渋谷に増える「新ストリートアート」 コロナ禍のまちを彩る
長引くコロナ感染拡大の影響でシャッターを閉じるお店も多く、渋谷のまちの風景も変わりつつある。また、コロナ禍による行動規制で美術館に行ったり、ライブやイベントを楽しんだりする機会も減り、「エンタテイメントシティ」を掲げる渋谷にとっては、非常に危機的な状況が続いている。
こうした中で街を彩り、人をつなぐ役割を果たしているのが、屋外の「ストリートアート」ではないだろうか。従来から渋谷には、「忠犬ハチ公像」をはじめ、「明日の神話」「モヤイ像」「こどもの樹」など、街中にパブリックアートが数多く点在している。が、コロナ禍によるニューノーマルが2年目を迎え、従来のブロンズ像や壁画、レリーフなどの作品のほか、デジタルサイネージや工事仮囲い壁面など、新たな媒体や様々なスペースを利用したストリートアート作品が街中に増え始めている。密になりにくい屋外、かつ入場料を払わずとも、道行く人びと誰もが目にすることが出来るストリートアートやパブリックアートは、先行きの見えにくい状況下の中で街に彩りを加え、多くの人びとに元気やエネルギーを与える存在となっているのではないだろうか。
<関連記事>
・渋谷のパブリックアートMAP(2013年10月22日掲載)
そこで今回は、渋谷のまちに新たに設置されたパブリックアートやストリートアートをチェックしてみたい。
1.工事仮囲いやサイネージを利用した「渋谷ストリートギャラリー」始動!
「渋谷=まち一体で若手アーティストを育てるまち、小さな発見や楽しみが日常の中にあるまち」というイメージの発信を目指し、3月から「渋谷ストリートギャラリー」をスタートさせている。
渋谷区や一般社団法人渋谷未来デザインの後押しを受けている同プロジェクトは、渋谷区観光協会や各商業施設、メディアサービス会社、工事関係会社などのサイネージ等を活用してアート作品を掲出し、渋谷の街全体をギャラリー化するというもの。展開場所は、渋谷駅前工事仮囲いや渋谷駅東口地下広場、渋谷区役所本庁舎、SHIBU HACHI BOX、渋谷スクランブルスクエア、渋谷ヒカリエ、東急プラザ渋谷、QFRONT、西武渋谷店、渋谷モディ、渋谷PARCO、MIYASHIYTA PARKなど、25スポット以上を数える。
第1弾となる今回は、シンガーソングライターでクリエイターのSETA(セタ)のイラスト展「ヨコガオ展」が開催されている。2021年11月まで続く同展では、毎月2作品をSETAさんが、同プロジェクトの趣旨に賛同する著名人や、渋谷にゆかりのある人びとをモデルにヨコガオを描いていく。
現在5点の作品が既に掲出されているが、著名人ではシンガーソングライター・小田和正さん、お笑い芸人・EXITさん、小説家・瀬尾まいこさん、渋谷にゆかりのある人物では、桜丘口地区の再開発工事現場で働く女性がモデルとなっている。
今後どんな方々のヨコガオが渋谷のまちに増えていくのか、楽しみである。
2.ジュリアン・オピー新作が駅前に出現! コロナ禍に希望の灯りを
イギリスを代表する現代アーティストであるジュリアン・オピーさんの新作パブリックアート「Night City」が現在、渋谷駅東口の21番エレベーター外壁に大きく掲出され、道行く人びとの注目を集めている。
開催中のファッションとアートを発信するイベント「渋谷ファッションウイーク(以下、SFW)2021春」の「スペシャルアートプロジェクト」として展示。ジュリアン・オピーさんの新作は、漆黒の背景に様々な色彩を持つ人びとの姿をシンプルに描いたもの。世界的なパンデミックが暗い影を落とす時代にあっても人びとの生命エネルギーは、闇を照らす希望の灯りのように輝き、生き生きとした色彩で都市の風景を彩っていく、という願いを込めた作品となっている。展示期間は3月31日まで。
3.JR山手線高架下に新作アート完成。ヒロ杉山らが参加
2017年から「命を救うアート」として「渋谷アロープロジェクト」がスタート。3.11以降、災害に対する意識が高まる中で、渋谷区の一時避難場所(青山学院大学、代々木公園)の位置を、外国人を含めた来街者に広く知ってもらうことを目的に、人びとの注目を集めるアート性あふれる「矢印サイン」を区内の必要な場所に設置し、言葉を必要としない避難誘導を支援するというもの。5か年計画で進む同プロジェクトには、これまでミック・イタヤさん、しりあがり寿さん、伊藤桂司さん、小町渉さん、河村康輔さん、植田工さん、森本千絵さん、東恩納裕一さんが参加し、矢印をモチーフにしたアート作品を手掛けている。
今回、JR山手線高架下(渋谷宇田川架道橋下)に新たに追加で伊藤陽一郎さん、大竹彩子さん、NABSFさん、ヒロ杉山さんの計4人のアーティストが参加し、3月4日から15日間かけて新作アート作品を完成させた。
「アート」と「命を守る」を両立する渋谷らしいストリートアートとして注目だ。
4.第二のハチ公像を目指す「新パブリックアート」
昨年7月にオープンした「渋谷区立宮下公園(MIYASHIYA PARK)」の屋上は、青い芝が生い茂る公園スペースが広がる。
渋谷駅からもっと近い都会のオアシス、さらにコロナ禍の貴重な屋外スペースとして人気を博している。この園内には、忠犬ハチ公像をモチーフにしたアートワーク「渋谷の方位磁針|ハチの宇宙」が設置されている。
アーティスト鈴木康広さんが手掛けた同作品は、道行く人びとに方角を知らせるコンパスの「針」のような存在と位置付けられる。国内外の様々な場所からやってきた人びとが、ここで出会い、新たな未来へ向かう、という意味が込められているという。
ここに座って本を読んだり、休憩したりしてもいい。また、上野博士を待つハチ公のように誰かをここで待ち合わせてもいいだろう。
屋上空間のオアシスが宮下公園なら、水辺空間のオアシスは、渋谷ストリーム沿いの新遊歩道「渋谷リバーストリート」だ。
東急東横線の線路跡地を整備して生まれた同ストリートは、かつてのどぶ川、高架下のうす暗いイメージは一切なくなり、開放感あふれる気持ちの良いスペースが広がる。昨年12月に同遊歩道上に、アートディレクター千原徹也さんが手掛けたパブリックアート「KISS,TOKYO(キストーキョー)ベンチ」が設置された。
「I ♥ NY(アイ・ラブ・ニューヨーク)」に着想を得て、東京を愛する気持ちを表現したり、東京を訪れる人にウェルカムな気持ちを発信するプロジェクトの一環として、KISS,TOKYO」のロゴを形どったベンチ型オブジェが実現。インスタ映えする渋谷の新しい観光名所として、期待が寄せられている。アフターコロナで外国人観光客が増えてきたら、きっと忠犬ハチ公像と同じく渋谷のフォトスポットの一つとして人気を博することだろう。
<関連記事>
・駅からもっと近い都会のオアシス「宮下公園」復活、芝生で寝転んでのんびり過ごす(2020年8月3日掲載)
・渋谷川沿いの遊歩道上に「KISS,TOKYOベンチ」設置 「渋谷の新名所」を目指す(2020年12月25日掲載)
・渋谷に新しい待ち合わせスポット誕生 「デジタルハチ公」「ラブベンチ」(2019年12月13日掲載)
編集部・フジイタカシ
渋谷の記録係。渋谷のカルチャー情報のほか、旬のニュースや話題、日々感じる事を書き綴っていきます。