東急百貨店本店、55年の歴史に幕 本店開業はライバル進出がきっかけ
渋谷・東急百貨店本店が1月31日、55年の歴史に幕を閉じた。
19時ちょうど、正面入口で稲葉満宏店長が最後のあいさつを行った。「55年の素敵な出会いに感謝したい。長い間、ありがとうございました」と深く頭を下げると、入口を囲むように埋め尽くす路上の人びとから大きな拍手が起き起こった。そして、多くの人びとが見送る中でシャッターが降りた。
本店の歴史を紐解けば、1967(昭和42)年11月1日、渋谷駅のターミナルデパートとして知られた「東急東横店」から約500メートル離れた渋谷区大向小学校跡にオープンした。
東横店と同じ商圏内にあることからカニバリゼーションを起こし、互いに売上を食い合うことにもなり兼ねない。なぜ、東急はこんな近い場所にもう一つの百貨店を作ったのだろうか?
こうした背景には、1968年4月に開業した「西武百貨店渋谷店」が大きな要因とされている。当初、大向小学校跡には、東京オリンピック後のスポーツへの関心が高まることを見据え、大型スポーツセンターの新設を予定していたが、西武百貨店の渋谷進出を知り、急きょ、東急百貨店の新館建設に計画を変更したと言われている。思わぬライバルの出現が、本店開業を決断させることに至ったというわけだ。
そこで本店は、東横店とターゲットや品ぞろえで差別化をはかる。既存の東横店はターミナルデパートの利点を生かし、「郊外(西)で暮らし、都心部(東)で働く人々」に向け、洋品、雑貨・日用品、食料品など日常使いに重点を置いたラインナップであった。
それに対し、本店は隣接する高級住宅街・松濤エリアも意識し、ファッション性の高い商品、ハイグレード商品などの品揃えに重点を置き、翌年に開業する「西武百貨店」を迎え撃つ格好を整えた。その結果、同じエリアに2つの東急百貨店を共存させる形となったが、半世紀を経て見れば、駅から松濤の住宅街手前まで渋谷の商圏を面で大きく広げるきっかけをつくった。 本店オープンが、渋谷の地域開発に大きく寄与したことは言うまでもないだろう。
上写真は、東急百貨店本店の開業当時だ。屋上には本店開店のタイミングで刷新された、「T」の字をデザインした「東急百貨店の新ロゴ」(1967年〜1973年)が掲出されている。本店の建物外観も、今とは随分と違う。開業から3年後の1970(昭和45)年10月に約2倍(約33000平方メートル)に増築。商品構成を充実すると共に売場構成も広く配置し、さらに大駐車場を完備するなど、若者の街・渋谷という土地にありながらも、中高年層がゆったりショッピングを楽しめる百貨店として注目されるところとなった。
その後、1989(昭和64)年、本店に直結するBunkamuraが開業し、音楽や文化、演劇などの文化施設と一体化する百貨店として機能と規模を拡大し現在に至る。
東横店に続く、今回の本店閉店に伴い、「東急百貨店」ブランドは渋谷から完全に消えることになる。慣れ親しんだ場所やブランドがなくなることは寂しいが、渋谷のなかを見渡せば、東急フードショーや東横のれん街、渋谷ヒカリエ・ShinQs、渋谷スクランブルスクエア東棟の一部フロアなど、東急百貨店が運営する「リアルな売場」は駅周辺にも数多く集積する。業態や形は変化しつつも、その「遺伝子」は確実に受け継がれている。駅周辺の再開発が進むなかで、この10年の間にうまく売場を分散化させてきたことが分かる。
また本店といえば、売場ばかりではなく、「外商」の強さも際立つ。売上高の約4割を占め、富裕層をしっかりと囲い込む商売が確立している。本店の稲葉店長は「後背地には、高級住宅街である松濤があり、いいお客様が非常に多い。お客様の期待に応えるため、閉店テーマを『THANKS & LINK』とし、今までの感謝と共に、今後もお客様との絆を大切にしつながりを続けていきたい、という気持ちを込めた」と話す。顧客と担当がつながる外商においては、本店がなくなった後も、東急グループ全体のリソースを活用し、ショッピングの個別サポートを続けていくという。
特に富裕層を中心に支持の高かった「地下1階のワイン売り場」は、閉店に際して「困る!」「これから私たちはどうすればいいの?」という声が多数寄せられたことから、売場を切り出し、本店に近い松濤エリア路面に独立したワインショップ「THE WINE by TOKYU DEPARTMENT STORE」を構えることが決まった。現在、ソムリエの資格を持つ計8人のスタッフには、数十人の既存顧客がそれぞれついており、過去の購入履歴や好み、家族構成などを把握しながら、個人消費のワインからギフトまで、ワイン選びをきめ細かくサポートしている。新店舗もこれまでのワイン売り場の接客やコンセプトを引き継いだショップとなるという。また、新たに有料試飲ワインサーバーを設け、セルフで気軽に試飲ができるカウンターも用意する。新店舗のオープンは3月10日(金)を予定する。
こうしたかゆいところに手が届くパーソナルショッピングこそが、長期にわたって顧客との信頼関係を築いてきた本店ならではの「強み」と言える。消費がますます個性化、多様化する傾向のなかで今後、そのノウハウを生かした商売は一層、需要が増していくのではないだろうか。
百貨店の閉店と聞くと、一般的に「経営が厳しかったのかな?」「百貨店業態はもう無理でしょう」というネガティブな見方が強いが、「東急百貨店本店」においていえば、かなり前向きな閉店のようにも感じる。一方で同時期に開業した「西武百貨店」は、米投資ファンドへの売却が決まっており、今後の動向が気になるところだ。
本店は今春以降に建物を解体し、その跡地には2027年度の完成を目途に地上36階建ての複合施設「Shibuya Upper West Project(渋谷アッパー・ウエスト・プロジェクト)」が建設される。商業や外資系ホテル、レジデンス(住宅)などで構成される施設となるが、東急百貨店がどう絡むかは、今のところ明らかとされていない。
編輯部 - Fujiitakashi
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