渋谷ヒカリエにシェア型書店オープン! 大型書店が姿を消す渋谷で、新たなブックカルチャーの動き
かつて渋谷といえば、公園通り・マルイ隣の「大盛堂書店本店」(現在のZARA)や、東急文化会館の「三省堂書店」、田園都市線に直結する「旭屋書店」(現在のヴィレバン)、東急プラザの「紀伊国屋書店」(現在、西武渋谷店A館7階に移転)、文化村通りの「ブックファースト」(現在のH&M)、パルコの「パルコブックセンター」、渋谷駅東口と南口に2店舗あった「山下書店」など、駅周辺には大型書店が数多く存在し、渋谷は「本の街」としてのイメージがとても強かった。書店を何軒かハシゴしながら、本探しを楽しんだ記憶を持つ人もきっと少なくないだろう。
上で述べた書店のうち、現在も残っているのは、西武渋谷店に移転した「紀伊国屋書店」くらい。2010年、桜丘町・JTB渋谷支店跡に「あいおい書店」、文化村通り・東急百貨店本店7階に「丸善&ジュンク堂書店 渋谷店」が新たにオープンし、やや枯渇感は和らいだかと思えたが、2018年に桜丘地区の再開発に伴い、「あいおい書店」は閉店。さらに2023年1月には、東急百官店本店が56年の歴史に幕を下ろすことも決まっており、大型書店がまた一つ姿を消すことになる。本好きにとっては、とても寂しいものだ。
さて、大型書店がなかなか根づかない昨今の渋谷だが、その一方で「ブックカルチャー」の灯を守るべく、ユニークな書店も新たに生まれている。10月8日、渋谷ヒカリエ8階にオープンしたシェア型書店「渋谷〇〇(マルマル)書店」だ。
「シェア型書店」というのは、個人に「棚」を貸し出し、一棚一棚の異なる「棚主」で共同運営する本屋のこと。要するにアパートやマンションと同じで、借り手は家賃を払い一棚を借りて、自分の好きな本を集めた書店を自らがオーナーとなって開くことが出来るというもの。「渋谷〇〇書店」には現在、高さ37×37×32センチメートルの大きさの棚が全部で約130個あり、そのうち半分が既に埋まっている。一棚あたりの家賃は月4,950円(税込)で、最短3カ月以上からの利用が条件となっているという。
現在、出店中の書店は、ヨガインストラクターが運営する「カラダ書店」や、コミュニティーづくりを仕事とする人が運営する「コミュニティー書店」、チーズバーの店主がチーズの専門書を集めた書店、すべて1巻の本して置いていない「きっかけ書店」など、「渋谷〇〇書店」の「〇〇」に当てはまる棚主の「こだわり」や「偏愛」をテーマにしたユニークなお店が数多く並ぶ。一棚一棚を覗いてみるだけでも十分に楽しめる。この棚主は何が好きなのか、どんな仕事をしている人なのか、男性なのか女性なのかとか……、本棚を見てその人の性格や嗜好、人物像をイメージしてみるのも楽しい。また、その中に自分の趣味趣向と一致する本を見つけたら、新しい友を得たようなうれしい気持ちにもなるに違いない。
売買はメルカリなどと同じで、売主と買い手の個人間取引で行われるため、本の値付けは、各棚主に委ねられていて様々。中には多くの人に見せびらかしたいけど、絶対に売りたくない絶版に近い貴重な本もある。そういう一冊には、売れないようにかなり高い値段を付けているという。それじゃ儲からないし、「そもそも出店するなよ!」と突っ込みを入れた人もいるかもしれない。が、同書店の一番の魅力は、そこにある。ビジネスとして古本屋を営むのとは異なり、同書店が提供するのは「本」を通じ出合う棚主と棚主、棚主とお客さんとのつながりや、お互いの偏愛やこだわりを交換し共有し合う場なのだ。各棚主はシフトで書店員として実際にお店に立ち、直接お客様とコミュニケーションをとることもできる。そんな「偏愛コミュニティー」の形成を心地よく感じる人びとが、自ずとここに集まってくる。ある意味、同好会やサークルに近い存在ともいえる。
同書店にはユニークな仕掛けが随所に見られる。まず一つは、本棚の壁の中に隠し部屋的な個室が2カ所ある点だ。
「楽」と「園」と呼ばれる各個室は、大人一人が入れるくらいの空間で座ったり、寝そべりながら、人目を気にせずにのんびり読書に没頭できる。まさに遊び心に富んだ仕掛けといえる。
もう一つは、「改造した屋台自転車」だ。同スペースの「顔」ともいうべき、中央に設置された同自転車は、書籍をアピールするメイン展示台となっている。
現在はオープン記念企画として、ロングライフデザイン活動家であるナガオカケンメイさんの愛すべきこだわりの書籍を、この荷台の上に展示し販売を行っている。民藝や建築、食に関する書籍からマンガまで、ナガオカさんを形成してきた一部を垣間見ることが出来るラインナップがそろう。今後、数カ月ごとに著名人や文化人などに依頼し、こだわりの本の展示販売を行っていく予定だという。
また、この自転車は展示台として活用するほか、今後、屋外に自転車で書籍を運び、渋谷の街で「出張書店」も開催してきたいという。渋谷川沿いの遊歩道やヒカリエデッキなど、青空の下での野外イベントは想像するだけでも楽しそうだ。新たな渋谷カルチャーの発信として期待して待ちたい。
インターネットの普及で、ぺージをめくり、紙の手触りや匂いを感じながら本を読む機会が減っている今、各棚主の「偏愛」を通して、紙、本の魅力に改めて触れてみてはいかがだろうか。コロナでしばらく遠ざかっていた人と人との結びつきや、コミュニケーションの面白さをきっと思い出すことだろう。
営業時間は12時〜18時、不定休。
<公式サイト>
https://www.hikarie8.com/books/about.shtml
編集部・フジイタカシ
渋谷の記録係。渋谷のカルチャー情報のほか、旬のニュースや話題、日々感じる事を書き綴っていきます。