アツい戦いが繰り広げられる即興アートバトル、筆ロックって!?
かなり活気の戻ってきた感じのある渋谷の街。さまざまなイベントが行われ始めた7月16日、17日に道玄坂の中程にある老舗クラブ、渋谷CONTACTで2日間にわたるフェス型アートイベント「筆ロック3」が行われました。
“子どもから大人までプロアマ問わず、誰でも参加可能な即興アートバトル” それが筆ロックのコンセプトです。
もともとストリートダンスバトルから着想を得て始めたというこのアートバトル。 観客が見守る中、1on1(1対1)もしくは2on2(2対2)でテーマに沿った作品を即興で完成させ、トーナメントを勝ち抜いたアーティストが優勝。制限時間は5分(2on2は6分)。DJが流す音楽をBGMに、画材も画風も自由なバトルが繰り広げられます。バトル毎に来場者から選ばれた5名の審査員が好きだった作品を選ぶ多数決で勝敗が決まるという、アーティストとしての技術はもちろん、審査員の主観が影響することから、運の要素も加わるのが面白いところです。さらに、気に入った作品はアーティストとの交渉次第で購入可能というのは観覧する側にとっても作品により入れ込むきっかけを作ります。
第3回目となった今回は2日間に渡るフェス形式での開催となり、従来の1on1、2on2バトルに加え団体戦やミュージシャンとのコラボライブペインティングや物販ブースの出店に、通路でのライブペインティングと盛りだくさんの内容となり、2日間を通してバトル参加者と観戦者を合わせて約250名が会場を訪れました。
今回から1on1では立体作家のエントリーも解禁したことで、勝負はさらに混戦を極め、粘土作家や生け花作家などがわずか5分の間に立体作品を作り上げる様子に会場は大盛り上がりでした。
各試合、時間制限が終わると壇上の選手達は息が切れていることも多く、バトルのハードさが伺えます。観客が見つめる中、限られた時間の中、真剣勝負で「絵を描く」「作品を作る」ことはもはや一つの身体表現なのだと圧倒されました。
|様々な表現が交錯することで広がるイベントの世界観
通路でのライブペイントも行われていた会場内は独特な雰囲気。物販ブースで自作のタトゥーシールを販売していたGONZOさんは、会場の盛り上がりをみて、次回は参戦したいと語っていました。
初参加の書道家 未佐子さんは
「2on2のバトルに初めて参加しました。字を絵として表現してみるというのは面白かったです。パートナーのトウマシキさんはスプレーで作品を描く方なので、わたしが字を書いた上からスプレーで描いていくという作戦にしました。普段は静かな環境で作品を書くため、ガンガンに音楽が流れる、こういうアンダーグラウンドな場で作品を作り上げるのは新しい経験で楽しかったです。流れる音楽に寄せて字を書くことを意識するのも初めての経験でした」
同じように墨を使用する墨絵師のyoshimiさんは
「白黒の表現にこだわりました。墨の濃淡と紙の白だけで繊細な表現を時間内にどこまでできるかが挑戦でした」と語ってくれました。
話を聞けば聞くほど、それぞれの拘りが感じられます。
今回、ライブ演奏からインスピレーションを受け、ライブペインティングをするという試みも行われました。ステージ上のミュージシャンを囲んで絵を描く人々。それを見つめる観客というのはなんとも不思議な光景でした。見ようによってはモデルをデッサンしているようにもとれるけれど、描かれるのは音楽に呼応したイメージ。
「ライブペインティングとのコラボはしたことがあったのですが、自分が歌う目の前でライブペインティングをしてもらうのは初めてで不思議な緊張感がありました。音楽を届けるより一緒に作り上げる感じがして、歌詞に呼応したモチーフや色が作品に反映していて感動しました」
2日目に弾き語りライブを行った宏菜(ひろな)さんにとっても初めての経験。美しく繊細な歌声、優しい歌詞に呼応したように、出来上がったのは淡い色調の作品たちでした。 同じく2日目にライブを行った3ピースバンド 『それ以染(いぜん)に』 の音楽は、宏菜さんとは対照的なスピード感のある力強いサウンド。出来上がった作品もとても勢いがありパワーが感じられるものが多く見受けられました。
よく考えれば、音楽と絵画、どちらも身体で表現をするという共通点があり、コラボレーションだからこその世界観に観客も引き込まれていったのではないでしょうか。
|戦う中で生まれるアーティスト同士の絆も魅力
17組(34名)が登場した2on2は「キュート」というテーマで決勝がスタート。Samuraidenki は踊りながらペンと絵の具を駆使して描くスタイル。最初に20秒のソロを踊るというエンターテイナー精神も見せてくれました。
一方のイシヤマナツ&幹夫800ペアは交互に指で描くというスタイル。女の子のモチーフに化粧をしているようにも見えました。4票差という僅差で優勝したイシヤマナツ&幹夫800ペアの幹夫800さんは優勝インタビューで思いの丈を語りました。
「もともと物販ブースだけの参加予定でしたが、飛び入り参加をしました。心臓バクバクでしたが、皆さんに背中を押してもらって参加できて感謝です!」
イシヤマナツ&幹夫800ペアvs. Samuraidenkiのバトルの様子は動画でご覧いただけます。
そして参加者総勢64名、1日目と2日目に分けてトーナメントを行った1on1の決勝戦のテーマは「チャンピオン」。淡い色合いの作風が印象的なお赤飯さんとダイナミックに色を重ねていくイシヤマナツさんの対決は37対29という僅差でイシヤマナツさんの優勝となりました。どちらも裸足で指や手を使って絵の具を塗っていきますが、仕上がりはまるで違うのも興味深いポイントでしたが、最後はお互いを讃えあって終わる姿に胸が熱くなりました。
実はイシヤマナツさんは前回の1on1準優勝、2on2優勝という強者。今回は満を持しての2冠となりました。
終了後に感想を聞くと「わたしは耳が不自由なので喋るのは得意じゃないけれど、絵の中で手話の動きを表現してみました。どこまでも高く登っていく火の玉をイメージしました。今回はただ描くだけではなく概念的なことも伝えられるように意識をしました。 次も出ます!挑戦者待ってます!!」
晴れやかな笑顔にこちらまで楽しい気持ちに。
コラボミュージシャンによる賞、協賛しているスイスの筆記具ブランド カランダッシュ賞、団体賞、通路ペイント賞など多くの賞が用意され、受賞者からは「作品を褒めてもらい自信がついた」といったコメントも聞かれました。
最後には参加者の告知タイムが設けられており、イベント告知や参加募集、SNSフォローを呼びかけるアーティストも。このイベントを通して、普段繋がることのない他ジャンルのアーティスト同士の絆が深まるのも大きな魅力です。
「筆ロック3」のトーナメントBEST4に残った4名のアーティストは副賞として、東京都小岩の日本酒専門店ナダヤ酒店とのコラボレーションが決定しています。11月16日に開催される「Brush Tomato(ブラッシュトマト)」というイベントでは、プライベートブランド日本酒のオリジナルラベル制作に向け、ナダヤ酒店店主 渡部知佳(わたべともよし)さんが4名のイメージに合わせ厳選した酒蔵を発表するそうです。当日は4人の即興アートバトルも観られる可能性も。日本酒 x アートが豪華な共演を果たす一夜、興味のある方は詳細を這個方向からご確認ください。
|どんどん進化していく筆ロックのこれからは全国展開!?
主催の田ノ岡高志さんに今後の展開を尋ねると 「確実にバトルの幅が広がってきています。みなさんvol.1から上手だったのですが、さらに制作過程を魅せることを意識する人や、アイテムを駆使する作家さんが現れました。書道勢や、パフォーマンス勢といった属性のようなものが見えて、対決もより熱くなりました。表現手段の分布が縦にも横にもグッと広がった印象です。毎回出てくださっている作家さんが変化・成長していくのも見どころ。“子供から大人までプロ・アマ問わず“というコンセプト通り、毎回誰でも安心して挑戦してもらえる、開かれた大会にしていきたいです。練習会をいろんな場所でやったり、派生イベントを増やしたり、気軽に参加してもらえる機会をもっと増やせるようにしていきたいです」
制限時間の5分で作品を仕上げるのはとても難しいため、8月からは“ミニ筆ロック練習会”が毎月行われるようになりました。有志が集まってトーナメント方式でミニアートバトルを繰り広げます。初めての方の参加も大歓迎だそうですよ〜。興味のある方はぜひ練習会に参加してみては!?
2023年には筆ロック関東大会を開催します。関東各地で予選を行い、7月には渋谷で決勝大会を開催予定です。同じく来年の夏には愛知版筆ロックも行われ、本家とは少し趣向を変える予定だとか。
YouTubeチャンネル『筆ロックFuderock』ではバトルの様子だけではなく、座談会の様子など活動が定期的にアップされ、アーティストそれぞれの思いなども知ることができます。 常に進化していく筆ロック、次回の開催がすでに楽しみです!
イトウノリコ(tannely)
結婚、出産を期に渋谷に移り住んで15年。人生は飲む食う楽しむ!誰かの面白いが他の誰かの面白いにつながるのが大好き。ライターと並行して翻訳や制作も行っています。