題、日々感じる事を書き綴っていきます。