渋谷に広がりゆくリーガル・ウォール
先日、取材中に宮下公園で目にした「KOMPOSITION」というマーク。皆さんご存知ですか? これは、リーガル・ウォールと呼ばれ、いわば“合法的な壁”の証明なんだとか。
じゃあ何を法的に許可されているかというと、渋谷の街でもよく目にする、壁やガードレールに書かれた落書き、つまりは、グラフィティアート。もともとは1960年代後半にNYのストリートに端を発し、70年代以降に地下鉄のアートとして広まり、その後は、ヒップホップの要素として不可欠なものになっていったといわれています。
グラフィティアートは、許可なく、人家や店、公共物などに作品を描くため、描かれた側は、自力で落書きを消すことを余儀なくされ、また、街の景観を乱すなどの理由からも、問題視されることがしばしば。確かに、街を歩いていても、「不快だな…」と思う落書きを見かけることもありますが、しかし、中には、そこら辺の美術作品に勝るとも劣らない、魅力的なものがあるのも事実。個人的には、ひとつのアートとして、十分すぎるほど楽しませてくれるパワーを持っていると思います。
こうした、“表現したい若者”と“対応に手を焼く大人”の双方に、解決策を講じたのが、NPO法人「KOMPOSITION」が2003年から行う、リーガル・ウォールという取り組みなのです。これは、落書きされた壁をボランティアで消し、清掃された壁をキャンパスとして使おうというもので、当初は、渋谷区から認可がなかなか下りなかったものの、懸命な清掃活動の結果、現在では、渋谷周辺の5ヶ所・13の壁にまで広がっているのだそう。
と、ここまで書いてきて思い出したのが、「TAKI183」という、グラフィティアートに青春をかける若者たちをテーマにした映画。作中、もっとも印象的なのが、“明日取り壊される”ことが決まっている空き家の壁に向かって、一心不乱に作品を描く主人公たちの姿。そこは、彼らにとってかけがえのない思い出の場所でもあるのですが…。絵もオブジェも建築も音楽も、すばらしい作品は、「何十、何百年も後生に残る」というのが、世の常。そんな中、数時間後になくなることを知りつつも、この世に生み出されるグラフィティアートは、「今」を何よりも重要視するアートだといえるのかも。それゆえ、作り手の魂が込められた、強い輝きを放つ作品が多いのかもしれません。
話は戻って、グラフィティアートに詳しい友人によると、「もともと反逆性の強い文化だけに、法的に守られていることに反発してリーガル・ウォールに描かない奴もいると思う。ただし、日本は、NYに比べてシーンが圧倒的に遅れていて、グラフィティライターが、その後アーティストとして育つような土台もないから、こうした活動を機に、少しでもシーンが盛り上がってくれたらいいよね」とのこと。
何はともあれ、街中をキャンパスとして彩り、結果として若いアーティストの育成にもつながる同プロジェクト、今後の活動にも是非注目していきたいところです。
編集部・K
1980年東京生まれ。中央線文化育ちの、筋金入りの文化系。でも最近、女子力アップのためホットヨガを開始しました。