渋谷センター街の屋外広告は時代を映す鏡、「IKEA」の看板がついに登場!
コロナ禍で連日、渋谷スクランブル交差点はテレビ中継されている。コロナ疲れやコロナ慣れのせいか、近頃は渋谷のまちに人出が戻り始めているな……、その映像を見ていて、あることに気が付いた人もきっと多いに違いない。渋谷センター街入口の頭上に掲出されていた「Forever21」の巨大な屋外広告が、「IKEA」と差し変わっているではないかと。
既にネットニュースなどで知っている人も多いと思うが、渋谷に今冬、スウェーデン発の家具チェーン「IKEA」が都市型店舗をオープンすることを発表している。場所は、渋谷駅から徒歩5分、まさに屋外広告を掲出する渋谷センター街の地上8階建ての高木ビルディングだ。
IKEAといえば、三郷、立川、港北、船橋など、今までは郊外の大きな敷地に大型店舗を構えて、車での来店客を狙う商売スタイルであった。ところが、今年2月に道玄坂に法人・ビジネスオーナー向けのプランニングスペース「IKEA for Business」、6月にはコロナ禍の中、原宿駅前の新複合施設「WITH HARAJYUKU」の1階路面に「IKEA原宿」を出店し、小型店ながら初の都市型店舗を構えた。
従来はファミリー層が主なターゲットであったが、渋谷、原宿への出店を機に若者層へのアピールを含めて、すそ野を広げていくのだろう。
渋谷スクランブル交差点から見える巨大な屋外広告は、同ビルに出店するメインテナントが今まで広告を掲出してきた。ある意味、「時代を映す鏡」のような存在といえる。
歴史を振り返ってみれば、1995年〜2010年は同所にレコードショップ「HMV」の旗艦店があった。
もともとHMVはイギリスから日本に上陸し、1990年に日本第一号店を文化村通りの商業施設「ONE-OH-NINE」に出店。その後、渋谷センター街に移転し、90年代に一大ムーブメントを巻き起こした「渋谷系音楽」の火付け役として大きな影響力を持つ。
ところが、2000年代にiPodなどのデジタルオーディオプレーヤーが台頭し、2007年にiPhone(初代)が発売され、音楽業界はCDからダウンロードの時代へと変わっていく。こうした劇的な変化に伴い経営不振にあえぐ中、HMVジャパンは2007年、日本部門の事業を大和証券エスエムビーシープリンシパル・インベストメンツへ売却、2010年にはローソンへ再売却され、店舗の閉店を余儀なくされた。
2010年、「HMV渋谷」跡に出店したのは、米ロサンゼルス発のファストファッションブランド「Forever21(フォーエバー21)」である。
2009年、H&M旗艦店が文化村通りにオープンしたのに続き、渋谷センター街にForever21が出店し、ZARAやGAPなども含めて、渋谷は海外ファストファッションが集積するエリアへと一気に変貌を遂げる。かつて渋谷の若者ファッションといえば、DCブランドや渋カジなど、ブランド性へのこだわりが強くあったが、バブル崩壊以降に生まれた世代は、経済不況を背景に「見栄え」よりも「コスパ」を重視する傾向が高く、ファストファッションを後押しする形となった。それから約10年を経て、ファストファッションは定着する一方、日本から撤退を余儀なくされた企業も出てくるなど淘汰が進む。中でもForever21は2019年に経営破綻し、日本を含む世界40カ国から撤退した。
ここまでお話してきた通り、渋谷の一等地である渋谷センター街の同ビルは、その時代を象徴する、もっとも勢いある海外ブランドが常に旗艦店を構えてきた歴史がある。
今冬にオープンする「IKEA渋谷」は新たな歴史を刻むことになるが、ぜひ末永く渋谷のショップとして定着してくれることを願いたい。
ちなみに渋谷店は、どんなショップになるのだろうか。
フロア構成は1〜7階、広さは4,800平方メートル。先行してオープンする原宿店と同じく都市型店舗のコンセプトの延長線上にあり、キッチンから寝室、リビングまでホームファニシングのアイデアや、都市での暮らしに便利な商品をそろえる。
約2500平方メートルの原宿店で約1万1000点を扱っているため、その倍近い広さを持つ渋谷店では、それよりも多いラインナップが期待できそうだ。また、郊外店ではマイカーでの持ち帰りが主流であるが、都市型店舗では店頭でのオンラインにも力を注ぐ。そのほか、IKEAといえば、フードも楽しみの一つであるが、渋谷店でもそうしたフードを提供するエリアができるという。
2017年にニトリが公園通りに店舗を出店しているが、IKEAのオープンで渋谷におけるホームファニチャー色が高まりそうだ。コロナ禍でおうち時間が増える今、リビングの見直しをする人も多いことだろう。今まで「渋谷でインテリアを買う」というイメージはなかったが、この冬からは選択肢が増えそうだ。
編集部・フジイタカシ
渋谷の記録係。渋谷のカルチャー情報のほか、旬のニュースや話題、日々感じる事を書き綴っていきます。